第十九話 いざ、試合開始
次の日……ディバインアローの剣を受け取るためヴェルグ工房を訪れると、店主の他に長身の男が一人待機していた。
「ディバインアローの剣を受け取りに来ました」
「まさか本当にその意思が揺るがないとはな。今ならまだ、金を素材を売ると言えば間に合うんだぞ?」
「……あの、模擬戦ってどこでやるんですか?」
店主のペースに合わせていたら時間だけ無駄に経ちそうなので、単刀直入にそう聞く。
「……どうしても気が変わらないってか。分かった、私有地の簡易闘技場があるからついてこい」
すると店主はそう言って、店の裏口のドアを開けつつ俺たちに手招きした。
それに続き、俺、そして長身の男も、店主が歩いて行く方についていく。
その道中……長身の男は、店主にこんな質問をした。
「俺がディバインアローの剣を賭けて戦う相手って、この子っすか? なんというか、そもそもどうやってディバインアローを討伐できたんだって感じに見えるんっすけど……」
どうやらこの男も、俺のことはひ弱な男と思っているようだった。
問題は、俺の真の実力を見極めれていないのか、見極めた上で言っているのかだが……まあ間違いなく、後者はあり得ないだろう。
流石に、今の俺なら「チェンジ」に頼らずともディバインアローくらいなら倒せる。
なので後者なら、「どうやってディバインアローを討伐できたんだって感じ」などという発言は出てこないはずなのだ。
「余裕で勝ってもらわなければ困るよ、ヴォイグ君。Bランク冒険者としての実力を買って、常連客として認めてやったんだからな」
それに対し、店主はそう答えた。
この男——ヴォイグという名らしい——は、Bランク冒険者なのか。
ギルドの評価上は、三ツ星討伐者の俺と同格ということになるが……この情報だけでは、実際どちらが格上なのかの判断材料にはなり得ないな。
BランクとAランクでは天と地ほどの差があり、Bランクなり立てとAランク昇格寸前では、同じランク帯でも全く実力が違ってくるからだ。
まあ……もし分が悪いとしても、こちらには残りスキルポイントも「国士無双」もあるので、負けはしないと思うが。
などと考えていると、俺たちは「ヴェルグ闘技場」と書かれた円形の建物に到着した。
「この闘技場は先祖代々譲り受けたものでな。時々、騎士様が対抗試合をする時とかに、貸し出したりしているんだ」
そんな話をしながら、俺とヴォイグに木剣を渡す店主。
俺はそれを受け取ると、闘技場の試合開始線のところに歩いていった。
そしてその場で、ヴォイグが反対の試合開始線のところに来るのを待っていると……
「……おい、これを見てみろ。三日月刃」
何を思ったか、ヴォイグはそう言って木剣を振り、上空に三日月刃を放った。
「俺はBランク冒険者だ。……降りるなら、今が最後のチャンスだぞ」
そしてヴォイグは、俺にそう忠告する。
だが……俺はそれを見て、むしろこう思ってしまった。
このヴォイグという男……想定していたより、ずっと弱い。
それも、強いパーティーにフリーライドして不相応にランクを上げたんじゃないかと思うほどに。
というのも……ノービス以外の職業の場合、一つのスキルの威力を見れば、身体強化などをノービスの+値で換算した値がだいたい推定できる。
ノービスと違いスキルポイント制ではないので、今の俺のように「身体強化は+47だが三日月刃は未強化」みたいなアンバランスな状態にはなり得ないからだ。
そして……今のヴォイグの「三日月刃」は、+値でいえば5〜6相当。
この場合、こいつのジョブが剣士だと仮定したら、身体強化の+値はだいたい5倍、すなわち25〜30あたりだ。
これだけの差があると……言っちゃ悪いが、試合展開は弱いものいじめのようになってしまうだろう。
「いえ、戦います」
だが、これはディバインアローの剣がかかった試合。
可哀想であろうと、やむを得ないのだ。
なので俺は、そう答えた。
「チッ……」
舌打ちしつつ、しぶしぶと試合開始線に並ぶヴォイグ。
「始め!」
そして店主がそう声をかけたことで、模擬戦が始まることとなった。