第十五話 大量のファントムコアとディバインアローの加工
ありとあらゆる方位からの光の粒子が吸収され尽くすと……ディバインアローの魔石は、煙をあげながらみるみる小さくなっていく。
太陽が完全に隠れてしまうほど空が煙に覆いつくされたところで……魔石は完全に消えてなくなった。
それから、煙はある程度の大きさごとの塊に分かれ……次第に狼の姿を形成していく。
……これ、持ってきた「チェンジ」、足りるかな。
「ストレージ」
などと考えつつ、とりあえず俺は持ってきた「チェンジ」を全て取り出した。
しばらくすると、全ての煙の塊が完全にファントムになる。
「……61体か。ギリギリだな」
あまりにも多くが蠢いていて目では覆いきれないので、俺は「サーチ」の反応から数を数えた。
なんとか、ギリギリ足りる個数に収まったようだ。
「チェンジ」
俺は61個の「チェンジ」を起動し……出現したファントムを全滅させた。
そして全てのファントムコアを収納魔法で収納し、ステータスウィンドウを開いてみると、スキルポイントは計算どおり18300増えていた。
……これだけ一気に手に入ると、武術も身体強化も、一気に+値を上げられるな。
「スキルコード0011 『身体強化』強化×10 スキルコード2001 『武術』強化×11」
俺は計16970のスキルポイントを消費し、この二つのスキルを一気に強化した。
試しに小石を一つ、木の横をスレスレで通るように投げてみると……高速で飛ぶ小石が空気を突っ切る際発生させる衝撃波で、木がスパッと切れる。
……ここまで来れば、ラッシュボアを徒手空拳で倒せる日も近そうだ。
俺は倒れゆく幹を眺めつつ、そう確信した。
残りのスキルポイントは……そうだ。
「武術」の強化値が+10を超えたんだし、アレを取得しておくか。
「スキルコード2003 『Xの眼』取得」
そう思い、俺は新たなスキルを一つ取得することにした。
「Xの眼」というのは、相手の魔物の体内の状態を全把握できるようになるスキルのことだ。
これがあると、魔物の筋肉や心拍の動きから魔物の次の動きが読めるようになるので、相手の未来に合わせた最善の動きを「武術」で繰り出すことができるようになる。
更に、このスキルは魔物のツボの位置も全把握できるできるので、ツボを破壊して行動不能にするといったように、効果的に敵を「壊せる」ようにもなれるのだ。
更にこのスキルの効果範囲は「サーチ」の範囲と連動するので、目視より遥かに相手のことを正確に把握できるようになる。
このスキルを持っていれば、死角から襲われようが、そんなことは一切関係なくなるのだ。
このスキルには取得条件があり、「武術」を+10以上にしないと取得できないが、その条件さえクリアしたなら即座に取得すべきとさえ言える便利な代物だ。
「チェンジ」ももう残り9個になってしまったし……今日はディバインアローを加工してもらうため鍛冶屋にも行きたいので、あとは明日の魔道具用も魔石だけ確保して帰るとするか。
そう考えつつ、俺は魔物を探しながら帰路についた。
◇
「ファントムコアが……ろ……61個……」
そして、ギルドに帰り……買取所でファントムコアを全て売ろうとすると、シルビアさんが口をあんぐりと開けて固まった。
「あの……昨日でさえおかしいと思っていたのに、その4倍を持ってくるって一体どうなってるんですかね。ついに年間捕獲量超えちゃいましたよ!?」
「ちょっと効率化できたんで」
「おかしいですね……この効率化は、『ちょっと』じゃないと思うのですが」
……確かに、これだけのファントムを仕留めきれたのはジーナの彫刻スピードのおかげでもあるので、それを「ちょっと」と評するのは失礼か。
シルビアさんのツッコミを聞きながら、俺はそうぼんやりと考えた。
「……ファントムコアは61個で1220万パースになります。あと、今まで持ち込んでくださった素材については、ラッシュボアとギガントホーネットの巣、シャドウレスラー、パワーイーグル、アースクェイクを合わせて150万パースとなります。全く、一回の換金額が千万を超えるなんて、このギルドじゃ初ですよ……」
そしてシルビアさんはそう言って、俺の目の前に山のように金貨を積み上げた。
「今日持ってきてくださった素材につきましては、また解体が済んだら査定額お伝えしますね」
俺が金貨の山を「ストレージ」に入れていると、シルビアさんはそう続けた。
……そうだ。どうせなら、ここでちょっとおすすめの鍛冶屋さんでも聞いてみるか。
「あの……すみません。もし知ってたらお聞きしたいのですが……これを加工してもらえる鍛冶屋って、どこかいいとこあります?」
俺はストレージからディバインアローの死体を取り出して見せつつ、そう尋ねてみた。
「でぃ、ディバインアロー!? よくそんな幻の魚、見つけましたね……」
するとシルビアさんは、驚きのあまり目が点になった。
「そうですね、それを加工できるとなると……」
そしてシルビアさんは、額に手を当て、記憶を辿り始めた。
それから待つこと数分。
シルビアさんは申し訳なさそうな表情で、こう答えた。
「すみません。思い当たる鍛冶屋は一つだけあるのですが、あそこがオススメかと言われますと……」
シルビアさんは、その「思い当たる鍛冶屋」について、あまり良くない印象を抱いているようなのだ。
「……何か問題でも?」
聞いてみると、彼女はこう答える。
「ディバインアローの加工ができる鍛冶屋でしたら、この街だと『ヴェルグ工房』しかございません。ただ……あそこの鍛冶師、腕前は確かなのですが、ちょっと性格がですね……」
……腕前が確かなのに性格が原因でオススメできないって、一体どんな性格だよ。
まあでも、他に加工できるところがないなら、行ってみるしかないか。