第二十五話 ゴールデンメタルライノを倒した
いやあ、危機一髪だった。
「サーチ」を頼りにステルスな魔物の居場所を目指していると、いきなり標的の魔物が動き出したので、何事かと思ってみたら……既に別のパーティーが交戦中だったとは。
いくらステルスな魔物の獲得スキルポイントが高いとはいえ、獲物の横取りはマズいので、そのまま立ち去ろうかとも思ったのだが……対峙していた冒険者の絶望的な表情を見て気が変わった。
おそらくこの冒険者には、ゴールデンメタルライノを倒す実力は無い。
ではなぜ交戦していたのかというと……「ステルスサーチを使えないが故に、意図せずエンカウントしてしまったから」というのが、考えられる状況の中では最も自然だろう。
とすれば、仮に俺がこのゴールデンメタルライノを討伐してしまったとしても、この冒険者が「獲物の横取りだ」と文句をつけてくることはまずあり得ない。
それどころかこの冒険者は、誰でもいいからこのゴールデンメタルライノを撃退してほしいとすら思っているかもしれない。
というかこの冒険者……ヘタすれば、ゴールデンメタルライノの突進一つで命を落としかねない状況なんじゃないだろうか。
そう思った俺は、咄嗟に結界を両者の間に展開し、できるだけダメージを軽減させておくことにしたのである。
流石に「フォースリダクション」もかかっていないゴールデンメタルライノの素の攻撃が相手だと、今の俺でも結界一枚で完全に抑え込むことは不可能だ。
ある程度威力は押し殺せたものの、結界は破られ、交戦中の冒険者は突進をくらうことになってしまった。
そして案の定……彼女は自前で身を守れるような装備やスキルがあったわけではなく、突進を受けて全身を打ちつけてしまったようだ。
見るに堪えないが……まあ後で「ヒール」を三回くらい重ね掛けすれば治りそうな容態だし、安全確保のためにも、まずはゴールデンメタルライノの処理が先だろう。
というわけで俺は早速、戦闘を開始した。
「フォースリダクション」
まず俺は、ゴールデンメタルライノに攻撃力低下妨害をかけた。
この戦いも……基本戦略は、メタルライノの時と変わらない。
俺はゴールデンメタルライノの目の前に迫ると、結界を展開した。
結界越しとなると、俺が受けるダメージはメタルライノ戦の時とほぼ同じレベルになる。
これでいつも通り、無双ゲージを溜めようというわけだ。
「国士無双」
そして無双ゲージが溜まると……俺は奥義を発動し、ディバインアローの剣をゴールデンメタルライノの額に軽く当てた。
その状態で俺は肩から先を脱力し、足と体幹で発生させた運動量を肩、肘、手と順に導きつつ、こう唱える。
「三日月刃」
すると……見た目には特に衝撃波が飛んだりはしなかったものの、ゴールデンメタルライノは内部から轟音を発し始めると共に、横転して悶絶しだした。
しばらくすると、轟音が収まるよりまず先にゴールデンメタルライノがぐったりと動かなくなり、それから静寂が訪れる。
これにて——討伐完了だ。
今俺がやったのは……武術の一つである「浸透勁」と、スキル「三日月刃」の合わせ技。
俺は「三日月刃」を発動する際の剣の振り方を工夫し、敵の身体の内部にスキルの効果を浸透させたのだ。
それにより、「三日月刃」による斬撃の衝撃波は、金属装甲を無視して直でゴールデンメタルライノの内部組織を斬り刻み始めたのだが……ここで、ゴールデンメタルライノを覆う金属がオリハルコンであることが大きな意味を持つ。
「三日月刃」の衝撃波はオリハルコンを突き破ることができないので……装甲に到達するたびに、幾度となく反射を繰り返すこととなったのだ。
ゴールデンメタルライノが死ぬまで悶絶し続けたのも、その絶命より轟音が収まる方が遅かったのも、それが原因だ。
オリハルコン部分にこそ全く傷はないが……ゴールデンメタルライノは今、体内はぐちゃぐちゃになっているのである。
流石に今の俺では、オリハルコンを真っ向から切断することは不可能だ。
オリハルコンを切断しようとしたら、パワーも剣の素材の硬度も、何もかもが足りていなさすぎる。
だがそれは、俺にこのサイを倒せないということを意味しているわけではなかった。
オリハルコンが斬れないなら、そうじゃない部分をめった斬りにすればいい。
一見手も足も出なさそうな敵も、だいたい探せば特殊攻略の余地があるってわけだ。
NSOでゴールデンメタルライノが実装されたのは、俺がプレイを始めてから三か月後くらいのことだったのだが……当時推奨+値に全然満たない実力ながらこのコンボ技での討伐法を編み出して攻略したのは、謎の記憶の中でも特に印象に残っているものである。
ちなみにこの方法は、通常のメタルライノには使うことができない。
仮に内部に衝撃の刃を浸透させたとて……装甲の金属が鉄では、反射せず装甲を斬り裂いて力が出ていってしまうからな。
そんなことを考えつつ、俺はゴールデンメタルライノの死体を「ストレージ」にしまった。
そして倒れている冒険者に、念のため1回余分にと考え、計4回「ヒール」をかける。
「あー、素材もらっていきますけど、いいですよね?」
単刀直入に、俺はその部分を確認すべく質問した。
だが……返事は無い。
「見たこともない……黄金の力……。圧倒的すぎる……」
代わりに帰ってきたのは、放心状態での独り言だった。