第十八話 準備は万端だ
一応、使えそうな部位に限って持ち帰ったつもりではあるが……果たして、その部位ですら買い取ってもらえるのかどうか。
そんなことを考えつつ、ギルドの大型素材買取所に行くと……レジでは、先に買取を依頼しにきた冒険者が一人いるようだった。
「今回はこれを売りに来た」
その男はそう言うと……マジックバッグと思わしき袋から、一体の猪を取り出した。
あの毛並みは……おそらく、フォレストボアだな。
フォレストボアは、森を主な生息域とする、ラッシュボアよりは一回りほど小さい猪の魔物だ。
ラッシュボアほどではないものの……同じ猪系の魔物というだけあって、近接戦闘で倒すのは分が悪いことで知られている魔物ではある。
だが目の前の男が取り出したフォレストボアには、無数の痣ができている。
この男……あえてその不利な方法で、この魔物を倒したみたいだな。
「フォレストボアですか……。いつも通りの怪力ですね」
などと思っていると、フォレストボアを受け取った受付のシルビアさんはそう言った。
いつも通り……ということは、これがこの人の戦闘スタイルというわけか。
「おうよ! この街一番の力自慢の座は、まだまだ誰にも渡さねえぜ!」
シルビアさんの発言に対し、男はそう言って自身の上腕二頭筋をポンポンと叩いた。
「フォレストボアを物理的に叩きのめせる人なんて、王国広しといえども数人くらいしかいないはずです。当分は大丈夫だと思いますよ」
「そんなこと言われると照れるじゃねーか」
などと二人が話している間に、買い取り手続きは完了したようだ。
「いつも通り、解体作業は見ていかれるのですか?」
「おうよ、あれ結構見てて楽しいんだ」
などと言って、男はレジからはけていき、今度は俺の番が来た。
「次の方ー……って、ジェイドさんですか。また大量のファントムコアですか?」
シルビアさんは、次に並んでたのが俺だと気づくと……「またか」とでも言いたげな表情で、そう言ってきた。
「……ん? 今大量のファントムコアって聞こえた?」
そんなシルビアさんの発言が耳に入ったのか、解体作業を見に行ったはずのさっきの男の視線もこちらを向く。
そんな中……とりあえず俺は、買い取ってもらえるか不明の物からまず出してみることにした。
「ファントムコアもあるんですが、それ以外にもありまして。……これ、こんな状態になってしまったんですけど、買い取ってもらうことって可能ですか?」
そう言って俺は、回収してきたラッシュボアの破片全てを取り出した。
それを見たシルビアさんは、仰天してそのまま後ろにこけてしまう。
「な、何をやったらこうなるんですかこれはーっ!?」
一瞬遅れて、そんな叫び声が解体施設全体に響き渡った。
「これ、もともとはラッシュボアですよね? 一体どんな攻撃をしたらここまで木っ端微塵になるんですか! ……いや聞いても多分分からないでしょうけど」
「国士無双を使ったら、ちょっとオーバーキルしちゃったみたいで……。あ、最近習得した新しい必殺技なんですけどね」
本気で経緯を詳しく理解しようとしている感じではないので、スキル名も出しつつそう答える。
「このオーバーキルは、ちょっとじゃないですよね。ラッシュボアをバラバラにするなんて、もうやってることが人間じゃないですよ」
するとシルビアさんは、そんなツッコミを入れてきた。
……やりすぎなのは認めるが、これは国士無双の使い勝手を確かめるために必要な犠牲だったのだ。
だから、買い取れないなら買い取れないで良いので、驚くより前に可否の方を聞かせてほしい。
などと思っていると、シルビアさんは大きく数回深呼吸をした後、こう話しだした。
「……まあ、辛うじて鬱血していない肉片の一部とか、出汁を取る用の骨くらいなら一部買い取りはできますけど。……査定額には期待しない方がいいですよ?」
どうやら買取自体は、部分的には可能のようだった。
まあこの素材の状態なら、解体費用を差っ引いても黒字なだけありがたいくらいだよな。
「よろしくお願いします」
というわけで、俺はラッシュボアのかけらを、売りに出すことにした。
「ら……ラッシュボアがバラバラって……ウッソだろ……」
シルビアさんが整理番号を振っている間、横からそんな声が聞こえたのでそちらに視線を向けると……一部始終を見ていた男が、膝から崩れ落ちてしまっていた。
「ま、うん。あれは人間じゃない。人間の中では、俺はまだまだこの街最強だ」
かと思うと、男はそう開き直って、ずるずると立ち去っていった。
……いや俺、れっきとした人間なのだが。
そう心の中でツッコんでいると、シルビアさんが「ファントムコアもあるんですよね?」と声をかけてきたので、それもストレージにある分全て売りに出す。
それも済むと俺は、買取所を出て、スライムの魔石探しにまた草原へと向かった。
これから三日ちょい、また同じルーティーンが始まるわけだ。
◇
それから三日……俺はまた、スキルポイント集めに精を出した。
だんだん「エリアメナス」で魔物が集まりにくくなってきたので、途中から西の森を突っ切ったところにある山を拠点にするなどの変更点はあったが、それ以外はやってきたことは今までと変わらない。
そんなこんなで、俺は更に142900ものスキルポイントを集めることができた。
明日はいよいよ模擬戦なわけだし……それに必要そうなスキルポイントの割り振りを、1個だけ今からやっておこう。
「スキルコード3054 『術式崩壊』取得、強化×10」
とりあえず俺は、まず「術式崩壊」という防御魔法を取得することにした。
このスキルは文字通り、術式を崩壊させることで相手の魔法を無力化できるものだ。
たとえば「三日月刃」の場合、この魔法を当てられると、衝撃波からただの風になってしまう。
模擬戦相手の常連客とやら、ディバインアローの剣を欲しがる以上「三日月刃」は習得しているはずなので……それを使ってくるのを見越して、このスキルを取っておこうというわけだ。
消費スキルポイントは、+10までで5340。
これで残りは137560ポイントだ。
残りのポイントは……俺は今の段階ではまだ取っておくことにした。
「身体強化」や「武術」はもう基礎が固まる程度には習得してあるので、できれば残りのポイントは対魔物戦で有効な妨害魔法の取得に使いたい。
ぶっちゃけスキルコードによるスキルの取得は、戦いながらでもできなくはないので、「身体強化」や「武術」の強化、あるいは対人戦に有効なスキルの取得が必要そうなら必要に応じてやろうというわけだ。
まあ、一応無双ゲージも満タンまで溜めてあるので、そんな事態にはならないと思うが。
やれるだけのことは全てやったので、あとは勝ちをもぎ取るのみ。
などと思いつつ、俺は帰還のため森を突っ切った。
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