第百十六話 浮遊移動魔道具製造所へ
「い、今のってオリハルコン合金製の扉だったよな……」
「あんな重厚な扉が……吹っ飛びすぎでしょ……」
「人間じゃねーですな……」
ふと見ると、三人との顎が外れんばかりに口をポカーンと開けて固まっていた。
「……早く行きますよ」
「お、おう、すまない」
三人が我に返ったところで、探索開始だ。
今回の探索の方針だが――まず俺は、浮遊移動魔道具の製造を行っている場所から攻略しようと思っている。
なぜなら、その近くに生贄要因として連れてこられた一般人の収容施設がある可能性が高いはずだからだ。
浮遊移動魔道具の作成では、その工程で生贄を伴う儀式を行う必要がある。
である以上は、ある意味「材料」とも言える生贄要因を製造場所の近くに置くはずだと考えるのは自然なことだろう。
最終的に崩壊粒子砲あたりで基地を丸ごと吹き飛ばすであろうことを考えれば、無関係の一般人は先に避難させておきたい。
要はまず生贄要因の救出を行うために、収容場所に目星をつけて探索を進めようというわけである。
問題は、どうやって浮遊移動魔道具の製造場所を見つけるかだが……実はこれには一つ、良い方法がある。
「アップグレードコード1111 《ウルトラエコーロケーション》取得」
俺はそう唱え、《サーチ》系列のアップグレードを一つ取得した。
《ウルトラエコーロケーション》は、NSOに存在する中でもっとも高性能な物理系探知スキルだ。
効果は、「人が感知できないあらゆる周波数の電磁波と音波を放ち、形状を把握する」というもの。
要は名前の通り、イルカやコウモリがやる超音波による位置の把握と原理は一緒なのだが、このスキルのそれは「あらゆる周波数」というのがミソだ。
物体はそれぞれ材質によって特定の周波数の光を通したり通さなかったりするが、あらゆる周波数を用いていれば、どんな物体に対しても透過するものと反射するものが存在することになる。
それにより、どんな障害物があろうとも関係なく、効果範囲内であれば何でも解析し尽くすことが可能なのだ。
効果範囲は《サーチ》の+値に依拠するので、今の俺はこのスキルだけで基地全体の構造を完璧に把握することが可能だ。
もちろんこれは物理特化の探知スキルなので、これで「どこに特に強い魔力反応があるか」みたいなことまでは調べられない。
しかし、今俺が知りたいのは浮遊移動魔道具の工場だ。
そのためには浮遊移動魔道具と同じ形状のものが出来上がっていってる場所さえ分かればいいので、この物理探知スキルが十分に役目を果たせる。
「《ウルトラエコーロケーション》」
スキルを発動すると、早速脳内に基地の全体像がインプットされた。
全体像から、俺は迷路を解くような感じでここから工場までの経路を突き止める。
「こっちです」
「お、おう」
三人は「なぜ分かるのか」とでも言いたげに首を傾げながら俺についてきた。
しばらく進むと、俺たちは通路を歩いていた一人の構成員と出くわした。
「おま――」
「《縮地》」
あまり戦闘の形跡を残したくなかったので、俺は一瞬で構成員の眼前に移動すると、顎と首にそれぞれ一発ずつ浸透勁のパンチを打ち込んだ。
今は脳震盪で気絶しているが、そのうち頸動脈の内出血で死に至るだろう。
「《ストレージ》」
過去に習得した《条件付き生物収納》のアップグレードのおかげで戦闘不能にした生物は収納できるので、コイツを入れて証拠を隠滅する。
「終わりました。進みましょうか」
俺は三人のところに戻ってそう声をかけた。
「い、今一体何が……」
「気がついたら終わってた……目が全然追いつかなかったわ」
「瞬きしてる間に目の前から人がいなくなったっす……」
三人はといえば、揃いもそろって目が点になっていた。
またか。
「い……今何をやったの?」
「《縮地》で接近して、二発のパンチで脳震盪と頸動脈出血を起こさせて収納しました」
「言葉だけ聞くと意外と普通の戦闘ね……。収納が何かは分からないけど」
「それだけ基礎がしっかりしてるってことだろうよ。俺たちも相当積み上げてきたつもりだったが……おそらくジェイド君のそれは、根本的にモノが違う」
基礎、か。
言われてみれば、確かに+値ってゲーム用語を使わずに表現するなら基礎とかになりそうな気がしなくもないな。
って、余計なことを考えている場合じゃない。
「行きますよー」
「え……ええ、ごめんなさいね。私としたことが、呆然としちゃって」
「「俺たちも、すまん」」
三人とも我に返ったところで、また更に奥へと進むことに。
途中でも二、三回構成員にエンカウントすることはあったが、全員同じ方法で倒したので、驚かれはしても唖然として固まられることはもうなかった。