2024年4月、アメリカ合衆国
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ワシントンの日本大使館の公使住倉洋治は、ニューヨークからやって来たT自動車の亀井慎太郎と会議室で話している。彼らは同じ51歳の大学の同期で、亀井はTノースアメリカ㈱の副社長である。
「やあ、亀井君すまんな。呼び出した格好になって」
「いやいや、住倉君。どうせワシントンに用事があったんだ。それにしても同じアメリカでも、なかなか会えないものだな。ところでどうなのよ。その後、コモンウェルスになってからの大使館の役割りは」
「うん、当然だが前より一方的な指示が多い。だけど、さほど変わらんと言えば変わらんな。前からアメリカは日本に対しては高圧的だったからな。
とは言え、日本の大部分が消えてその後のごたごたではアメリカの後ろ盾が無ければ大変なことになったから、あまり文句を言っては居られんがね」
「うん、それは判るよ。時震の時点で300兆円を超える余剰分の日本の海外資産が、チャラにされるとなると大変なことになったからね。国債の海外持ち分75兆円とか負債分だけ残ったりしてね。ハイデール政権が、相当露骨に日本の後押しをしてくれたおかげで殆どの日本資産を残すことができた。1兆ドルのアメリカ国債もね」
「ああ、それに海外工場の日本への移転にも随分協力してくれたな。いわゆる時震に伴うジャパンショックによって、コロナ騒ぎに続く世界的セッションの中でよくやってくれたと思う。隣国3国は、例によって日本のせいで経済が落ち込んだと非難して、損害賠償まで求めたがね」
住倉の言うように、日本の主要部分が消えたことは、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼした。これは、日本が輸出していた高度な技術で作られた工業材料と部品が突然止まって、回復の見込みないのだから、当然大騒ぎになり、世界中の様々な工場が全面的または部分的に長く停止した。
東日本震災でも同じことが起きたが、これは規模がその比ではなく、よほどローテクの工場を除いて多かれ少なかれほとんどすべての工場が停止の憂き目にあった。また、いくつかのものは未だに代替の部品、材料が生産できずに廃業に追い込まれた工場も少なくない。
そうした負の影響は、アジア特に中国・韓国で大きく、その影響の大きさのために、例によって「日本が悪い」の大合唱となった。そのために、消えてしまって海外または北海道・沖縄に残った企業に、さらには日本臨時政府に損害賠償を求めて、非常識さに国際的に馬鹿にされた経緯がある。
そして、そのジャパンショックは、コロナ渦ほどではなかったが、1年目には世界のGDPの伸びは殆どゼロになるに至った。加えて、日本製の代替品を使用した様々な工業製品の品質が大きく低下して、パフォーマンスの低下・故障の頻発を招いている。これらの事も日本が消えたことの大きな影響の一つである。
「やっぱり、アメリカへのコモンウェルス入りは正解だったね。関首相の判断は正しかったんだな」その亀井の言葉に住倉が頷く。
「まあ、そうだな。そうでないと、アメリカあそこまで動いてはくれなかっただろうね。その点は、俺もアメリカ政府の関係者から聞いて確認したよ。それに、そうしてないと、独立そのものが怪しかったようだね。時震の時点ではアメリカと中国の反目はピークになっていたが、実際に中国軍が開戦の準備をしていたと言う」
「ええ!あのインターネット上の話は事実だったの?」
「ああ、今だから言うけど、無論米軍がいる沖縄は避けて、本土に上陸して元人を人質にとるという作戦だったようだ。コモンウェルスの話を受けて、アメリカの空母4隻急派とB2の10機、F35の50機の沖縄派遣で諦めたらしいけどね。
実のところ、中国のみでなく韓国も軍の動きがあったようだが、彼らも米軍の動きをみてさっさと諦めたようだ。だから、コモンウェルスの話が無ければその面でも怪しかった」
「うーん、自衛隊の戦力の8割以上が失われたわけだからね。まあ、今の状態はアメリカのコモンウェルスだから、そこに仕掛けるということはアメリカ合衆国を攻撃することと同等ということだからね。中国の軍備は増強をしているが、まだまだ米軍とは比べものにならない。
それに、コロナ騒ぎのなかで、世界の中国からの資本引き上げの動きははっきりしてきたよね。さらに、ジャパンショックで、工業材料と部品が入手できずに最も影響は受けたのは中国と韓国だからね。はっきり輸出が大幅に減ったよね。更にはその後あせって日本製品を代替に、自分ら作った材料やら部品で品質問題の山を抱えているし、全く信用がなくなっているようだ」
「うん、それもあって中国内部の騒乱や反乱がここにきて尚更ひどくなってきているようだね。監視システムで人々を縛り上げて暫くは治まっていたけど、今は取締側の一般職員が、政府の都合の悪い情報を拡散にかかっているようだ。どうも中国の宿痾である、人民の反乱でどうしようも無くなってきたようだな」
「うーん、ここ当分は中国の脅威を考えなくてもいいのではないようだね。ところで、今日の話は計画中の大阪工場への生産設備移転の件かな?」亀井の問いに住倉が頷く。
「そう。君の会社のお陰で、苫小牧工場で完成車の生産が始まって、国内需要が満たせそうになってきている。現地の雇用にも大いに貢献しているしね。流石に自動車はすそ野が広いから影響が大きいよ。それで、大阪への一環工場の建設の建設を決断してくれたとのだが、具体的な設備移転の計画をどうなっているのかな?」
「知っての通り、わが社は現在俺がいるニューヨークが本社ということになっている。無論、消えてしまった本社のための財務等のごたごたは、随分日本政府と大使館にもお世話になっているから、いずれは日本に本社は移す計画ではある。
それもあって、リスクを取りながら、苫小牧にN社、H社との共同で乗用車とトラックの完成車迄の一貫工場を建設して、すでに稼働している。この苫小牧工場の生産能力が、年間乗用車で35万台、貨物車で3万台だから、概ね現在の日本の需要は満たしている。ただ、日本車の需要が大きいアジア市場への輸出は早く開始したい。
その部分を大阪工場で生産したいということだよ。今度はわが社のみでなく、N社、H社も別個に建てようとしている。ところで、我々自動車のみでなく、だいぶ様々な工場が日本に回帰しているようだね?」
「そう。繊維、食品、化学、日用品製造、機械製造などの工場が大分帰ってきたよ。お陰でまだ貿易収支は赤字だけど赤字額は縮まってきた。これは、一つには食料自給率が上がってきたからね。なにしろ、今は人口が1700万で総体に貧しくなっているから、食品を始め贅沢品の輸入が減っている。
それに加えて、観光客が特にアメリカから押しよせていて、観光収入が結構増えている。500年前の世界を見ようという人々は多いのだな。その意味では優先的に景色の良いところや、歴史的な建造物のあるところを観光する道路を整備して、ホテルを建設した成果がでたというものだ」
この住倉の言葉に亀井が応じる。
「そういう意味では、日本政府の施策は順調ということかな?」
「うーん、順調といえば順調だけど、元人の教育もまだまだだし、結果として所得は低いよ。今のところはまだ年間1万5千ドル程度かな。今人にしても北海道と沖縄というのは所得の高いところではなかったからね。それが、少し下がって年3万ドル程度かな。まあ、時震前の水準に戻るのは10年では無理だろう。今は、また世界的にリセッションだから目立たないけどね」
「だけど、元人が1万5千ドルというのは考えてみれば凄いよ、中進国並みだよね。苫小牧工場の元人の従業員の報告も来ているけど、結構使えているらしいね。最初は毎日2時間の教育時間枠を設けていたようだけど、1年もすれば自主勉強で十分になったらしい。元人の知能そのものは特段低くないらしいね。ところで、大名とか領主とかまだ抵抗しているものがいるらしいね?」
「うん、東北の方で絶対なびかないと言っている連中がいるけど、100人足らずだしあれは一族のみだよ。若い者は皆逃げだしてしまった。その意味では、マーケットを作ってものを金で買う習慣をつけて、金の有難さを植え付けていくというのは市場経済を導入する上でうまくいったね。
15世紀に生活していた状態から21世紀の文明を知って、それに自分たちも享受できたらもう戻れないさ。それでも延べ80件余りかな、武力による騒乱があって、320人位が死んだ。今人も12人が襲われて亡くなったけど、この最近1年は無いし、もうないと思うよ。
まあ、本土というか本州、九州、四国の3島については、年間10兆円位の開発費を突っ込んでいるし、10兆円位の様々な経済立ち上げの援助をしているからこそ、それなりのGDPの底上げをできた。でも、今のところは開発投資が多いので必ずしも生活には直結してはいないよ。
まあ、食うものはそれなりに改善できたし、着るものも大きく改善しているが、住むところが問題だな。計画的に現在的な住宅も作ってはいるけど、既存の住宅に住んだままのものがまだ70%程度で多数派だ。それらの家では電線を引き込んでいるところもあるけど、多くは太陽光パネルと電池を配って電灯を使う程度だ。
それに、水道もまだまだだな。幸い日本は井戸水が取れるところが多いから、電気を賄えるところでは井戸ポンプを使って、そうでないところは手押しポンプだ。まあ、アフリカとかアジアの田舎と同じレベルといえばそうだね。あとそうだなあ、10年あればまあGDPも全体で3万ドル、生活環境も概ね21世紀並みになるかな」
住倉の言葉に頷いたうえで亀井が話を変える。
「まあ、日本も時震の影響を脱するべく頑張ってはいるのだけど、住倉君は消えて行った日本はどうなったと思う?1492年のコロンブスがアメリカに到達した世界に転移して、世界を征服したなんて小説がバンバン出版されているけど」
「うん、俺も日本3島は1492年の世界に移転したと思う。だけど、世界征服なんどやっている暇はないはずだぞ。なんせ、1億2千万の国民を食わさなきゃならんし、文明を維持するには石油などの資源を確保しなきゃならん。なんせ、カロリーベースで食料自給率35%だし、石油は100%海外頼りだからね。
だから、何を置いても農場開発と資源採取だな。たぶん、オーストラリアかアメリカ西海岸で農場開発、それにアラビアで石油採取は真っ先にかかるだろうね。それに鉄とか石炭とか、肥料鉱物とか基本的な必要資源は早いうちに押さえちゃうだろうね。
だけど、15世紀末で世界人口は僅か5億位だから、21世紀の文明を載せた人口1億2千万の日本の出現は、否応なく世界が日本に合わせることになるよね。結局、文明が急激に加速するだろうし、そこにおいて、武力など使わずともパックスジャパンになることは疑いないよ。
でも、日本人が過去の帝国主義的なふるまいを自分の政府に許すとは思えないし、文化的な制圧になるだろうね。世界中に征服者でない日本人が散っていくだろう。その場合の問題は、人口抑制をどうするかだね。どうみても、地球のキャバは精々人口50憶位だと思うし」
「うん、俺も大体君と同じ意見だな。だけど………」
友人としての2人の会話はまだまだ続いた。
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ホワイトハウスで、民主党のハイデール大統領を囲んでカーター国務長官、イマーソン国防長官に、マイン首席補佐官を始めとする10人ほどの専門家に、日本から飛んで来たサリー・マキタ在日調整官が協議している。 ゼス・マイン首席補佐官が口火を切った。
「本日の議題は、我が国のコモンウェルスとなった日本の現情と今後について、現地で日本政府との調整にあたっているサリーの話を聞いたうえで、方向をつけていこうというものです。では、まず大統領閣下からお話しをお願いします」
「うむ、日本については、数々の我が国の影響力を働かせ、彼らが持つ我が国の国債の範囲ではあるが財政援助の結果、彼らの計画通りにいっているようだな。時震直後の困難を乗り越え、彼らが元人と呼ぶ人々の再訓練・教育もうまくいって、農業開発、工業の土着化により経済成長路線に乗っていると報告されている。
だから、コモンウェルス入りは現状のところでは、我が国より彼らの方に利益が大きかったと認識している。しかし、自国第一主義が過ぎた、前の大統領スペードにより傷ついた我が国のイメージ回復には貢献してはいると思う。なにしろ、日本の時震後は世界の注目の的であるからね。
とは言え、彼ら自身にもちろん影響は大きかったが、我が国及び世界経済に与えたジャパンショックの影響は小さいものではなかった。コロナショックほどではなかったが、リーマンショック並みのインパクトを与え、その負の影響は未だ解消できていない。
まあ、日本はその人材と工業基盤として役割りで世界に貢献してきた訳だが、その大部分を失ってしまい、領土こそ変わらんが、小国家になってしまった。とは言え、地勢的には重要な位置にあることは変わらんし、数十年もすれば元に近い力を取り戻すことが無いとも限らん。
今日は、サリーの話は聞いて、彼らの今後、さらに我々のかかわり方の今後について話したい」
「はい、閣下ありがとうござます。では、サリー、日本の現状と問題点について述べてください」
マイン補佐官の求めに、北海道の調整官事務所に駐在する、ポッチャリタイプの日系の52歳の女性官僚が話を始める。
「大統領閣下の言われる通り、彼らは経済成長5ヵ年計画を策定しており、それに沿った施策を行っている訳です。これについては、計画自体が合理的なものであり、我が国が懸念したより、元人と呼ばれる人々が戦闘的、反抗的でなかったこともあって、ほぼ目論み通りの進展を見せています。
今では、1000万人に近い元人は日本政府の統治に従って、概ねは満足しているようで、その産業の担い手の一員としての立場を獲得しつつあります」
そこで、カータ―国防長官が口を挟んだ。
「サリー、私もレポートは読んでいるが、そこのところが理解しがたい部分なのだ。15世紀の、言ってみれば野蛮人が、そうも早く21世紀の文明に適応できるものかね。なにより、その時代から少し後の日本というのは戦国時代という騒乱の時代に突入しているのだ」
「ええ、そう言われる方が多いのですが、実際にはその戦国時代にも生産性は継続的に上がっていっているのです。四六時中争ってはいなかったということと、争う支配者は理性的であった証拠です。それと、元人と呼ばれる人々は、別に現在人に比べ知能は低くなないのです」
「うむ、私もカーターのように思ったよ。だけど、事実は事実だ。サリー続けてくれ」
「はい、そのように日本はすでに本州縦断の高速鉄道、高速道路のインフラを完成して、さらに沿岸からの航路を確立して貨物輸送については、それなりのものを確立しています。さらに空港も北海道と沖縄の既存のものの他に京都に国際空港を開港して海外から観光客を呼び込んでいます。
さらには、人口密度が大幅に低くなった国土に大規模農業を導入し、また主として海外の日系企業から様々な工場を呼び返して、雇用の確保と国際収支の改善に努めています。このために国の規模に比べ莫大な投資を続けていますが、そろそろリターンが得られる段階に入っています。
その原資となる財務の面では、消えていった企業や銀行そして組織を考慮して、大胆に国債を帳消ししたために、嘗てに比べ大幅に健全になっています。まあ、これは中央銀行である日銀がもっていた500兆円からの国債を帳消ししたのが大きいですがね」
「ふーむ。サリーがそう言うということは、内政的には大きな問題はないということか。しかし……」
その後も日本に関する協議は1時間以上続いた。
別の連載をよかったら読んで下さい。
https://ncode.syosetu.com/n9801gh/
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