第十一話 売れない芸術家
「ゴファッ!」
俺の蹴りを食らった者は、少しばかり宙を舞い……地面に転がると、痛みにのたうち回るでもなく微動だにしなくなった。
そんな様子を確認しつつ、他の者が状況を把握できないうちに再度「縮地」を発動、俺は物陰に移動した。
物陰にて……俺は急いでステータスウィンドウを開き、スキルポイントを確認する。
するとスキルポイントの欄は、80ポイントから90ポイントに増加していた。
「……確定だな」
それを見て、俺はそう呟いた。
実はNSOでは、魔物を倒す以外にも例外的にスキルポイントが入手できる状況がいくつかあるのだが……「盗賊を気絶させる」は、そのうちの一つ。
「暗殺術」を駆使して盗賊を気絶させた場合、一人あたり10ポイントが手に入る仕様になっていたのだ。
状況的にほぼ明らかではあったものの、一応確たる証拠が欲しかったので、あえて少し手加減して一人目は気絶にとどめたのだが……これで10ポイントが手に入ったということは、もう容赦することはないな。
俺は慌てふためいている盗賊団に向かって再度「縮地」で近づくと、次々に蹴りをお見舞いし、誰一人に気づかれないうちに全員を始末した。
そして、残った女の子から猿轡を外す。
女の子は気絶させられているようで……猿轡を外しても、一向に起き上がる様子はなかった。
「……さて、どうするかな」
その状況を見て……俺はどうしたらいいのか、少し考え始めた。
見たところ、特に特殊な状態異常とかにはかかっていなさそうだし……おそらく、「ヒール」でもかけてやりさえすれば、起き上がってくれることだろう。
だが……今の俺のスキルポイントはたったの90。
これでは、「ヒール」のスキルを獲得することすらままならないのだ。
であれば、選択肢は二つ——スキルポイントを集めに魔物狩りにいくか、女の子が自然に起きるのを待つかに絞られるが、正直どちらも得策とは思えない。
気絶した女の子一人を放置して別の場所に行くのはリスクが高すぎるし、女の子が自然に起きるのを待っていてはおそらく夜になってしまうからだ。
何か、そのどちらでもないいい方法はないものか。
とりあえず「サーチ」だけ発動しながら思案していると……ちょうどいいタイミングで、「これだ!」と思えるものが通りかかってきた。
上空で、パワーイーグルという魔物がホバリングしだしたのだ。
おそらく、俺たちを獲物として狙うことにしたのだろう。
だが……そこにいると分かっていれば、先制攻撃あるのみ。
「チェンジ」
俺は魔石を交換すると……飛ぶ力を失って落ちてきたパワーイーグルに対してナイフを突き出し、急所に深く刺しこんだ。
直後、俺のスキルポイントは90から130に。
「スキルコード3124 『ヒール』取得」
必要ポイントが貯まったので、俺は「ヒール」を取得した。
早速、気絶している女の子に対し、「ヒール」を発動。
すると……その女の子は、ゆっくりと身体を起こし始めた。
「あれ、ここは……」
などと言いつつ、女の子は周囲を見渡す。
そして、
「ヒェッ!?」
周囲にいる、泡を噴いたり血を流したりしている盗賊たちを見て、気が動転してしまったようだった。
……しまった、盗賊たちは視界に入らないよう物陰に隠してから「ヒール」すればよかったな。
などと反省しつつ、俺は女の子が落ち着きを取り戻すのを待った。
◇
「もしかして……あなたが助けてくださったんですか?」
しばらく待っていると……女の子は俺の方を向き、そう尋ねてきた。
「ええ、まあ。……助けられたという自覚があるってことは、攫われたところまでは覚えているんですね?」
「はい。攫われたというか、騙されたというか……」
「……もし良ければ、なんで攫われたのか答えることってできます?」
女の子の物言いがちょっと引っかかる気がしたので……俺は一応、攫われた経緯を聞いてみることにした。
すると、こんな答えが返ってきた。
「私……一応芸術家をやってるんですけど、全くといっていいほど作品が売れなくて。生活に困窮していたところ、『いい儲け話がある』と誘われたんです。今よく考えたら絶対に乗るべきではなかった怪しい話だったんですけど、そんな判断もままならないほどに困っていて。それでついていったら……『今からお前を売り飛ばす』と言われ、そのまま気絶させられたんです」
「なるほど……」
それで「騙されたというか……」などと言っていたのか。
経緯を聞き、俺は女の子の発言に納得がいった。
「……ちなみに芸術家って、どんな作品を作っていたんですか?」
そして俺は、ちょっとでも心を安らげてもらおうと思い、そっちの方向に話題を変えてみる。
「主に彫刻です。腕には自信があるんですけど、全然売れなくて……。まあ実際は、上には上があるってだけの話なんでしょうがね」
すると彼女は、自嘲気味にそう答えた。
って……彫刻!?
「あっ、ということは!」
それを聞いて……俺は、一つの名案を思いついてしまった。
彼女も仕事ができるし、俺も冒険を効率化できる、そんなお互いにとってwin-winな案をだ。
それはもちろん、「チェンジ」などの魔法陣を、彼女に刻んでもらうこと。
彼女に、俺の専属魔道具師となってもらうのだ。
スライムくらいなら、彼女にでも倒せるし……これが成立すれば、俺は下準備の一切に時間を取られず、冒険だけに専念できることになる。
彼女がこの提案に乗るかどうか、ちょっと聞いてみるとしよう。
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