第百二十話 基地の防衛措置
アナウンスを聞いて……俺は、全身に鳥肌が立ちそうになった。
違う。このサイレンは、脱走警報なんかじゃない。
というかそんなことより――この基地、「永久不滅の高収入」の本部じゃないか。
「レベル〇封鎖」というのは侵入者から基地の重要拠点を守るための防衛措置のことであり、〇の中の数字は、大きいほど防衛が厳重であることを示している。
この防衛措置自体、実装されている基地はあまり多くないのだが……そんな中でもレベル10というのは格別で、これは本部にしか実装されていない最高レベルの封鎖体制だ。
前世の俺ですら、NSOで実物を見たことはない。
なぜなら俺が前世で死ぬまでの間に、「永久不滅の高収入」との最終決戦は実装されなかったんだからな。
じゃあなぜこんなことを知っているのかというと、それはNSOの公式設定集にそうやって書いてあったからだ。
ここが本部ってことは――それすなわち、「永久不滅の高収入」の総長がここにいるということ。
ソイツを倒せば、「永久不滅の高収入」の息の根を完全に止めることができるのだ。
こんな大チャンス、興奮しないようにする方が難しいというものだろう。
「封鎖って……これ、本当に逃げられるのか?」
アナウンスを聞いて、ノヴァンが心配そうに尋ねてきたが……その点については心配無用だ。
「大丈夫です。上空が塞がれるわけではありませんから」
レベル10封鎖というのは、あくまで基地の重要な箇所を守るための措置。
侵入者を外へ逃がさないためのものではないのだ。
だから基地の破壊された部分が修復されたりすることはないし、空を覆う対物理結界が張られて浮遊移動魔道具が出られなくなるというような事態も起こりえない。
そんなことより、問題はもう一つの防衛措置の方だ。
「ただ、できる限り急いでください。ここも含め、基地全体にかなり強力な毒ガスが撒かれますから」
「化学的防衛」というのは、古代魔法で耐性を獲得した構成員以外にとっては猛毒であるガスを撒くことで侵入者を殺すという、言ってみれば対人間用バルサンみたいなものだ。
耐性のない人間にとっては一秒あたり二百万のダメージが入る毒なので、「青龍偃月刀」の熱にすら耐えられなかった「神威作戦群」の三人ではひとたまりもないだろう。
ガスの散布装置は大抵天井についているので、この場所に直接毒ガスが撒かれることはないが……それでももたもたしていたら、通路などから漏れてくるガスを吸い込んでしまう危険性がある。
「強力な毒ガスって……ジェイド君、まさかその中を攻略していくつもりか!?」
「ええ。俺には大して効かない毒なので」
一秒あたり二百万程度のダメージなら、素で受けても千秒は耐え続けることができる。
それに一瞬でも《神・国士無双》を発動すればHPが満タンにリセットされるので、無双ゲージをセーブしながら進んでも死ぬことはまずあり得ないと言えるだろう。
「……まあ、君ならそれもそうか」
ノヴァンはポケットに手を突っ込むと、俺に握手を求めてきた。
「武運を祈る」
そう言って握手の際に手渡されたのは――「神威作戦群」のチャレンジコイン。
「ええ、そちらこそご無事で」
俺はそう言い残すと、元来た通路を戻る方向に走り出した。
しばらくは進むことができたが、程なくして俺はオリハルコン合金製のシャッターにより進路も退路も塞がれてしまった。