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第三十五話 side:ゼイン

 ジェイドの言う通り……この建物に入る前に、引き返していればよかった。

 戦闘開始早々……俺の心は、後悔だけで一色に染まった。


 まさか……あのとんでもなく強かった用心棒を倒した先にいる人間が、更に強い者ばかりだとは。

 あとは商人とかしかいないだろうと思っていたというのに……一体何なんだここは。


 相手はさっきの用心棒以上の実力だったというのに……今回は人数比的に、一対一か良くても二体一くらいで戦わなければならない。

 状況は、完全に絶望的だった。


 おそらく……ジェイドは、中にこいつらがいるのを分かっていたのだろう。

 だからあいつは、あと一歩だというあの状況で、「引き返しますか?」なんて台詞を放ったのだ。

 俺たちが気づけない敵の気配に、アイツは気づける。

 思えばそのことは、番犬の一件からも、明らかだったではないか。



 どうしようもないのが頭では分かっている中……それでも俺は、精一杯戦うしかなかった。

 ドアを開けて入ってきてしまった以上、今からでは逃げることすら許されないだろう。


「熱波百裂拳!」


 出し惜しみなど許されはずもない状況の中……俺は、高温の火属性魔力をパンチの衝撃波に乗せたものを無数に飛ばす、若かりし頃からの十八番の必殺技を繰り出した。

 だが……。


「真面目にやってんのか?」


 その全てが、謎の力によって掻き消される。


 ……何だ、その退屈そうな目は。

 怒りが沸いたのも束の間……次の瞬間、俺は全身、猛烈な痛みに襲われることとなった。


「ぐわあぁぁぁ!」


 ありとあらゆる関節の内側に、熱した針を100本ずつ刺されたかのような痛みが走り……たちまち俺は動けなくなる。


「どうした。指で突いただけだぜ?」


 俺と対峙していた男はそう言って、俺の側に腰かけた。



「……なぜ殺さない?」


 そのまま、お互い何をするでもなく時間が過ぎる中。

 俺は……頭に浮かんだそんな疑問を、男にぶつけた。


 俺は今、あまりの激痛に指一本動かせない状況だ。

 彼がその気になれば、既に100回は俺を殺せていたであろう。


 だが……なぜか彼は、俺を動けなくした後は、ただボーっと座っているだけなのだ。

 彼がそうする理由が、どうしても見つからない。

 なので俺は、そう聞いてみた。


 すると……男から返ってきたのは、こんな答えだった。


「殺すわけねーだろ。いうてお前、表の社会じゃそこそこ強い部類だろうしな。……いい儀式の材料になるのに、何でみすみす死なすんだ」


「……は?」


 俺には、彼が言っている意味がわからなかった。

 ……儀式? ここは奴隷商じゃないのか。


「儀式って何だ」


「めんどくせえなあ。質問ばっかすんなよ」


 更に質問するも、答えてくれそうにはない。

 ……まあ知れたところで、この状況の打開に役立つとは思えないが。


 再び沈黙が訪れる中、俺は他のメンバーの戦況を見渡し始めた。



 他のメンバーも……戦況は芳しくない様子だった。

 というか……ジェイドと「ベテルギウス改」のメンバー以外は既に、おれと同じく戦闘不能に陥ってしまっていた。


 そしてその、まだ辛うじて戦えている「ベテルギウス改」も……一人また一人と、動けなくされていった。


 そんな様子を見て、俺はまた別の意味で、ここに来てしまったことを後悔した。


 俺のせいで……何組もの有望なパーティーが、ここで尽きることになってしまった。

 俺自身が殺されるのは、自分の責任だとしても……これではギルド職員失格だ。


 そんな自己嫌悪に呑まれそうになる中……最後に、新メンバーのザージスまでもが行動不能となってしまった。


 ジェイドだけはまだ戦えているようだが……彼の相手は何だかよく分からない変身で、更に戦闘能力を引き上げたようだ。

 俺たちの相手と同じレベルの相手だったら、もしかしたらジェイドならどうにかできていたのかもしれないが……あんな化け物が混じっていたとなれば、もう一巻の終わりだろう。


「すまない」


 思わず、口からそんな言葉がこぼれ出た。



 ——だが。

 次の瞬間……俺は、信じられない光景を目にすることとなった。


 眼が赤くなった敵に呼応するように……ジェイドは、全身に金色のオーラを纏い始めたのだ。

 直後、彼から全方位に撒き散らされる暴風がここまで届き……思わず俺は、二回ほど転げまわってしまった。


 ……一体何なんだ、あの圧倒的な力は。

 アイツ……今まででも十分とんでもない力の持ち主だと思っていたが、まだ力を隠し持っていたというのか?


 唖然とした気分になっていると……ジェイドと赤い目の敵が同時に動き出し、そしてぶつかり合う。

 思わずまばたきをすると……次の瞬間には、赤い目の敵は首から上がなくなっていた。


「……アイツはやべえ!」


 そんな様子を見て……俺の相手をしていた男が、血相を変えてジェイドに襲いかかる。

 だが……彼は、ジェイドに近づく前には胴体を真っ二つにされていた。


 残った敵の中にも、竜の霊の召喚や周囲の空間が歪むほどの超重量化など、俺たち相手には見せなかった真の力を解放する者がいたが……その全てが例外なく、ジェイドによってワンパンされていく。


 ……夢か、これは。

 俺はそんな感想を抱くより他なくなっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ワンパンて。
[一言] これは判断ミスだって... 無双使えば勝てるとは言えさ。
[一言] 敵が国士無双で倒せる程度の敵だったかたよかったものの、 完全にギルド職員さんの判断ミスですよ。
感想一覧
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