第四十六話 武器の新調、そして謎の夢への期待
宿に戻る道中。
俺はアルムコアの最善の使い道は何か、真剣に考えた。
アルムコアを使って作る魔道具で最も代表的なのは、広域魔物弱体化魔道具だ。
アルムコアを用いた広域魔物弱体化魔道具は、恒久的に半径数千キロの魔物の戦闘能力を2割落とすというとんでもない能力を持つ。
およそ国全体の魔物の能力が、魔道具が壊されない限り永遠に2割も落ちるのだ。
もはや一個人にとっての戦闘アイテムなどではなく、軍事用の戦略級兵器とも称するべきものだろう。
冒険者にとって戦いが楽になるのはもちろんのこと、国単位でデバフをかけられるとなれば、安全を求めて他国民が移住してくる等国際政治面でも大きな利点を持つことになるのだしな。
まさに、反則的と言っても過言ではない効能だ。
その気になれば、売って一生遊んで暮らせる金を手にできるどころか、国王相手に交渉だってできてしまうくらいの代物だ。
もちろん俺だって、魅力を感じないわけがない。
しかし——俺は、今回手に入れたアルムコアを用いて広域魔物弱体化魔道具を作るつもりはなかった。
代わりに俺が作ろうと思っているのは——広域魔物弱体化魔道具の次に代表的な、特級攻撃用アイテム。
「崩壊粒子砲」と呼ばれる武器だ。
この武器は、魔力を流すと「ラムダ粒子」と呼ばれる、通常の原子より高エネルギーな物質を生成する。
しかし、あらゆる物質には安定を求める性質があるため、「ラムダ粒子」は長時間存在することができない。
数ナノ秒にも満たない時間で「ラムダ粒子」は崩壊し、通常の原子に変わってしまうのだ。
そしてこれが一番重要なことなのだが、ラムダ粒子は崩壊して原子になる際、核融合をも大幅に超える量のエネルギーを放出することになる。
そのエネルギーに指向性を持たせ、一直線に飛ばすことができる銃。
「崩壊粒子砲」とは、そのような武器だ。
当然だが、この武器があれば、今までのいかなる攻撃手段より遥かに威力の高い攻撃を繰り出すことができるようになる。
もちろん、そんな威力の攻撃をタダで撃てるわけではなく——「崩壊粒子砲」は、とにかく夥しい量の魔力を消費する。
たとえ今手持ちのスキルポイントを全て「基礎MP強化」の+値上げに注ぎ込もうとも、全魔力を消費して一発撃てるか撃てないか。
そんなレベルで魔力を馬鹿食いするのだ。
だから、通常の戦闘で使うことはまず不可能。
しかし——ノービスたる俺には、この武器が実用可能になる手段が一つ存在する。
そう。「国士無双」だ。
「国士無双」発動時はMPが無限大となるので、魔力の馬鹿食いがデメリットでなくなるのだ。
まあ「国士無双」発動中とはいっても単位時間あたりのMP出力量は基礎ステータスに依存するので、魔力の充填時間を考慮すれば一度の「国士無双」で撃てる弾数は2発が限度だろうが。
それでも、この武器が無限の魔力と相性がいいものであるのは、確かなのである。
要は……俺は現段階で「国士無双」を用いても苦戦するような相手と鉢合わせてしまった際に切り札として使えるものを、作っておきたいと思っているのである。
広域魔物弱体化魔道具による2割のデバフなどなくとも、いずれ戦闘を極めた暁には、あらゆる魔物に勝てるようにはなる。
しかし——例えばこの街で「永久不滅の高収入」の最強クラスの構成員が暴れたりしたら、今の俺には止める手段がない。
そのリスクを天秤にかけると、軍用レベルのデバフ装置を却下してでも、切り札の武器を用意しておいた方が良いという結論になるわけだ。
などと考えが固まったところで、ちょうど俺は宿に到着した。
この宿でも、前の宿の時と同じく三部屋を借りているのだが……そのうちのジーナの作業部屋に割り当ててある部屋に入ると、「ストレージ」からアルムコアを取り出す。
「おかえりなさいませ、ジェイドさん。……それは一体何なのですか?」
「これはアルムコアと言ってですね。特殊な素材を手に入れたので、せっかくだから作って欲しいものがあるんです。……ちょっと待ってください」
そして俺は紙とペンも取り出し、「崩壊粒子砲」の三面図を描き始めた。
アルムコアを使って崩壊粒子砲を作る手順は、たった一つ。
アルムコアを、ハンドガンの形に削り出すことだ。
こう聞くと簡単なようだが——ハンドガンの形に削り出したものがちゃんと崩壊粒子砲として機能するには、正確無比に削り出さなければならないという難しさもある。
寸分の狂いもないようにしなければ、魔力を流しても何も発射できないガラクタと化してしまうのだ。
そのせいでNSOでは、武器屋にアルムコアを持ち込んで崩壊粒子砲が完成する確率は最も腕前のいいところで30%という有様だった。
おいそれと手に入る素材ではないのに、武器化成功率はたったの30%。
崩壊粒子砲が広域魔物弱体化魔道具ほどメジャーでなかったのは、武器化成功率の低さも一因としてあったというわけだ。
だが——ジーナの腕前なら、信頼していい。
NSOでの確率なんか無視して、100%の確率で崩壊粒子砲を仕上げてくれることだろう。
俺の直感は、そう言っていた。
「この球体を、この紙に描いた形に削り出してもらえませんか?」
「分かりました。やってみます」
指示を出すと、ジーナは作業に取りかかり始めた。
これ以上、例えばアルムコアがいかに貴重かなんてことは、今の段階で話す気はない。
余計な緊張はあたえずに作業してもらった方が、いつも通りの実力を発揮してくれると思ったからだ。
ジーナに作業してもらっている間に、ギルドにでも行って、洞窟の続きの報告とか諸々やるとするか。
そう思い、俺は再び宿を出た。