第百十話 告発相手の選定
さて、これで証拠は手に入ったわけだが……問題は、これを誰に告発するかだな。
この国は、軍隊のトップである元帥までもが「永久不滅の高収入」に侵食されているのだ。
他にもどこの組織のどんなポジションの人が「永久不滅の高収入」の一味か分からない。
告発の相手を間違えると話をもみ消されたり、最悪の場合俺が犯罪者に仕立て上げられたりする恐れもあるだろう。
一体誰が一番適切だろうか。
先日訪れたギルドのギルド長……は、ちょっと心許ないな。
Sランク冒険者という立場を有する以上、そこそこ権力がある人の中で一番相談しやすいのはギルド長となるわけだが。
エリアXXへの立ち入り許可がギルドで取れなかったことからも分かるように、パワーバランス的にはギルドより軍の方が上だからな……。
ギルドからの上申で軍を浄化するのは難しいだろうし、逆にギルド長ごとこちらが犯罪者認定でもされてしまったら最悪だ。
となると……もはや直々に国王相手に告発するしかないか。
国王なら正真正銘国のトップ。
国王本人が「永久不滅の高収入」の支配下に無い限りは、暗殺対策さえちゃんとやっておけば、もみ消される心配もこちらが犯罪者にされる心配もほぼ無いと考えられるだろう。
問題は、特にこの国で功績を挙げたわけでもない外国人である俺がどうやって国王に謁見するかだな。
Sランク冒険者なので、普通であれば然るべき手続きを踏めば会うのはそんなに難しくないのだが……それでもこの国での功績が無い以上は、謁見の申請をしてから最終承認が降りるまでに途方もない何重ものチェックを受けることにはなるだろう。
そしておそらくこのイフリート、もしもに備えて俺の謁見申請を承認フローのどこかで却下するくらいの根回しは済ませているはずだ。
つまり、通常の方法で国王に会うことはできないと考えた方がいい。
今の俺に必要なのは、重度の緊急性を演出し、あらゆる手順を省略してアポ無しで即国王に会えるよう立ち回ることだ。
しかし、そんなこといったいどうすれば。
頭を悩ませているその時――俺の視界に、ちょうど良さそうなものが目に入った。
イフリートが胸につけている、元帥の徽章だ。
これを持ち、王宮の門番に「とある任務で元帥と行動を共にしていた者です。大至急国王陛下に会わせてください」とでも頼み込めば、すぐにでも謁見させてもらえる可能性が高いだろう。
「あと、ちょっとこれ借りますね」
依然口をあんぐりと開けたまま固まっている元帥にそう声をかけつつ、俺は胸の徽章を奪った。
「おい! な……何をする気だ!」
「あなたに言う義理はありません。《ストレージ》」
そしてその徽章も《ストレージ》にしまっておく。
「こ……こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「それはこっちのセリフです。《国士無双》」
ここで揃えるべきものは全部揃ったので、俺は王宮に向かうために《国士無双》を発動した。
《国士無双》なら浮遊移動魔道具よりもイフリートの飛翔よりも断然速いので、俺の方が先に王宮に到着することができる。
「では、さようなら」
「ま、待てぇぇ!」
俺が《飛行》を発動すると、イフリートもすぐさま飛んで追いかけてきた。
が、飛行速度が圧倒的に違うので、すぐさまイフリートが米粒に見えるくらいまで距離が離れてしまった。