第四十九話 崩壊粒子砲とオマケアイテム
ギルドでの話が終わった後、俺は宿に直帰した。
ジーナの実力なら、ワンチャン既に「崩壊粒子砲」が完成していてもおかしくない頃だが——果たして進捗はどうだろうか。
などと思いつつ、俺はジーナの作業部屋のドアの前で一瞬立ち止まったが——しかし、結局俺は部屋を素通りすることにした。
「崩壊粒子砲」は、極めて精密に彫らなければ完成しない武器。
そのような武器を作っている最中の場合は、ドアのノックすら集中の妨害になりかねないのだ。
既に完成してればいいが、万が一まだ製作途中だった場合は、その一瞬の集中の途切れで武器が失敗作になってしまいかねない。
そのリスクを考慮すれば、ジーナの方から「終わった」と声をかけてくるのを待つ方が良いと言えるだろう。
というわけで、俺はまず自分の部屋に戻ろうとした。
しかし……自分の部屋のドアには、こんな貼り紙が。
「例の魔道具、完成しました。机の上に置いてます」
普段はこんな貼り紙、貼ってあることなんてないんだがな。
もしかして、「崩壊粒子砲」が普段とは格が違う魔道具であることに感づいていて、俺が作業の邪魔をしないようにと考えることを見越しでもしたのだろうか?
とにかく、さっきの心配が杞憂であることは確定したので、見に行ってみるか。
そう思い、俺はジーナの作業部屋に引き返してドアを開けた。
ドアを開けると、机の上には宝石のように輝くハンドガンが置いてあった。
この懐かしい見た目は、間違いなく「崩壊粒子砲」そのものだ。
成功作であることはほぼ確信できているが……いざ強敵と対峙した時に、万が一ということがあってはならないからな。
一応、検品はしておくか。
そう思い、俺は「崩壊粒子砲」の安全装置に触れ、微弱な魔力を流しながらレバーを動かした。
すると「カチャリ」という、安全装置が外れる音が。
——間違いない。これは完全に成功作だ。
「崩壊粒子砲」はその性質上、成功作でなければ安全装置を外す動作すらできない。
言い換えれば、安全装置が外せたということは、実射も可能ということを意味するのだ。
流石ジーナ、やはり期待通りのものを仕上げてくれたな。
俺は出来たての「崩壊粒子砲」を、そのまま「ストレージ」にしまうことにした。
「崩壊粒子砲」は半端なチャージでは撃つことができない仕様だし、今の俺では「国士無双」を発動しなければ発射に足る魔力チャージができないので、安全装置を外したままでも誤射する危険はゼロだからな。
そうこうしていると……コンコンと、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「はーい」
「あ、やっぱりジェイドさん帰ってきたんですね〜」
返事をすると、ジーナが眠そうな声で欠伸をしながら入ってきた。
この短時間でこんな難しい魔道具を彫った後、昼寝する時間までとれたのか。
いや……どっちかといえば、眠りにつこうとしたところだった感じだろうか。
別に俺を出迎えなくても、ゆっくり休憩しといてもらっててよかったんだがな。
「この魔道具、無事正常に動作しましたよ。実はこれ、一流の武器屋が製作しても完成率は30%程度のものだったのですが……先ほど作動の確認ができました」
「そんな難しいものだったんですか!? なんで最初に言ってくれなかったんですか……」
「普段通りのジーナさんの実力なら、確実に成功すると思ってたんで。余計な緊張を与えないよう、敢えて言いませんでした」
「そ、そこまで信頼してくださってたんですね……。ところでこれ、何の魔道具なんですか?」
「街一つを焦土にできるくらいの威力が出せる、高エネルギーの粒子砲です」
などと説明していると……ジーナの表情が固まった。
「……はい!? そんな威力の魔道具の魔道具だったなんて……って今、作動の確認をしたって言いましたよね!?」
「あっ、それは安全装置外しただけです。この魔道具の場合、安全装置解除ができれば実射も可能なことが分かるので」
「安全……装置……?」
「これです」
慌てるジーナに、俺は「ストレージ」から本体を取り出して説明を加える。
「ああなるほど……びっくりしました。でもそんな威力だと、逆に扱いづらくありませんか?」
「まあ、普段は使わないですね。これは非常用です」
まあ、「上空に移動してから真上に向かって撃つ」などすれば実射での確認もできなくはないんだがな。
そこまでするメリットが無いし、そのためだけに「国士無双」を一回消費するのも無駄だしというわけでやらなかっただけだ。
だいいち、そこまでやろうと思ったらまず無双ゲージを溜めるとこからやらないといけないしな。
などと考えていると……ジーナが話題を変えた。
「そういえば私……この魔道具を完成させてから昼寝をしようとしていると、変な夢を見たんです」
「……どんな?」
「さっきの魔道具の削りカスを再結晶化して、見たこともない魔法陣を刻む夢でした。まあ、だから何だって話ですけど……一応報告だけしようと思って」
「その夢は……!」
夢の内容を聞いて、俺は一つの可能性にピンと来た。
これは……何か革新的な魔道具ができてもおかしくはないぞ。
そう思った理由は一つ。
それは、夢で見た魔法陣から新たな魔道具が発明されるというのが、NSOでの「チェンジ」の発見経緯そのものなのだ。
NSOでは、プレイヤーが潜在能力解放の劇薬を呑んだ際、昏睡状態になった中で夢に見た魔道具が「チェンジ」だった。
だからNSOの世界の人間が見る夢の内容は、割と馬鹿にならない気がするのだ。
ジーナが「見たこともない魔法陣」という以上、夢に出てきたのは間違いなく「チェンジ」ではない。
つまり俺たちは、未知の魔道具の発見目前にいる可能性があるというわけだ。
「それ、やってみましょう! 夢の中の魔法陣、覚えていますか?」
「え、ええ……覚えてはいますけど、本当にやるんですか?」
幸いにも、ジーナは夢で見た魔法陣をしっかりと記憶できているようだ。
……完璧だな。
「スキルコード1999 『魔石再結晶化』取得」
俺は「崩壊粒子砲」の削りカスを再結晶化するスキルを取得し、アルムコアより一回り小さい魔石を作り出した。
さて、どんな魔道具ができることやら。