第四十一話 全処理作戦
数秒が過ぎると、再び足元に現実と繋がる出入口が出現し、俺は異空間から押し出される。
戻って来た場所は、土煙がもうもうと舞っていたので……俺は鼻と口を手で覆い、クレオさんの馬車のある方へ走った。
「だ、大丈夫じゃったか……」
クレオさんは俺に気づくと……心配そうに声をかけてきた。
「ええ、問題ないです。……対処法は知っていましたので」
「あの爆発に対処法とかあるもんなのじゃのう……」
無事を伝えると、クレオさんは脱帽したようにそう言った。
「して……今のは一体?」
「地雷ですね」
そう。「永久不滅の高収入」がこの街道に仕掛けた細工は……地雷の魔道具だ。
見ての通り、足を離す瞬間に爆発するタイプで……その効果半径は、およそ30メートル。
30メートルというのはあくまで高ランク冒険者が致命傷を負う範囲のことであって、一般人が怪我を負う可能性があるラインとなるともっと広がり、50メートルくらいとなる。
俺がクレオさんに50メートル以上退避するよう指示したのはそのためだ。
この魔道具は、致死半径と誘爆範囲が同じ30メートル。
「永久不滅の高収入」のことだからな。
奴らは30メートルおきに、数キロ四方にわたって、この魔道具を並べていることだろう。
「じ……地雷じゃと? あれは製造するだけで犯罪となる魔道具のはずじゃが……」
クレオさんは驚くが……まあ「永久不滅の高収入」は、そんなこと気にする組織ではないからな。
むしろ、処分がめんどくさい化学系/生物系の罠が仕掛けられていなかっただけ、不幸中の幸いと言ってもいいくらいだ。
正体も分かり、処理方法も思いついたことだしな。
早速、除去作業に取りかかるとしよう。
まず俺は……荷車の扉を開け、ジーナに魔石を一つ渡した。
「これで魔道具を一つ作ってください。刻むのは……メタルリッチの魔石と一緒に渡した魔法陣で」
俺が渡したのは、「永久不滅の高収入」拠点の門番だったケルベロスの魔石だ。
ケルベロスから獲れる魔石は通常、メタルリッチからのものに比べ質が落ちるのだが……あのケルベロスに関しては、長い間強化された状態だったのを、強化が解けてすぐ退治したからな。
強化されている間に時間をかけて高品質になったものを手に入れているので、この魔石に質はメタルリッチのものより高いくらいなのだ。
よって、これで作った「エリアナイザー」は、前回作ってもらったものより更に効果範囲が広いということになる。
実は……効率的に敷き詰められた地雷は、「エリアナイザー」を使ったとある方法で、一斉に処理することが可能だ。
それを実行するために、今からその魔道具をジーナに作ってもらうのである。
「分かりました」
「じゃ、よろしく」
ジーナが作業に取りかかりだすと、俺は荷車の扉を閉めた。
そして俺は……もう一度地雷原に向かっていった。
今回「エリアナイザー」を使ってやる地雷処理は……埋まっている地雷を全部、一斉に破壊することになるからな。
ジーナが作業に取りかかっている間に、ギルドに持ち込む証拠品としての地雷を、一個掘り出しておこうというわけだ。
さっきの地雷の爆心地を中心とする、半径30メートルの円周上を、慎重に歩きながら探していると……俺は、次なる地雷を一つ見つけられた。
周りの土を丁寧にかき分け、それを取り出す。そして……。
「術式崩壊」
俺はその地雷に向け、「術式崩壊」のスキルを発動した。
地雷の魔道具は、ざっくり分けて二つの部分……爆発の部分と、人間の体重を感知するセンサー部分に分かれている。
今俺は「術式崩壊」で、センサー部分の術式を崩壊させたのだ。
これでこの地雷は、センサー部分を新品と取り換えでもしない限り、爆発することはなくなった。
ここまで安全にしておけば……あとはギルドの方で、解析なり犯人の調査なり自由にやってくれるだろう。
「ストレージ」
安全化した地雷を収納すると、俺はクレオさんたちの待つ場所まで戻った。
それからしばらく、することがなくなったので休憩していると。
「できました!」
ジーナがそう言って、完成した「エリアナイザー」を俺に手渡した。
言うまでもない事だが……俺が渡したその魔石には、精緻な魔法陣が寸分の狂いなく刻まれている。
「ありがとうございます。じゃ、サクッと処理してきますね」
俺はそう言って、「エリアナイザー」を手に、結界で足場を作りながら地雷原の真上へと向かっていった。
1キロほど進むと、俺は結界上の移動をやめて地上に降り立つ。
ここが正確に地雷原の中心地なのかは分からないが……それを知る手段も無いので、とりあえずこの辺で処理作業に取りかかるとしよう。
まずは……一つスキルを取得しなければ。
「スキルコード1444 『魔力補充』取得」
俺はファントムコア製の魔道具に魔力を再充填するためのスキルを取得した。
ただ……もちろん今回は、そういう使い方をするために、このスキルを取得したわけではない。
「起動」
次に、俺は先ほど作ってもらった魔道具を起動した。
それから俺は、一歩ずつ丁寧に踏みしめて歩きながら、片足が地雷を踏んだところで立ち止まる。
「魔力補充」
そして、俺は「エリアナイザー」に「魔力補充」を通し、スキルの効果を範囲化させた。
これで、あとは足を離すのみ。
「ワープ」
俺は最初に地雷を踏んだ時と同じく、自身に「ワープ」をかけて異空間に退避した。