第百二話 完成祝と感想
幻諜用の三本の剣に柄をはめ、完成させたのとほぼ同じタイミングで。
ジーナがナーシャを連れて戻ってきた。
「あの……私達のために剣を作ってくれたって、本当なの?」
「はい。これです」
早速、三本の剣を渡して見せる。
「な、なんて完成度なの……」
いろんな角度から剣を見回しつつ、ナーシャはそう呟く。
「仕事柄、見た目だけはいい駄剣から十年に一本クラスの名剣まで様々な剣を見てきたけど、ここまで仕上がりの良い剣は見たことないわ。いったいどこに依頼したの?」
……ん? どこに依頼?
一瞬俺が戸惑ってるうちに、ジーナが慌てて説明を付け加えた。
「あ、すみません、言い忘れてました。その剣、ジェイドさんが作ったんです」
「そうなn──って、えええ!?」
ジーナの補足を聞き、ナーシャは飛び上がらんばかりに驚く。
まあ確かに、もしジーナが「ジェイドが剣を作ってくれた」みたいに説明したとしたら、普通「俺が誰かに依頼して作ってもらった」という文脈で捉えるよな。
鍛冶ができるなんて一回も言ったことないんだし。
「『ゲリラステージ』のとある魔物の素材を使って剣を作りたいと思ったんですが……その素材をどの鍛冶屋に持ち込んでも、『素材が硬すぎて扱えない』と言われちゃいまして。仕方がないので、自分で鍛冶技術を習得しました」
俺からも、そう補足を入れた。
「『自分で鍛冶技術を習得しました』って……「ゲリラステージ」を使い始めたの、ほんの数日前だったわよね!? そんな日数で0からこのレベルの鍛冶技術って、何をどうやったらそんな習熟スピードになるのよ……」
あっ、またスキルポイント制が前提知識にないと意味が分からない説明の仕方をしてしまった。
というか、いい加減一旦ノービスとスキルポイントの仕組みについてじっくり説明する機会を設けたほうがいいのかもな……。
「てかさっき、サラッと『「ゲリラステージ」のとある魔物の素材を使って』って言ってたけど。そんなとんでもない素材を、私達のために使ってもらっちゃっていいの……?」
「もちろんです。再度調達なんていつでもできるような素材ですから、気兼ねなくバンバン使ってくださいね。……自身のスキル構成と相性が悪すぎるとかでさえなければ」
どこか畏ってしまった様子のナーシャに、俺はそう念押しした。
何なら、武器を新調したことでより楽に魔物を倒せるようになってるだろうしな。
もしかしたら、《国士無双》の倍率10倍と相まって、今じゃ7桁級の魔物も「属性変化領域」ナシで倒せるようになっているかもしれない。
また今度、それも試してみないとな。
「ええと……私はこれを幻諜本部に持って帰って、うち二本をメギルとザクロスに配ればいいのね」
「お願いします」
「分かったわ。……今から行ってくればいい?」
「そうですね。せっかくなんで、早いほうがいいかと」
ナーシャは剣三本をマジックバッグにしまうと、幻蝶本部に向かっていった。
さてと……となると一時的にジーナの護衛がいなくなってしまったので、その間は俺がついておくとするか。
◇
というわけで、俺達は王都のなんか良さげな飲食店を見つけて入ることにした。
一応は、新武器の完成祝という体でだ。
ジーナは買い物から帰ってきてたところだったので、もしかしたらこれからご飯を作るつもりだったのかもしれないが、まあ「クラウドストレージ」に入れておけば食材の鮮度は未来永劫下がらないので問題ないだろう。
一応ジーナにも「良かったら行きますか?」と聞いた上で、「ぜひ!」という反応が帰ってきたので連れてきている。
その店のメニューではフカヒレのスープが一番おいしそうだったので、それを注文することにした。
注文を待っている間……俺はあることを思いつき、ジーナに話をもちかけてみることに。
「そういえばジーナさん……さっき、これまでじゃ扱えなかったような素材で芸術作品を作るのが楽しみって言ってましたよね。よかったら、面白そうな素材を渡しましょうか?」
「え……いいんですか!?」
素材の提供を提案してみると、ジーナは目をキラキラと輝かせた。
「はい。『ゲリラステージ』で狩ってきた魔物の中に、タイラントパールというクジラサイズの真珠貝の魔物がいましてね。その真珠、筆舌に尽くしがたいくらいピカピカしてて綺麗なんです」
「へえぇ……聞いてるだけでワクワクしてきます! そんなサイズの真珠があれば、もう有り余るくらいアイデアが溢れてきますよ……!」
「十個くらいあるんで、全部あげますよ」
「わああい! ありがとうございます!」
ジーナはこれまで見たこともない景色くらいウキウキした様子で、お礼を口にした。
タイラントパール、綺麗さだけで言えば、もしオークションに出されようもんなら王族も貴族もこぞって入札するくらいなんだが……武器の素材としては、正直あんまり使いみちがないんだよな。
有効活用してくれる人が近くにいて、こちらこそありがたい。
そんな話をしていると、注文の品がやってきたので、以降は食事タイムに入った。
「……これ、おいしいですね。とろける感じの食感が最高です!」
食べながら、ジーナはそんな感想を口にする。
だよな。フカヒレ、高級食材だもんな。
この店は「秘伝のスープ」が自慢らしく、キャッチコピーを堂々と店内に貼っているが、その宣伝文句に恥じないくらいコクがあって味わい深いし。
この店を選んで正解だったな。
そんなわけで、俺達は気づいたらあっという間にスープを完食してしまっていた。
「「ごちそうさまでした」」
今回は余計な邪魔者も入らなかったし、味に集中できて最高だったな。
食べ終えたあとは、二人で一緒に屋敷への帰路についた。
その途中……俺はよく見知った人物と鉢合わせることに。
「おう! 数日ぶりだな! あの素材……結局どうなった?」
――チャレンジコインを作ってもらった時の鍛冶師だ。
「あれからいろんな鍛冶屋を当たったんですけど、どこ言っても無理だって言われまして……」
「ま、あの素材じゃそうだろうな……どんまい。儂に扱える素材でよければ、いつでも剣は作るぜ」
「あ、いえ、たらい回しにはされましたが、例の素材で剣は作れました」
「……は!?」
なんか変な勘違いで同情されかけたので、新品の剣を見せながら完成を報告すると、鍛冶師の目が点になった。
「い……いいい、一体どうやって? 誰にも引き受けてもらえなかったんだろ!?」
「ええ……なのでどうにか自力で完成させました」
「自力でって……ちょっと見せてもらってもいいか?」
口をワナワナと震わせたままの鍛冶師に、剣を渡して見せてみる。
すると……次の瞬間、鍛冶師は膝から崩れ落ちた。
「無理やり形にした、とかですらないんだな……。幻諜があれほどまでに褒める奴となると、たった一日すら経たずに俺の技術を越えられてしまうのか……」
ま、まあ……そのためには250万以上もの膨大なスキルポイントを消費したからなあ……。
それはともかくとして、これで鍛冶師のお墨付きにもなったわけだ。
ますます、試しに使うのが楽しみだな。