第百話 武器制作
屋敷に帰って来ると……早速俺は、武器制作に取り掛かることにした。
「《ストレージ》」
とりあえず、庭にマーシャルヨトゥンのカランビットナイフを取り出して置く。
こいつを加工するために、スキルを取得していかないとな。
「スキルコード5055 《鍛冶》強化×245」
まずはベースとなる《鍛冶》というスキルを、上限である+255まで強化する。
「アップグレードコード5055 《イマジナリーブラックスミスツール》取得」
次に俺は、《鍛冶》の+値を上げることで取得できるようになるアップグレードを取得した。
《イマジナリーブラックスミスツール》は、想像した鍛冶道具を一時的に具現化できるアップグレード。
鍛冶師たちの言い分からして、実在する鍛冶道具では加工できなさそうだったので、非実在の道具でどうにかできないか試そうと思い取得した。
このアップグレードは、取得条件が「《鍛冶》+150以上」だからな。
今まで巡った鍛冶師は取得してなくて、だからマーシャルヨトゥンのカランビットナイフは加工できないという結論に至った、という可能性もなくはないだろう。
素材の加工に関して、スキル強化でできることはこれで全てだ。
だがこれではまだちょっと不安なので、追加でカスタマイズワンドの方にもスキルポイントを振っておこう。
「《鍛冶》――素材変形、S」
「《鍛冶》――効能強化、S」
そう唱えると、《三日月刃》に関する強化をした時と同じく、杖が二回七色に光る。
最初に唱えた「素材変形」の方が、《イマジナリーブラックスミスツール》の性能に関わってくる強化内容だ。
対して「効能強化」は、完成品の剣が持つ効果を上昇させるという強化内容。
加工時に何か役に立つものではないのだが、まあこれも結局仕上げには必要なので、併せて取得しておいた。
ここまでで、消費スキルポイントは全部で2591700。
還元分と合わせて、現在の所持スキルポイントは35073310だ。
前準備はこれで完了なので、ここからは実際に素材を加工してみよう。
まずは、ペンで切り出したい剣の型を取る。
この作業は、《鍛冶》の+値が高いため、フリーハンドでも完璧にできた。
「《イマジナリーレシプロソー》具現化」
次に俺はそう唱え、《イマジナリーブラックスミスツール》で具現化できる道具のうち振動式のノコギリを具現化する。
そして、描いた線に沿ってノコギリの刃を押し当てた。
すると――。
「……お、切れてるな」
およそ1秒に3ミリと、遅々とした進み具合ではあるものの……明らかに、素材の切断に成功していた。
これなら剣に加工できるぞ。
数分かけて、俺はマーシャルヨトゥンのカランビットナイフの一部を自分の体格に合う剣の形に切り出すことに成功した。
「……よし! 《イマジナリーレシプロソー》解除、《イマジナリーウェットストーン》具現化」
続いて俺は、具現化する鍛冶道具を砥石に切り替え、刃の部分の仕上げに入る。
その作業をしていると……後ろから声がかかった。
「ジェイドさん! 帰ってきてたんですね!」
振り返ると、そこにいたのはジーナだった。
その腕には、物が詰まった袋がかかっている。
ネギが飛び出しているので、おそらく食材だろう。
「それ……もしかして、武器を新しくするんですか?」
「ええ。もうそろそろ、前の上位互換が作れるなとおもいまして」
「そうなんですね。私にも何か手伝えることはありますか?」
……手伝えること、か。
そうだ、一個あるな。
ただ……あるにはあるのだが、その前に下処理として、俺の方でやっとかないといけない事もある。
「あー、そうですね。じゃあ、お願いしたいことが一つあります。ちょっと準備するんで、その荷物とか部屋に置いてきていいですよ」
「分かりました!」
下準備の時間ため、俺は一旦ジーナに買い物を整理でもしてもらうことにした。
ジーナは返事して、屋敷の中に入っていった。
さてと、今のうちに。
「《イマジナリーウェットストーン》解除、《ストレージ》」
俺は今やっている作業を中断し、《ストレージ》からあるものを取り出した。
取り出したのは、ホルスの頭部。
俺はその眼の部分に指を突っ込み、眼球を抉り出した。
「《クリーン》」
残りの部分を《ストレージ》内に戻した後、眼球に浄化魔法をかける。
これで綺麗なホルスの目玉の出来上がりだ。
今これをした理由は……ホルスの目玉が強化結晶の原材料になるから。
この目玉に特定の模様を刻むと、ディバインアローの剣にはめこんであるような強化結晶ができるのだ。
強化結晶は、《国士無双》の効果時間が伸ばせる貴重なアイテムだ。
ちょうどジーナが来たので、模様の刻印をやってもらおうと思い、素材を準備した。
《クリーン》をかけた後の目玉はビー玉みたいで綺麗なのだが、抉り出す作業はちょっとグロいので、ジーナに見せないで済んで助かったな。
などと思っていると、屋敷のドアが開き、ジーナが出てきた。
「お待たせしました! 私は何を作ればいいですか?」
「この球体にこの模様を刻んでください」
「これ……魔石じゃないみたいですけど、本当にこれに刻むんですか?」
「今回作りたいのは強化結晶という、魔道具とはまた別のものですから。材料はこれで合ってます」
説明とともに、ジーナにホルスの目玉と彫る模様の絵を渡す。
ジーナはそれらを受け取ると、自分の作業部屋に向かった。
さてと……じゃあ俺のほうは。
「《イマジナリーウェットストーン》具現化」
それ以外にできる仕上げを終えておくとしよう。