第百三話 幻諜の反応
ジェイドとジーナがフカヒレの店に到着したあたりの時刻のこと。
ナーシャもまた、幻諜の本部に到着した。
まずナーシャは、長官の部屋を訪ねた。
「ただいま戻りました、長官」
「おお、ナーシャか。……今日はまたどうしてここに? ジーナさんは?」
「本日は、ジェイドさんから我々にプレゼントがあるとのことで、それを持って参りました。ジーナさんは今ジェイド君と一緒にいるので、安全面上の問題は皆無です」
長官が真っ先に任務から離れていることを心配しだしたので、ナーシャはまず来た理由及び現状を説明した。
「ぷ、プレゼント……!? わ、分かった。まあ、あの子が安全な状況なら問題あるまい。メギルとザクロスを呼んだ方がいいな?」
「今呼べる状況なのですね?」
「ああ、特に現時点では何かの任務に就いたりしていないからな」
長官はそう言うと、部屋を後にする。
しばらくして、メギルとザクロスを連れて長官が帰ってきた。
「ジェイド君がボクたち向けにプレゼントだって!?」
部屋に入ってくるや否や、メギルは興奮気味にそう尋ねる。
「ええ、そうよ。……これよ」
ナーシャはそう言いつつ、マジックバッグから剣を二本取り出して二人に渡した。
「これは……剣? 見たこともない素材だが……」
「得体の知れない素材っすねね……」
まず二人とも、剣を受け取るとその素材に注目した。
「それはジェイド君が『ゲリラステージ』で得た素材よ」
「「ゲリラステージ……?」」
初耳の魔道具名に、二人は口を揃えてポカンとする。
「ジェイド君は言うには……並行世界の魔物を一時的にこの世界の召喚できる魔道具、らしいわよ。最近あの人、例の基地を更地にした攻撃でようやく倒せる魔物を呼び出して狩りまくってるの」
「「な、なんだその危険極まりない戦闘は……」」
そして魔道具の説明を聞くと、二人とも絶句してしまった。
しばらくして、メギルがこんな疑問を思いついて口にする。
「でも……あの砲撃を使って、こんな素材が残るもんなのか? 『素体』のドラゴンですら、骨しか残らなかったというのに……」
「ああ、説明が途中だったわね」
ナーシャは疑問の答えを言う前に、そこで区切って一息つく。
そして、こう続けた。
「ジェイド君、今はあの砲撃は使ってないわ。最初はアレ無しじゃ倒せなかったのだけれど、あれから更に強くなって、今じゃ普通に《三日月刃》で戦えているの」
「「は……はぁ!?」」
それを聞いて、二人とも口をあんぐり開ける。
「ど、どういうことっすかそれ……。明らかにここ数日の成長速度としておかしいっすよ……」
「もしかしてだけど、ジェイド君の実力って指数関数的に増えるんじゃないのか?」
「それ、人間じゃないっすよ」
「いやまあ、人間やめてるのはとうの昔に分かっていたことだが……それにしても……」
二人ともほとんど口が固まったまま、そんな意見を口にし合う。
「わ、私も見てて唖然とする毎日よ……。この剣を作るための鍛冶技術も、ゼロからたった数日で身に付けたっていうし」
ナーシャも固まってしまった二人をどうしていいか分からないまま、そう言って話を終わらせた。
しばらくして、二人が落ち着いてくると、その興味は剣の性能に移った。
「な、なあ……この剣、どんくらい凄いんだろうな?」
「早く試してみたいっすね」
というわけで、メギルたちは幻諜が所有する訓練場に移動することに。
各々が、自分たちの得意技を試し始めた。
すると……。
「あれ? ここどこだ? ……訓練場の外!? まさか、《雷装縮地》に障害物すり抜け効果が乗ったというのか……」
「こんな溢れんばかりに毒が滴る《即死塗装》、初めて見るっす! というか……剣から毒が高速射出できる……?」
ちょっとスキルを発動しただけで、二人ともその効果のエグさに驚くこととなった。
そんな様子を見て、長官がナーシャにこう告げる。
「ここまでのものを貰うとは……。これはパニッシャーコインを追加で渡す以外、お礼の方法がないな。それを以てしても全く対価を支払いきれてるとは言えんのだが……」
長官は部屋に戻って、パニッシャーコインを十枚も持って戻ってきた。
「これを持って帰って渡してくれ」
「この量……幻諜発足依頼の予算の繰り越し分全てですよね?」
「まさか多すぎるとでもいうのか?」
「い、いえ……。一度のこの量のパニッシャーコインが動くことに驚いただけです」
ナーシャはパニッシャーコイン十枚を預かり、緊張した足取りで屋敷に戻ることとなった。