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第百九話 イフリートが仕掛けた罠

 次の日。

 早速俺は、マイズ元帥ことイフリートと共に「討伐任務」に出かけることとなった。


「目的地は遠い。これに乗って行こう」


 待ち合わせ場所として指定された、とある軍の施設の屋上にて……イフリートはそう言って、自分以外が使うところを一度も見たことがない魔法を一つ発動した。

 収納魔法だ。


 《ストレージ》は人間の中ではノービス固有のスキルだが、高度な知能を持つ魔物の中には似たような魔法を扱える奴が存在する。

 イフリートも、そんな魔物の一種だ。


 肝心の、収納魔法から取り出したものはと言えば――なんと、浮遊移動魔道具だった。

 コイツ、隠す気すらないのか。

 多少「永久不滅の高収入」固有の魔道具を見せたとて、この後殺すんだからどうでもいいとでも言うつもりか?


「この魔道具はな、高速で空を飛べるんだ。どうだ、そんな魔道具があるなんて思ってもみなかっただろう? ミミア王国軍は凄いんだぞ」


 取り出した浮遊移動魔道具を指しつつ、イフリートは自慢げな口調でそう説明する。


 ここは……一応、知らない体で通しておくか。

 俺がどこまで「永久不滅の高収入」について知っているかは、これ以上開示しない方が良い気がするからな。


「そ、そんな魔道具が……凄いですね!」


「そうだろう? じゃあ、行くぞ」


 ご満悦な表情で、イフリートは浮遊移動魔道具のハッチを開ける。

 俺が乗り込むと、イフリートは魔道具を起動して目的地をセットし、移動開始となった。



 向かう先は、ミミア王国北部の山奥のようだ。

 そこに向かって飛ぶ中……俺はどんな罠が待ち受けているかについて軽く思案した。


 正直、罠の内容はある程度予測がついている。

 一番有力なのは、「失敗作の神竜」が待ち構えているというものだ。


「失敗作の神竜」というのは、エンシェントドラゴンの細胞を培養してつくられた人工物のドラゴンであり、培養前の細胞の初期化の際遺伝子に傷がついて変異種になっていることからその呼称がついている。

 その作り手は往々にして、高度な知能を持つ魔物だ。


 イフリートは「失敗作の神竜」を作れる魔物の代表例なので、俺はこの可能性を一番高く見積もっている。


 その強さは個体差が激しく、アースクェイクと同レベルの奴から一体で大陸を崩壊させられるレベルの奴までいる。

 作り手がコイツだとすれば……その強さは上位寄りである可能性が高いだろう。


 この推測が合っているかどうかは、近くまで行けば簡単に確かめることができる。

 この竜の特徴に一つに「人間には感知不能な『神の気配』を纏っている」というものがあるため、《サーチ》を使えば、竜の形状の魔力が皆無の地帯として感知することが可能なのだ。


 しかもありがたいことに、「失敗作の神竜」はその強さの如何に関わらず、「チェンジ」で討伐可能となっている。

 その意味において、「失敗作の神竜」は俺にとって相性最高の相手だ。


 むしろ罠の内容、それであってくれると助かるのだが。

 そんなことを祈りつつ、俺は到着までの時間、一応他の可能性も考慮しておくことにした。



 ◇



 俺の予測は――ありがたいことに、どうやら当たっているようだった。

 着陸するあたりのタイミングで《サーチ》を発動してみると、おそらく「失敗作の神竜」のものと思われる魔力皆無地帯が映ったのだ。


 罠が一つとは限らないのでまだ全く油断はできないが、とりあえず少しは安心だ。


「失敗作の神竜」の居場所は、だいたいここから5キロほど離れている。


「ここから先は少し魔力が荒れていてね、飛行が不安定になる。だから歩いて行くぞ」


 イフリートはといえば、そんな嘘をつきながら浮遊移動魔道具のハッチを開けた。

 実際には「失敗作の神竜」が周囲の空間の魔力を荒らすことなんて無いし、飛行が不安定になりもしないのだが、罠への誘導のためにそういうことにしておきたいのだろう。


「分かりました」


 だがその事実を俺が知っていることを悟られたくないので、俺は従うフリをして浮遊移動魔道具から降りた。


「《鑑定》」


 イフリートが浮遊移動魔道具を収納する際、収納魔法を《鑑定》してみると、その容量は「失敗作の神竜」の身体より遥かに小さいことが判明した。

 一応、これを理由に「遺体は俺が運びます」といって現物を確保することはできそうだな。


「こっちだ」


 そう言ってイフリートが指したのは、案の定「失敗作の神竜」が待ち構えている場所の方向。


「《ストレージ》」


 もしかしたら、俺を殺せると確信した瞬間、イフリートが何か決定的な失言をするかもしれない。

 その可能性に賭け、俺は一応イフリートの背後でバレないように蓄音魔道具を取り出し、ポケットに入れておくことにした。



 数分後。

 ひたすら山の中を進んでいると……突如、状況が変わった。


 と言っても、視界に入る範囲で何かが起きたというわけではないのだが。

 《サーチ》に移る「失敗作の神竜」の反応が動き、こちらに近づきだしたのだ。


 おそらく、イフリートが何らかの交信をして、「失敗作の神竜」をこちらに近づけているのだろう。


「あの……マイズ元帥」


「……」


「一点、お伺いしたいことがあるのですが」


「……」


 話しかけてみるも、返事は無い。

 よほど「失敗作の神竜」との通信に集中しているのだろう。


 かと思うと、十数秒後。


「な、何だ。今話しかけたか?」


 今になって、イフリートはそう聞き返してきた。


「目的地まで、あと何分くらいでしょうか?」


 反応を見るだけのつもりだったため、質問内容まで考えていなかったので、即席でパッと頭に浮かんだ適当な質問をしてみる。

 すると、これが良かった。


「あー、えっと……あと一時間くらいかな?」


 言葉ではまともな受け答えをしている感じだが、明らかに目が泳いだのだ。


 今のは不意打ちを成功させたいがための嘘だな。

 魔力が皆無の地帯が「失敗作の神竜」なら、今の移動速度だとあと三十秒ほどで到着する。

「まだまだ先だ」と勘違いさせ、安心させるのが目的の発言だったはずだ。

 目が泳いだのは、そういうことだ。


「確かに油断は禁物だが、あんまり手前から身構えていると肝心の時に集中力が落ちるぞ。私もついているのだし、今は気楽にしておいてくれ」


 更に念を押すように、イフリートはそう言って俺を油断させようとする。

 それからイフリートは、また「失敗作の神竜」のいる方向に向かって歩きだしたが……十数歩も歩かないうちに、目の前の視界は一変した。


「な……なんだあれは!」


 目の前に現れた巨大なドラゴンを見て……イフリートは、わざとらしく驚く素振りを見せる。


「ちょ、ちょっとマイズ元帥! 敵との対峙はあと一時間後って言ったじゃないですか!」


 それに倣い、俺の方も驚くフリをして見せることにした。

 と同時に、蓄音魔道具のスイッチを押して起動する。


 もちろん、これはイフリートから”証言”を引き出すための作戦だ。


「こんな急に敵が現れたら、対策のしようが無いじゃないですか!」


 ダメ押しとして、俺はいかにも絶望してそうな声色でそう続けた。


 それを聞いて……イフリートは態度を急変させ、勝ち誇ったような表情を見せる。


「かかったな。お前はもう終わりだ」


 この世のものとは思えないような汚い笑顔を浮かべ、イフリートはそう口にする。


「終わりだって……どういうことですか!」


「お前は『永久不滅の高収入』について知りすぎている。そして、我々にとって厄介すぎるほど強い。だから……ここで始末させてもらう」


 怒気を込めた声で裏切りを非難してみると、面白いくらい簡単にイフリートから言質が取れた。


 そうこうしていると……「失敗作の神竜」が、ブレスを放つ構えに入った。

 こうなってしまうと、窮地に立たされたフリができる時間はもう残り僅かだな。

 あと一言二言引き出すのが精一杯だろう。


「こんなやり方じゃ、マイズ元帥だって無事じゃ済まないですよ!」


 最後に、俺はあわよくば自分の正体を自分で語ってもらえればと思い、そんな風に返してみた。

 期待通りいけば、「自分は『失敗作の神竜』の作り手だからブレスのダメージを無効化できる」的な原理の説明をしてくれることだろう。


「ハハハッ、そう言えばこの状況を止めてもらえるとでも思ったか! この竜はな、イフリートであるこの私の傀儡だ。作り手が傷を負うことはないのだよ!」


 ……バッチリだ。


 そしてもう、タイムリミットだな。

 ここらで形成逆転させてもらうとしよう。


「ご供述ありがとうございました」


「……は?」


「チェンジ」


 ジーナが送ってくれたお守りを手に、魔道具を起動すると……「失敗作の神竜」は途端にぐったりとし、ブレスを放つはずだった口からは弱々しくポフッと煙が上がった。


「え……?」


 イフリートはといえば、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「あと、こちらは証拠として持ち帰らせていただきますね。《ストレージ》」


 微動だにしないイフリートをよそに、俺は「失敗作の神竜」の死体を《ストレージ》にしまう。

 もうこれ以上録音するものも無いので、蓄音魔道具も一緒にだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ありゃりゃ・・・。流石にここまでの快進撃を想定しての作戦だったのかな? にしては、杜撰すぎるよな・・・。というか、ただの失策じゃん。 こいつを舐めてかかれる存在じゃない事を、全く知らなか…
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