第二十四話 side:メタルスレイヤーの続き
「カース・オブ・アンダンテ」
私が最初に発動したのは、一応私の十八番である鈍足妨害の魔法。
これでまずは敵の機動力を一気に奪い……その上で、必要に応じて各種妨害を重ね掛けしようというわけだ。
鈍足はあくまで移動速度を落とすものなので、敵の攻撃発生を遅らせるとかはできないのだが……こいつに限らず基本的にメタル系の魔物は遠距離攻撃手段を持たないので、今の戦闘では実質攻撃封印に等しい効果を持つ。
その上、停止系妨害に比べ効果持続時間あたりのMP消費も少ないので……かかりさえすれば、この状況では最強の妨害魔法だと言えるだろう。
まあ、あくまで「かかりさえすれば」という条件付きだが。
そこだけは一か八かなので、どうか効いてくれと祈ったのだが……残念ながら、私の願いは届かなかったようだった。
カース・オブ・アンダンテは、ゴールデンメタルライノに当たった瞬間……溶岩に水滴を垂らした時のように霧散してしまったのだ。
……やはり、だめだったか。
「……クロノクラッシャー!」
すかさず私は……今度は、停止系妨害を放った。
ゴールデンメタルライノの「全妨害無効」は、あくまで噂だ。
もしかしたらこの魔物が持っているのはただの鈍足無効で、停止なら効くって可能性もゼロではない。
そもそも停止系妨害は、鈍足系に比べ扱える人が極端に少なくなる。
なのでゴールデンメタルライノに停止系妨害が効くかどうかは、きちんと検証されていない確率がそこそこあるのだ。
仮に効いたとしても、MP消費効率的に稼げる時間は一気に減るのだが……背に腹は代えられない。
マナポーションも置いて行ってもらったんだし、魔力消費を気にするより総当たりでできることを探そうというわけだ。
だが……。
「……これも効かないのね!」
困ったことに、ゴールデンメタルライノは停止無効も兼ね備えていた。
しかもゴールデンメタルライノは……何を思ったか、ガイザーが逃げていった方向に自身の身体の向きを変える。
「……私は最後に襲っても間に合うとでも言いたいわけ? そうはさせない……フォースリダクション!」
一旦私を無視し、逃げた全員を殲滅するつもりだと気づいた私は……せめて一矢報いようと思い、攻撃力低下妨害を放ってみた。
もはや時間稼ぎの役割は果たせないが、せめて攻撃力を下げることで、襲撃されたメンバーが致命傷を受けないようにできればという判断だ。
焼け石に水かもしれないが……ガイザーは頑丈な男だ。
もしかしたら、弱体化した攻撃ならうまくいなし、運が良ければ逃げおおせてくれるかもしれない。
しかし、そんな私の最後の望みも一瞬で潰えた。
ゴールデンメタルライノには……攻撃力低下妨害すら効かなかったのだ。
「終わ……りね……」
遠くの方で天を舞うガイザーを見つつ、私は観念してそう呟いた。
次にゴールデンメタルライノは、戻ってきて私をターゲットにし、猛スピードで接近してくる。
死を予感したからか、全てがスローモーションにさえ見えだしたところだったが……私はその時、不思議なものを見た。
どこからか、誰が展開したのかも分からない、謎の結界が一枚出現したのだ。
ゴールデンメタルライノは結界を突き破り、私に激突したが……私は全身の骨がめげるような激痛こそ感じたものの、即死はしなかったようだった。
「な……何が起こったの……?」
困惑していると……私の視界の端に、一人の見慣れない少年が。
「間に合って良かったー。流石にノービスの俺も、死者蘇生はできないからなあ」
彼は私に一瞬だけ目線を合わせると……そんな意味不明な言葉を口走った。
「ゴールデンメタルライノか。今日は本当に景気がいいな」
そして彼は、嬉々とした表情でゴールデンメタルライノを見つつ、そう呟いた。
……なぜ彼は、ゴールデンメタルライノに勝てる気でいるのか。
というか、「ノービスの俺」とは、一体何の話なのか。
私の記憶が間違っていなければ、ノービスは何のジョブの恩恵も受けられない雑魚であって、ゴールデンメタルライノの突進をまともに軽減できる結界の使い手ではないはずなのだが。
だが……そんなことを考えている私の眼に飛び込んできたのは、もっと意味不明な現象だった。
「フォースリダクション」
彼がそう唱えると……どういうわけか、ゴールデンメタルライノに攻撃力低下妨害が入ったのだ。
……あり得ない。
なぜ彼は、私が発動しても無効化された妨害魔法を、同じ魔物に通用させることができているのか。
というか、あの妨害率はいったい何なのか。
私が見る限り……あの低下妨害のダメージ削減率は、9割近くある。
攻撃力低下妨害としては、聞いたこともないくらい高い水準だ。
もはや自分の存在意義を見失うくらいの力の差を次々と見せつけられる中……それでも私は、一つだけ確信できることがあった。
彼の手にかかれば、このゴールデンメタルライノの死は確実だ。