第四十話 細工の正体
というわけで……二日後。
俺は護衛対象の男と一緒に、エルシュタットに向けて出発することとなった。
「儂はクレオじゃ。この度はよろしくのう」
そう自己紹介する彼は……今日は、そこそこ大きな馬車と共に集合場所に来ている。
——商人か。
そう判断した俺は、一つ提案をしてみることにした。
「あの……もし良かったら、荷物の方収納しましょうか?」
荷物を収納し、荷車が軽くなれば、その分馬もペースアップできる。
つまりその分、旅程を短縮できるというわけだ。
「……マジックバッグでも持っておるのかのう?」
「いえ。ですが……収納のためのスキルを使えます」
「スキルじゃと? ……収納の?」
クレオが不思議そうに首をかしげるので……俺は、少しばかり実演してみせることにした。
「こんな感じです。ストレージ」
そう言って俺は、適当に拾った小石を一つ、「ストレージ」に収納する。
「何じゃその変わったスキルは……。初めて見るのう……」
「どうします? 入れますか?」
「そうじゃな。頼む」
実演すると、同意を得られたので……俺は荷車の中身を、全部「ストレージ」にしまった。
……そうだ。せっかく荷車に空きができたんだし、一つ頼み事をしてみるか。
「あの……一つお願いがあるのですが。空いた荷車に、この子を乗せてもらえますか?」
俺が頼むことにしたのは、荷物置き場が空いた代わりにジーナを乗せてもらうことだ。
日々彫刻に専念していてそんなに運動していない人が、長距離歩いて移動するのは、たとえ俺の「移動強化」があったとしても辛いものがあるだろうからな。
「構わんが……その子は護衛ではないのかのう?」
「違います。この子は俺の専属魔道具師であって冒険者ではありません。……護衛は俺一人でちゃんと全うしますからご安心ください」
「そうじゃのう……あれだけの荷物を収納する謎スキルの持ち主じゃしのう。良かろう、信じよう」
頼んでみると、交渉はすんなりと成立した。
「すみません、気を遣ってもらって……」
「いやいや、感謝なら儂ではなく雇い主の彼にするのじゃ。儂の荷を収納してくれたのは彼なんじゃからのう……」
そんな会話を交わしつつ、ジーナは荷車に乗る。
本当は「移動強化」の+値を上げてジーナの負担を減らすつもりだったが……上手いこと、その分のポイントを浮かせられたな。
などと思いつつ、俺たちは街を後にした。
◇
移動一日目は、特に何事もなく終わった。
「永久不滅の高収入」絡みどころか、普通の盗賊や魔物すら現れることなく……俺たちはただ平和に歩き、夜にはあらかじめ収納してきたご飯を食べた。
野営の時も、ジーナに作ってもらった警報魔道具が鳴ることは一度も無く、ぐっすり寝られたものである。
二日目は、一度盗賊の襲撃はあったものの……「永久不滅の高収入」とは無関係だったようで、俺はスキル一つ使わず全員を撃退することができた。
そんな平和な日々が続いた一方……今までと違う「何か」を感じたのは、三日目のことだった。
三日目の昼、何事もなく昼食を食べ終えた俺たちは、15分ほど小休憩を挟んでから歩き始めたのだが。
歩き始めた10分後……俺は、何かを踏んだのに気づいたのだ。
と同時に……俺には、「永久不滅の高収入」がこの街道に仕掛けたものが何であるかがハッキリわかった。
「クレオさん、後ろに下がってください」
まず俺は……そう言って、クレオさんに馬車ごと距離を取ってもらうよう指示を出した。
クレオさんの馬車は、この道中、基本的に俺の5メートルほど後ろをついてきていたのだが……その距離だと、危険に巻き込まれてしまうからだ。
「……何か危ないものがあるのか?」
「はい。50メートルは後ろに下がった方が良いです」
更に俺は、そう言って具体的な退避距離を伝える。
すると……クレオさんは馬車を引き返す方向に進め、50メートルちょい離れてくれた。
これでとりあえず、依頼主の安全は確保完了だ。
次に俺は、自分自身の安全確保のため、とあるスキルを強化することにした。
「スキルコード4895 『ワープ』強化×10」
これを強化することにしたのは……ワープによる異空間滞在時間が、俺の安全に大きく関わってくるからだ。
NSOでの、例の細工の発動時間から考えるに……+値を10まで上げておけば、余裕をもって安全確保できるだろう。
「ワープ」
そして俺は……強化したてのスキルを、早速発動した。
ただ、いつもとは違って……その対象は、自分自身だ。
スキルを発動すると、俺は異空間への入り口が出現した真上へと吸い込まれた。
何かを踏んだ足が地面を離れてから、異空間に入って入り口が閉じるまでの刹那……俺は、入り口の向こう側で爆発が起きかけているのを目にした。