第百十五話 基地突入
次の日。
国王から指定された時間に、俺は謁見の間に赴いた。
「陛下、おはようございます」
「おお、ジェイド君。よく来てくれた」
「神威作戦群」とはここで待ち合わせることになっているが、彼らはまだ到着していない。
もし彼らが「永久不滅の高収入」と内通していた場合、彼らが先に来るとまずいことになるかもしれないとのことで、確実に俺が先に来るよう集合時刻を十分ほどずらすことにしたからだ。
しばらく待っていると、「神威作戦群の皆さんがお見えです」という門番の声がした後、扉が開いて三人の男女が部屋に入ってきた。
(《鑑定》)(《鑑定》)(《鑑定》)
早速、三人を矢継ぎ早に鑑定する。
結果はといえば――全員シロだった。
流石に国王直属の特殊部隊にまで魔の手が忍び寄っているということは無かったか。
とりあえず一安心だな。
「はじめまして、ジェイドと申します」
俺が自己紹介をすると、国王が後ろでホッと胸を撫でおろした。
国王との協議の末、もしコイツらに内通者が混じっていた場合俺はソイツを問答無用で秒殺する手筈になっている。
逆に言えば、こうして普通に自己紹介をするというのは、「コイツらは潔白でしたよ」という合図を意味するのだ。
疑いをかけていることを悟られないようにしたいという国王の希望で、こういうやり方を取ることになった。
「はじめまして、私はノヴァンだ。あまり詳しいことは知らないが、君が次の任務の協力者だってことだけは陛下の侍従から聞いている。よろしく頼むよ」
「神威作戦群」側からは、まず三人の中のリーダーっぽい男が自己紹介をして、握手を求めてきた。
全員がお互いに信頼できることが確定したところで、ここからは四人に今回の件の全貌を説明する時間となった。
説明が終わると、早速俺たちはエリアXXに向けて出発することに。
王宮の外に出ると、俺は人目につかない空き地に四人を誘導し、そこで《ストレージ》から浮遊移動魔道具を取り出した。
「これが『永久不滅の高収入』が作った魔道具だというのか……」
「とてもただの奴隷商が開発できるもんではねーですな」
「私達、とんでもない相手と戦うことになりそうね……」
浮遊移動魔道具を目にすると、三人の表情が引き締まった。
「皆さん、乗ってください」
「これで移動するの?」
「ええ。これに乗っていれば、『永久不滅の高収入』の仲間に擬態しつつ基地に近づけますから」
「そ、それはそうね……」
最初は得体の知れない魔道具に乗るのを躊躇していた三人だったが、理由を説明すると納得して搭乗してくれた。
サルベージした航行履歴を元に目的地をセットすると、機体が空に浮かび上がり、エリアXXめがけて飛び始めた。
「すごい速さですな……」
「全くだ。こんな代物を持つ犯罪組織があるとも知らずに今まで過ごしていたとは……恐ろしい限りだな」
そんな感想を述べたっきり、彼らは完全に無言になってしまった。
どうやら全員、瞑想に入ったようだ。
事の重大さを受け止めた上で、今は集中力を高めることに徹しようというわけか。
静寂が続いているうちにもエリアXXは近くなり、機体が高度を下げ始めた。
下を見る限り、辺りは一面のスラム街だ。
と思っていたが……減速もしだすようになる頃にはまた景色が変わり、ただの荒野となった。
進行方向にも特に建物があるようには見えないし――おそらく今回の基地も、前回と同じく地下施設型の可能性が高そうだな。
そこから着陸までは、三十秒ほどもかからなかった。
降りてから浮遊移動魔道具を《ストレージ》にしまい、辺りを見渡すとすぐそこに地下へと続く階段が。
「ここが基地の入口っぽいですね」
「ドンピシャじゃないか。凄い運転技術だ……」
「いえ、履歴を元に目的地設定して、あとは自動運転でここまで来ただけですが」
「そんな機能があるんだな……」
なんか一瞬変な勘違いをされかけたが、まあそんなことはどうでもいい。
「降りますよ」
「「「了解」」」
今回の扉も、オリハルコン合金製な上に油圧制御魔道具で両側から押さえつけられているようだ。
前回は、声を変えて組織の人間に擬態することで扉を開けてもらい、中に入った。
しかし俺は今、現在存命の「永久不滅の高収入」の構成員の声のサンプルを持ち合わせていないので、その手は使えない。
ということは――強引に突破するのみだな。
(《神・国士無双》)
(解除)
俺は一瞬だけ《神・国士無双》を発動し、パワーアップした状態で扉を思いっきり殴った。
すると、扉は二枚とも通路の突き当たりまで勢いよく吹っ飛んでいった。




