第百六話 新発見の基地
ジーナに装置のパーツ作成依頼を出してから、約三十分後。
「できました! これでいいですよね?」
作業を終えたジーナが、そう言って完成部品を持ってきた。
「……はい、バッチリです!」
全ての部品を確認し終えると、早速装置を組み立ててみる。
「《鑑定》」
装置の組み立てが完了すると、俺は完成品に《鑑定》をかけてみた。
もちろん、この装置の正体が分からなくて《鑑定》を発動したわけではない。
今回の目的は完成品の検品だ。
製造が上手くいってない魔道具を《鑑定》した場合、表示文は「ただのガラクタ」とかになるからな。
ちゃんと「記憶復元装置」と表示されれば、それすなわち装置が正常に作動することを意味するのだ。
《鑑定》はただ未知のものの正体を暴くだけでなく、こんな使い方もできるのである。
失敗作を浮遊移動魔道具に繋いで、万が一動作不良で航行履歴の全削除でも起こってしまうと目も当てられないからな。
実際に使用する前に、こうして検品を済ませたのだ。
じゃ、早速航行履歴の復元を試してみるか。
俺は記憶復元装置のケーブルを浮遊移動魔道具の端子に繋ぎ、装置を起動した。
浮遊移動魔道具の画面の方で「不明なデバイスの接続を確認しました。許可しますか?」と表示されたので、もちろん「許可」を選択。
それにより、今度は復元装置の方の画面に「管理領域にアクセスしています…… 現在5%」などという画面が表示された。
しばらく待っていると、アクセスの進捗状況が100%となった後に、画面がファイルエクスプローラーのような表示に切り替わった。
ソートを「日時(昇順)」に切り替えてみると――。
「……あった!」
一番目に、俺が浮遊移動魔道具を入手する前の航行履歴が出てきた。
その航行履歴を選択し、「復元」ボタンを押す。
「復元に成功しました」というメッセージが出てきてから、浮遊移動魔道具の画面の方に戻ってみると……確かにその航行履歴が復活していた。
これで、新しい基地が見つかるだろうか。
逸る気持ちで座標確認モードに切り替えてみると……出発点は全く知らない場所、到着点は俺がよく知っている場所となっていた。
到着点のほうは、俺が幻諜と共に以前破壊した基地だ。
その事実と、出発点が全く知らない場所であることを照らし合わせると……出発点は、この浮遊移動魔道具が作られた「永久不滅の高収入」の基地である可能性が高い。
これは……すぐにでも行ってみる価値があるぞ。
ただまあ、せっかくナーシャにも浮遊移動魔道具を取りに行ってもらっているんだ。
頼むだけ頼んどいてこっちは既に出発している、というのも酷い話なので、出発はそっちの浮遊移動魔道具も確認してからにするとしようか。
◇
ナーシャが帰ってきてからもう一台の浮遊移動魔道具も確認してみたが……そちらから復元できた座標も、俺が使っている浮遊移動魔道具と同一の場所だった。
考えてみれば自然な話で、おそらくは同じ基地で製造された魔道具が、同じように運ばれたということなのだろう。
「どうします? また一緒に行きますか?」
一応俺はナーシャにそう尋ねてみた。
まあ実際には、ナーシャにはジーナの護衛の役割があるので、たとえまた幻諜と一緒に行くことになったとしても同行するのはメギルとザクロスだけになるだろうが。
「んー、やめとくわ。色んな意味で」
しかしナーシャからは、そんな返事が。
「色んな意味で、とは?」
「まず第一に、おそらく幻諜がついていってもジェイド君の役に立つことなんてほぼないわ。おそらく、足手まといになるのがオチだと思う。そしてもう一つの理由なんだけど……この座標、ミミア王国っていう別の国なのよね。私たちがついていったら間違いなく軍事介入扱いになってしまうわ」
返事の仕方が気になったので尋ねてみると……ナーシャから返ってきたのは、そんな答えだった。
「な、なるほど……」
そうか、この座標、別の国なのか。
前者はともかくとして、後者は確かにネックだな。
この国のトップくらすの特殊部隊が参戦などしたら、確かにミミア王国とやらからすれば何事だった感じだろう。
それがきっかけで戦争になりでもしたら最悪だ。
となると、一人で行った方がいいか。
「国が違うなら仕方ないですね。俺一人で行ってきます」
「ええ。一応だけど……基地を破壊する前に、地域を管轄する冒険者ギルドとかに一報入れた方がいいわね。特にまた最後にあの『崩壊粒子砲』を撃つ可能性があるなら、たとえ冒険者一個人の行動だとしても、根回しが足りないと国際問題に発展するかもしれないから」
「……分かりました」
面倒だな……。
まあ、仕方ないが。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「必要な魔道具があったらいつでも連絡くださいね! すぐ作って送りますから!」
二人に見送られる中、浮遊移動魔道具に乗り込む。
復元した航行履歴の出発点を目的地に設定し、俺は新たな基地を目指した。