第百十七話 初戦闘と警報
「まずはここが最初の攻略地点です」
浮遊移動魔道具製造所と書かれた表札が貼ってある扉の目の前にて。
「この近くに、『永久不滅の高収入』によって攫われた人が集められた収容所があるはずです。まずはそれを見つけたら、収容されている人たちを救出しましょう」
そう言って俺は、簡潔にこれからの作戦を説明した。
「入りましょう」
俺は扉を蹴破った。
別にここの扉はオリハルコン合金製でもなければ油圧制御魔道具も使われていないので、《神・国士無双》などは使わずともただのキックで吹っ飛ばせた。
「収容所って……ただの工場じゃないか」
「ここで作られている魔道具は、製造過程で生贄を必要とします。生贄を連れてくる利便性を考えて、収容所は隣接されているはずです」
「い、生贄……物騒な単語だな……」
などと話していると……早速工場の作業員と思しき人たちが集まってきた。
「何者だ!」
うち一人がそう叫んだかと思うと、皆戦闘の構えに入った。
コイツらは――大して強くなさそうだな。
範囲攻撃で軽く全滅させられそうだ。
でも、その前にっと。
「これ、全部もらってくよ。《縮地》」
俺は作業員たちを通り過ぎ、完成直後の新品の浮遊移動魔道具が陳列してあるところに向かった。
範囲攻撃に巻き込んで破壊してしまっても勿体ないし、とっとけば捕らわれた人たちの救出でも役に立つかもしれないからな。
これらは一旦安全なところにしまっておこう。
「《ストレージ》」
俺は全ての浮遊移動魔道具を収納した。
「おい、どこに消えやがった!」
「う……後ろ!」
「あ、お前、浮遊移動魔道具をどこにやりやがった!」
作業員たちはといえば、俺が収納を終えた頃になってようやく背後に回られたことに気付いたようだ。
うん。こんな奴ら相手に《神・国士無双》は必要ないな。
「《縮地》」
俺は再び「神威作戦群」の三人の居場所に戻った。
この三人を傷つけずに範囲攻撃を行うためには、台風の目にいてもらう必要があるからな。
「あれ、今度はどこだ!?」
作業員たちはまたもや俺を見失ってしまったようだ。
「こっちだ。そんな動体視力で大丈夫か?」
「何を……なめんなァ!」
無駄な会話はこの程度にしておいて、サッサとケリを付けるとするか。
「《ハイボルテージトルネード》」
俺はそう唱え、スキルを発動した。
すると……一瞬にして、視界は灰色と稲妻だけになってしまった。
「「「ギャアアアアアァァァァァァ!」」」
そんな人の叫び声以外にも、工場の機械や備品がガコンガコンと壁や天井などにぶつかる音も鳴り響く。
+255にしてからこのスキルを使うのは初めてだが、なんか前とは別物かってくらい威力が上がっているみたいだな。
当然ちゃ当然だが、実際に見るとなんというか、結構壮観だ。
「な、なんなのこれ……これもジェイド君のスキルなの?」
「そうですよ」
「まるで自然災害ね……」
「いや、自然災害でもこうはならんだろう。まだ自然災害の方がマシだぞ」
「神威作戦群」の三人はといえば、目を白黒させながら口々に竜巻の感想を語り合っている。
竜巻が収まってみると、そこには原型を留めているものなど何一つなかった。
あまりの風圧のせいか、隠し扉という隠し扉が全て吹っ飛んで、周囲は通路だらけになっている。
多分、このうちのどれかが収容所に繋がっているんだろうな。
「次はこっちです」
おそらく、一番人数が多い部屋に繋がっている通路が正解のルートだろう。
そんな予測を立てつつ、俺は右斜め前の通路を指差した。
その通路を進んでいると……俺たちは、目と口を覆われた人を二人の大柄な男が引きずっているところに出くわすこととなった。
見たところ、生贄とそれを運ぶ作業員の残党だな。
生贄が運ばれてるってことは、やはりこの通路が収容所に繋がってるってことで間違いないようだ。
「な、何だお前ら!」
「こいつがどうなってもいいのか!」
作業員の残党はそう言って、運んでいる生贄の首元にナイフを突きつけるが……正直奴らじゃ俺のスピードについてこれないので、あまり関係ないな。
「《縮地》」
俺は彼らに肉迫すると、今までと同じく二発ずつのパンチで戦闘不能にした。
もちろん、ナイフを動かす暇も与えずに、だ。
はい、人質は無傷。
しかし今までの生活環境がよほど劣悪だったのか、今にも死にそうなほどに弱っているので、回復だけはさせといた方がいいだろうな。
「《ヒール》」
俺は人質の体力を戻した。
「ちょっと彼を預かってくれませんか?」
「ああ、分かった」
人質は三人に預けて守ってもらうことに。
じゃ、更に先に進もうか。
と思ったが――次の瞬間、予期せぬ事態が発生した。
『警告。指定主要通路Fにて戦闘を検知しました。工場長は直ちに現場を確認してください』
けたたましいサイレンと共に、そんな警告が発出され……通路が進む方向も退く方向もフェンスで塞がれたのだ。
なるほど……そういう仕掛けがあったか。
確かにこの通路は、基地内で唯一部外者の存在が想定される場所。
それゆえに、戦闘を検知してアラートを鳴らす設備まで作って厳重な警戒態勢を敷いていた、と。
これは一本取られたな。
さて、この状況をどうするかだが……強引に先に進むのは、おそらくやめておいた方がいいな。
見たところフェンスはさして頑丈ではないので、蹴破ればどうとでもなりそうだが……問題は、これからここを見に来るであろう工場長とかいう人物だ。
構成員の中でも主要メンバーとなれば、その戦闘力がいかほどかはなかなか読めない。
勝てないということはないだろうが、大魔法の応酬とかになればとんでもない戦いの余波が出てしまうことも考えられなくはないだろう。
仮にそうなっても、近くにいる人質がこの一人だけであれば「神威作戦群」の三人が守り抜いてくれるだろう。
しかし人数が多くなれば、この三人では手が回り切らず、戦いの余波で人質に死人を出してしまうかもしれない。
そうなってしまうのは避けたいところだ。
工場長は先にここでやっつけて、後から満を持して人質救出をやったほうがいいだろう。
「ジェイド君、これは……」
「工場長とやらとは、俺がやります。皆さんは結界とか回復魔法とかで、彼が戦闘の余波で怪我しないように守ってあげてください」
「……了解した」
作戦を伝えたところで、俺たちは静かに工場長なる人物の到着を待つ。
数分して、通路の工場側の方から目が赤く光る一人の大男が歩いてきた。