第三話 魔道具で大物狩り
次の日。
10個の魔石全てに同じ魔法陣を刻み終えた俺は、街の西側にある森へ向かった。
まずは森の手前で「サーチ」を発動。
魔物に近づいたらすぐに気づけるようにした上で、俺は森へと足を踏み入れた。
しばらく森の中を歩いていると……左手前方から、かなり強そうな魔物の気配が感じ取れた。
気づかれないようそっと歩いて、その気配の方向へと進んでいく。
すると……気配のあった場所には、一体の大きめな猪の魔物が佇んでいた。
——ラッシュボア。人を見つけるとすぐさま突進で襲い掛かってくる、獰猛極まりない魔物だ。
ラッシュボアはとにかく凶暴なことで有名で……数年訓練した「戦士」のジョブを持つ者でも、体当たりを食らえば数メートルは軽く吹き飛ばされてしまう。
ノービスでは、尚更勝ち目などない相手というわけである。
仮に奇跡のような不意打ちが成功しても……今の俺では、首元に全力でナイフを押し当てたとてかすり傷一つ負わせることはできないだろう。
しかし俺は、そんな魔物を前にして……魔法陣を刻んだ魔石を一つ、袋から取り出した。
そしてこう唱えた。
「チェンジ」
すると……魔石が光り輝き、手元から消える。
その代わりに……数秒経つと、俺の手元には二回りは大きい魔石が出現した。
次の瞬間、ラッシュボアは全身から力が抜けたかのようにぐったりとへたり込んだ。
——チェンジ。
これは、魔法陣が刻まれた魔石と魔物の魔石を入れ替える効果を持った魔道具である。
この魔道具の凄いところは二つ。
一つ目は、本来倒せない魔物の魔石であっても、この魔道具を使えば簡単に手に入れられるところだ。
本来なら、ラッシュボアを倒せる者にしか手に入れられないはずの魔石を……俺はこの魔道具で、スライムの魔石と引き換えに手に入れた。
この魔道具は、そんな普通じゃ不可能な芸当を、可能にしてしまうのである。
だが……「チェンジ」の魔道具の本質は、実はそこではない。
魔石が簡単に手に入るのは、あくまで副次効果みたいなものだ。
では、この魔道具の真の価値とは何か。
それは、この魔道具の二つ目の利点……魔物に対するこれ以上ない強烈なデバフである。
どういうことかと言うと……そもそも魔物というのは魔石を動力源に動いていて、魔物はそれぞれ自分に適した魔石を持つことで生命活動を続けられている。
スライムならスライムの魔石、ラッシュボアならラッシュボアの魔石があって初めて、十全に動けるものなのだ。
そこでもし、ラッシュボアの体内の魔石が、スライムの魔石なんかに入れ替わってしまおうもんなら。
ラッシュボアは、重度の貧血を患ったがごとく全く動けなくなってしまうのである。
その上、扱える魔力量もミジンコのように減少してしまうので……ラッシュボアが普段体表に展開している魔法障壁も、ほとんどゼロになってしまうわけだ。
こうなってしまえば……ラッシュボアは無抵抗で微動だにしないので、攻撃し放題。
防御力も激減しているので、例えば目から脳天へとナイフを突き刺してやれば、俺でも簡単にラッシュボアを絶命させられるのである。
要は……「チェンジ」の本質は、魔石交換対象の魔物を極限まで弱らせ、簡単に討伐できるようにすること。
俺が「魔道具は他とは一線を画す効果を持つ」と評するのは、もはや裏技と言っても過言ではないくらい、効果的な魔道具だからなのだ。
もちろん、交換できる魔石の力の比率には制限があったり、ドラゴンなど一部の魔物にはそもそも「チェンジ」自体が効かなかったりもするが……中級レベルの魔物相手なら、大抵これだけでカタがついてしまう。
それがこの魔道具「チェンジ」の恐ろしい点であり、頼もしい点でもあるというわけだ。
ラッシュボアにトドメを刺し、ステータスウィンドウを確認すると……スキルポイントの欄が「スキルポイント:100」となっていた。
NSOでも、ラッシュボア討伐時に入手できるスキルポイントは100だったので……同等のポイントが手に入ったというわけだ。
うん。この調子なら、昨日とは桁違いのスピードでスキルポイントを獲得していけるな。
そう確信しつつ、俺は次の獲物を探しに出発した。
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