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第百十九話 救出作戦

 さて、と。

 じゃあ今度こそ、収容された人たちの救出に行かなければな。


「終わりました。行きますよ」


 討伐完了報告も兼ねて、俺は「神威作戦群」の三人にそう声をかけた。

 すると……彼らは思いつめたような表情で、こんなことを言い出した。


「な、なあ」


「何ですか?」


「一つ頼みがある」


 どうしたんだろう。


「もし今後強敵が出てきた時は、私たちを庇おうなんて考えないで、討伐だけに集中してくれ」


「え……?」


「私たちが戦力外であることは、今の戦いを見ていて痛感した。だからせめて……ジェイド君の足を引っ張るような真似だけはしたくないんだ」


「私たちも自分なりに身を守ろうとはしてみるけど、それでもダメそうな時は遠慮なく私たちを見捨ててねってことよ」


 何かと思えば、彼らは完全に自分たちが足手まといであると認識してしまったようだった。

 まあ正直……もし俺がいなければ、この三人だけじゃ青龍偃月刀の時点で完全に詰みだっただろうしな。

 客観的に見て、そんな判断になるのもしょうがないか。

 だが……それならそれで、俺としてはこの三人に任せたいことが一つある。


「正直……帰りたいですか?」


 まず俺は頼み事の前に、現在の彼らの心境の確認を取った。


「個人的感情だけの話をすればな。だがこれでも私たちはこの国で最高峰の特殊部隊だ。『入口まで送り届けてくれ』なんて我儘は言わないから安心してくれ」


 ノヴァンは俺が三人を帰路に着かせようとしているとでも勘違いしたのか、そんな答えを返してきた。


 そういうつもりで聞いたわけじゃないんだけどな。

 とりあえず、本心では帰りたいということだけ確認できれば十分だ。


「でしたら一つ、お願いがあります」


 そう言って俺は、本題に入った。


「この施設に収容されている人々を連れて、安全なところに避難してくれませんか?」


 そう。帰ってもらうこと自体に変わりはないのだが、ついでに一般人の救出を丸投げするのだ。

 こうすれば、「神威作戦群」のみんなは基地から離れられるし、俺は一般人に配慮する必要なく本来やるべき基地殲滅に専念できる。

 まさにウィンーウィンな戦略と言えるだろう。


 と思ったが、ノヴァンはこの提案に対し、不安げな反応を見せた。


「そんなことで良ければもちろん協力する。だが……恥ずかしながら、それすら私たちに務まるかどうか」


「どういうことです?」


「入り口まで収容されている人々を送り届けなければならないのだろう? その途中でさっきみたいなのに遭遇すれば……申し訳無いが、私たちでは勝ち目がない」


 なんだ、そういうことか。

 その不安──ただの杞憂だぞ。


「ご心配なく。避難するまでの間にあなた方が敵に遭遇することはありません」


 俺はそう断言した。

 やり方は今言っても信じられないだろうから現地でやってみせるが、避難経路はもともと別で用意するつもりだったからだ。


「避難方法は後で説明しますから、とりあえずついてきてください」


「何か良い案があるのか? まあジェイド君が言うなら……」


 俺は三人(及び生贄にされかけてた一人の一般人)と共に収容所に向かった。

 収容所の前には門番が二人立っていたが、《国士無双》すら使わず、それぞれ一撃ずつで瞬殺した。


「ひ、酷いわね、ここ……」


「ああ。監獄でもこんな人の扱い方はしないぞ……」


 収容所にはたった一つの大部屋しかなく、その中には百を超える捕虜がぎゅうぎゅう詰めにされていた。

 入り口のフェンスを掴んで引っ張ると、フェンスのみならず周囲の壁も含めてバコッと外れた。


「助けに来ましたよ!」


 そう声をかけてみるも、大多数はぐったりとしたままで、比較的元気そうな十数人が微かに笑顔を見せただけだった。


「だいぶ弱ってるな……」


「この状態の人々を連れて逃げるなんて、本当にできるのかしら……」


 動ける人が何人いるかも怪しい現状を目の当たりにし、「神威作戦群」の面々は不安げな様子を見せる。

 そこは心配しなくても大丈夫なんだけどな。


 じゃあーー避難経路確保といこうか。


「スキルコード3335 《爆砕》強化×90」


 まず俺は、必要なスキルをある程度まで強化した。

 このスキルを強化するということは……そう。

 俺が用意しようとしている避難経路は、天井を破壊して吹き抜けにし、空から逃げるというものだ。

 収容所が基地内でも比較的地上に近いところにあると分かった時から、俺はこの作戦を思いついていた。

 基地から出るのに、わざわざ出入口まで戻る必要などない。

 出入口くらいなら、作ってしまえばいいのである。


(《神・国士無双》)


「《爆砕》」


(中断)


 《国士無双》状態で《爆砕》を発動すると、天井が吹き飛んで消え去り、日光が差し込んだ。


「では、これを使って逃げてください。《ストレージ》」


 幸いにも、俺は工場で大量の浮遊移動魔道具を入手することができた。

「神威作戦群」の三人だけならまだしも、体力のない捕虜たちまで自力で上空に逃げなければならなかったらかなり骨が折れただろうが……これさえあれば、たとえ寝たきりの人だって避難は容易だ。

 俺が一切手を貸さずとも、彼らは全員無事逃げきれてくれることだろう。

 置き場に苦労しつつも、俺は自分用の一台を除く全ての浮遊移動魔道具を地面に並べ終わった。


「思ったより力技だったわね……」


「ジェイド君ほどともなれば、こんな強引な避難経路作りさえもできてしまうのか」


 感嘆と呆れが混じったような表情で、「神威作戦群」の面々はそんなことを呟きながら頭上の穴を見上げる。


「ここに収容されてた人たちは浮遊移動魔道具の操縦方法を知りません。とりあえず基地から離れてくれればなんでもいいので、エリアXX外の任意の場所に航路をセットして、彼らを乗せて飛ばしてください」


「わ……分かった」


 ここのみんながエリアXXを後にしてくれさえしたら、俺はいつでも好きなタイミングで崩壊粒子砲を打てる。

 つまり――避難完了こそが、実質的な俺の完全勝利の瞬間だ。

 まあその前に、もう少し基地内に探りを入れて、他に何かないかの確認はしたいがな。




 などと思っていると――突如、異変が起きた。

 思わず耳を塞ぎたくなるような、けたたましいサイレンの音がそこかしこから聞こえてきだしたのだ。

 今度は一体何だ。

 脱走を防ごうとでも言うつもりか?

 エンペラーイフリートが追加でやってくるくらいであれば、対処の手間も大したことないのでありがたいのだが。


「気にせず避難を続けてください」


「神威作戦群」にはそう伝えつつ、出方を窺っていると……続けてこんなアナウンスが流れた。


『極めて重大な施設の損傷を検出しました。レベル10封鎖及び化学的防衛を行います』


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[一言] 元凶ジェイド君やね
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