第二十七話 ギルドからアイテムをもらった
この世界が「ワープ」実装後のNSOの世界であったことに安堵しつつ、またしばらく歩いていると……俺たちは、ギルドに到着した。
……そういえば、素材の売却と「Aランクパーティーを救った功績がどうたら」みたいなやつ、どっちから済まそうか。
「まずどちらに行きます? ギルドの本館か、それとも大型素材買取所か……」
「買取所の方が良いと思います。……ジェイドさんが私たちを救ってくれたことを証明するにも、ゴールデンメタルライノの実物を見せる必要があるでしょうし」
聞いてみると……リーダーの答えは、「後者のためにも買取所に先行した方が良い」というものだった。
というわけで俺たちは、買取所に向かった。
買取所の受付では……普段通り、シルビアさんが対応にあたっていた。
「あら、ジェイドさん。……なぜ、『メタルスレイヤー』のお二人と一緒に行動しているんです?」
カウンターに並ぶと……シルビアさんはまず、不思議そうな顔でそう聞いてきた。
その問いに答えようとする前に……リーダーが先に口を開き、こう説明する。
「実は……俺たち、ゴールデンメタルライノに遭遇してしまったんです。それで俺たち、危うく全員揃って命を落とすところだったのですが……そんな中、奇跡的に一人の冒険者がそのゴールデンメタルライノを狙っていまして。俺たちは、その冒険者に命を救われる形になりました。それがジェイドさんだったんです」
「ご……ゴールデンメタルライノですか!?」
リーダーの話を聞いて、唖然とするシルビアさん。
……ここで証拠として、実物を見せるって話だったよな。
「これです」
俺はそう言いつつ、「ストレージ」からゴールデンメタルライノの死体を取り出した。
「こ、これは……」
金色の巨大なサイを目の当たりにし、口をポカンと開けたまま尻餅をつくシルビアさん。
「数十個にも及ぶファントムコア集めの次は、ゴールデンメタルライノの討伐ですか……。ジェイドさんが規格外なのはもう分かっていることですが、いくら何でも多方面過ぎやしないですか!?」
シルビアさんは、半ば呆れたようにそう続けた。
それを聞いて……今度は、ベラドンナとリーダーが絶句する。
「数十個のファントムコア集めって……」
「あの幻獣をそんな頻度で見つけてしまうくらいだったら、そりゃ『サーチ』に引っ掛からない魔物を探知するのくらい朝飯前ってことね……」
……いや、ファントム狩りと「ステルスサーチ」の精度は、全く無関係なのだが。
ベラドンナの感想に対し、俺はそう心の中でツッコんだが……まあ今その話をする時ではないので、特に口には出さなかった。
それから一分くらいが過ぎると……ようやくシルビアさんが我に返り、こう続ける。
「まあ、とにかく分かりました。……ジェイドさんのことですから、戦利品がこれだけってことはないですよね?」
「ええ、まあ」
シルビアさんに他の素材もあるなら出すようにと促されたので、俺はメタルライノの死体を全てと、「ワープ」の試用のために狩ったシャドウレスラーも取り出した。
「これ……メタルライノ、ぐちゃぐちゃ過ぎませんかね……」
「形が歪む際、延性の違いで鉄部分とミスリル部分が綺麗にバラバラになってますし……逆に分解の手間が省けていいじゃないですか」
「あ、別に買取に支障があるとかいう話じゃないです。そもそもメタルライノをこんな風にしてしまうなんて、一体どんな怪力なんだと思っただけで……」
一瞬、ぐちゃぐちゃ過ぎて買い取れないとでも言われるのかとヒヤヒヤしたが……それも杞憂だったようだ。
買い取りのための手続きは、スムーズに進んでいった。
「これ……全部換金するんですか?」
「はい、お願いします」
「……ではこちらになります」
素材に関しては全部売ると言うと、カウンターの上に山のような金貨が積み上げられる。
「メタルライノ系は金属部分と魔石のみが素材として流通するので、重量さえ分かれば解体前に値が決められます。……こちらお受け取りください」
俺はそんな説明を聞きながら、カウンター上の金貨を全て「ストレージ」にしまった。
「さて、今回のゴールデンメタルライノ討伐が、メタルスレイヤーさんを救うことに繋がった件ですが……」
そして、全ての金貨を「ストレージ」にしまい込むと……シルビアさんはそう言って、話題を切り替えようとする。
ここからがいよいよ、リーダーが言っていた「ギルドからの謝礼」とやらの話になるのか。
「Aランクパーティーを救った冒険者は、ギルドの規定により、ギルド所有の宝物を一つ贈呈することとなります。普通であれば、この制度の悪用を防ぐため、もっと詳しく聞き取りをしたり場合によっては証拠を求めることもありますが……メタルスレイヤーさんが対メタル特化パーティーであること、及びゴールデンメタルライノが彼らの実力を超えた魔物であることを考慮すれば、今回に限ってはそこの精査はあまり必要ないでしょう」
シルビアさんはそう言うと、「関係者以外立入禁止」と書かれた扉を開け、俺たちにカウンターの内側に入るよう促した。
そして俺たちが入ると、彼女は床に手を当て、こう口にする。
「開け」
すると……床がパカリと開き、中から地下へと続く階段が現れた。
階段を下りると、そこには無数のアイテムが並べてあった。
「ジェイドさん、この度は、ギルドの貴重な戦力が失われるのを防いでくださりありがとうございます。この中からお好きなものを一つ、お選びください」
地下にて……シルビアさんはそう言って、アイテムを一つ一つ見て回るよう俺に促した。
体力が微増するネックレスに、ダメージを少し肩代わりするお札……「アンダンテの宝玉」もあるのか。
どのアイテムも、NSOで見慣れたものばかりのため……ぱっと見だけで、どれが使えそうでどれがそうでないかは判別できた。
そこそこ有用なアイテムはボチボチ見つかるのだが、特に「これだ」と思えるような決定打になるものは見当たらないな。
そんなことを考えつつ、俺は次々と棚を移動してアイテムを見定めていった。
ずっとそんな調子かと思いきや……しかし、最後の棚に差し掛かったところで。
俺は、思わぬ幸運に出会うこととなった。
まさか、こんなところでコレを入手する機会に恵まれてしまうとは。
「じゃあ、これください」
俺は迷うことなく一つのペンダントを手に取ると……シルビアさんにそう伝えた。
「え……本当にそれでいいのですか? 古代の出土品らしいということで一応取ってはいるものの、使途不明のガラクタ扱いなのですが……」
「……むしろ俺にはこれしかないと言っていいくらいです」
最後の棚で、俺が見つけたのは……NSOでは「キャッシュバック50」と呼ばれていたペンダント。
効果は、「スキルポイントを消費した時、消費スキルポイントの50%が還付される」という強烈な代物だ。
還付されたポイントで更にスキルを取得・強化しても、そのまた50%が還付されるので……このアイテムを所持するのは、公比0.5の等比級数ということで、獲得スキルポイントが2倍になるのに等しい意味を持つ。
これがあれば、今まで以上にスキルの取得や強化を加速させられるのだ。
「わ、分かりました……。まあ、今までにも常識を粉々にし続けてきたジェイドさんのことですし。ジェイドさんがそう言うのでしたら、本当に有効活用するのだと信じます」
シルビアさんはそう言って、「キャッシュバック50」を持ち帰るのを許可してくれた。
「常識を粉々にし続けてきた」はちょっと言いすぎな気がするが、ガラクタ同然扱いだからやめとけと説得されないで済むのはありがたいな。
「何なのかしらね、あのアイテム……」
「さあ……ジェイドさんのことだし、『半径1㎞以内の魔物を瞬時に殲滅するアイテム』とかだったとしても、もう驚きはしないな」
ベラドンナとリーダーは一部始終を見て、そんな感想を漏らす。
いや、流石にそんなアイテムは……代償ゼロで使えるものに限っていえば、存在しないのだが。
などと思いつつ、俺は階段を昇って地上へと戻った。