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第百五話 航行履歴復元装置

 目的地に着くと、浮遊移動魔道具を《ストレージ》にしまい、《エラ呼吸》を発動して海に潜る。

 図書館に入ると、実用書のコーナーの本のタイトルを片っ端から《鑑定》していった。

 矢継ぎ早に《鑑定》を繰り返していると、目当てっぽいタイトルの本が5冊ほど立て続けに見つかった。


 それらのタイトルは、「浮遊移動魔道具の仕組み」「浮遊移動魔道具設計大全」「浮遊移動魔道具のための制御魔法工学」「浮遊移動魔道具における座標データの取り扱いと記憶装置」「浮遊移動魔道具整備士検定1級 過去問題集」。

 まず最初に俺が手に取ったのは――「浮遊移動魔道具における座標データの取り扱いと記憶装置」だ。


 理由はもちろん、その本が一番「永久不滅の高収入」に関する手がかりを掴むのに役に立ちそうだと思ったから。

 俺がたまに履歴を活用していることからも分かるように、浮遊移動魔道具には今まで移動した場所の記録を残す機能があり、その記録を元に過去に訪れた地点に行くことができるようになっている。

 であれば、俺がこの機体を手にする前の記録を辿って「永久不滅の高収入」の基地を割り出せそうにも思えるが……今まで俺は、それをしてこなかった。


 なぜなら、俺がこの機体を手に入れる前の航行履歴は一切残っていなかったからだ。


 俺が手に入れた機体がたまたま新品だったのか、はたまた「永久不滅の高収入」がこまめに履歴を消すタイプの運用方法を取っていたのか。

 どちらかといえば、俺は後者がより有力だと踏んでいる。

 根拠は二つあって、一つは俺が手に入れた機体の一部にバードストライクのようなかすり傷が最初からついていたこと。

 そしてもう一つは、前回破壊した基地に浮遊移動魔道具の製造工場らしき施設が見当たらなかったことだ。


 他の基地で作られたものなら、少なくとも出荷元の基地の座標の記録はあるはずだからな。

 ちなみに幻諜に乗り方をレクチャーした時にしれっと確認済みなのだが、幻諜に使ってもらってる機体の方にも、過去の航行履歴は一切載ってなかった。


 もし記録が無い理由が「幻諜がこまめに消してるから」だとしたら……記憶装置からサルベージする方法を見い出せば、他の基地の場所を割り出せるかもしれない。

 そんな期待もあって、まずは「浮遊移動魔道具における座標データの取り扱いと記憶装置」を読むことに決めたというわけだ。


 中身は全編古代語で書かれているが、《鑑定》の+値がある程度高いと訳文を表示させられるので、読むのに困ることはない。

 しばらく読みふけっていると……俺は消去された履歴を復元できるかもしれない方法を一つ見つけることができた。


 その方法は、「【悪用厳禁】ドライブ管理領域の「空き容量扱い」の目印を無視して記録を読む」というコラムに載っていた。


 なんでも浮遊移動魔道具に使われている記憶装置は、ハードディスクとよく似た仕組みになっているようなのだ。

 どういうことかというと、記憶装置は大きく分けて「保存領域」と「管理領域」に分かれており、中のデータは「管理領域」の情報を経由して「保存領域」にあるデータにアクセスして読み出される仕組みになっているのだとか。

 そしてデータの削除は、「保存領域」にあるデータを逐一消すわけではなく、「管理領域」に「ここに上書きしていいです」という目印を置くことで、対象の「保存領域」を実質的に空き領域として扱う設計になっているのだ。

 それこそハードディスクと同じく、上書きの頻度を可能な限り減らすことで装置の寿命を伸ばすのが、このような設計になっている目的らしい。


 ということは、目印を置かれた場所に該当する「保存領域」が上書きされてさえいなければ、目印を無視して当該領域にアクセスすることで、消されたデータをサルベージすることができるわけだ。

 親切なことに、このコラムには仕組みの説明のみならず具体的なデータへのアクセス方法まで載っている。


 コラムの末文には、「この方法で好きな子の家を特定したりしないようにネッ★」などと忠告が書かれているが、俺がやろうとしているのは断じてそんなしょうもない悪事ではない。

 世界滅亡の危機を未然に防ぐためなのだから、たとえ多少アウトローな方法だとしてもやるしかないってわけだ。


 肝心の方法だが……なるほど、普通に復元装置の魔道具を作るだけか。

 古代の魔道具となると、気になるのは古代魔法が使えないと作れないパーツがあるかどうかだが……残念ながら、一個だけそのようなパーツがあるな。


 あ、でもこのパーツ、どこかで見覚えがあるぞ。

 思い出した、この遺跡の博物館だ。

 単体では何の役にも立たない物だったので、前来た時は特に興味を持たなかったが……こんな素晴らしい魔道具の部品になるとすれば、話は変わってくる。

 博物館に寄って、このパーツを持ち帰らせてもらうとしよう。


「浮遊移動魔道具における座標データの取り扱いと記憶装置」を《ストレージ》にしまうと、俺は図書館を後にした。

 そして博物館に入り、例のコラムに載っていたパーツも《ストレージ》にしまった。


 どちらの時も、もしかしたら持ち出しを検知してセキュリティシステムが作動するかもと懸念したが、その心配は杞憂に終わった。

 俺が「選ばれし者」だったことが関係しているのだろうか。


 記憶装置の仕組みを知った今となっては、これ以上航行履歴を増やしたくなかったので、俺は《国士無双》と《飛行》で自力で飛んで帰ることにした。

 ちなみに移動時間だけで言えばそっちの方が早かった。

 とはいえ基本的には《国士無双》を移動のために消費するのは悪手なので、普段からこの移動方法を取るかといえばそんなことはないだろうが。


 屋敷に着くと、俺はジーナに手持ちの素材を使って魔道具の残りの部品を作ってもらいつつ、ナーシャには幻諜が使っている浮遊移動魔道具を一応持ってきてもらうよう頼んだ。

 さあ、果たして新たな基地を発見することはできるだろうか。

 楽しみだな。


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[一言] 世界を破滅に導く組織が相手だからストーキングも致し方なしw
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