1492年10月、アメリカ共和国建国
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1492年10月1日、首都ロサンゼルスにてアメリカ共和国の建国が宣言された。
初代大統領であるケビン・コスナーは、会場となった新ホワイトハウスの前の建国広場で、数千の群衆を前に4月1日の時震以来のことを思い出していた。
彼が異常を知ったのは午前8時、それが起きてすぐであった。在日米軍司令官を兼ねる空軍中将であった彼には、24時間、担当武官ジョン・ケビン中尉が付き添っている。彼が携帯している通信機には本国と常時繋がっていたので、その連絡が途切れた瞬間に、宿舎を出ようとしていた彼に報告したのだ。
その後様々なところに連絡を取って、結局日本列島の3島が過去の世界に飛ばされたことを理解したのはその日の正午ごろで、1492年の世界に跳ばされたことを知ったのは日本政府からの連絡であり、翌日のことであった。無論彼には1492年という年の意味合いはすぐにわかったが、それが果たして偶然であるかどうかだ。
しかし、日本列島が時代を越えて跳ぶなどということが物理的にありえるとしても、確率論的にその1492年、すなわちコロンブスの航海と、それによるアメリカ大陸における先住民の大虐殺の始まりの時に偶然跳ぶなどのことはあり得ない。
敬虔ではないにしろ、神の存在を信じているコスナー中将はそこに神の意志を感じ取った。とは言え、現地における最高司令官として、コスナー中将は在日米軍約4万5千、うち沖縄に居て消えてしまった2万3千を除く軍人2万2千とその家族2万6千をどうするのかという問題を解かなくてならない。
彼は、4月10日、混乱がある程度収まった時点で、司令部の幹部他と、日本に駐留する空軍、陸軍、海軍、海兵隊、沿岸警備隊のそれぞれの長とその補佐官を、在日米軍司令部のある横田基地に招集して協議をした。
「そういうことで、わがアメリカ合衆国という存在は消えてしまった。というより、われわれ在日米軍の日本本土駐留部隊がこの1492年の世界に跳んでしまったと言う方が正しいかな。そして、我々の役割りである、日本を、というより極東を我が合衆国の国益のために守るという役割は必要なくなった。
今や、日本国の自衛隊はこの世界においては間違いなくスーパーパワーであり、彼等を脅かす存在はないので、かれらにとって我々は間違いなく邪魔であろう。では、我々はどうするべきかということだ。諸君の議論を求めたい。ああ、情報部のマリー・サミュエル君、どうぞ君の意見を述べてくれ」
コスナー中将の冒頭の言葉に応じたブロンドでグラマラスなサミュエル少佐が立ち上がる。
「司令官はいまからお話しする内容を既にご存知ですが、私の方からあの時の直後から日本の自衛隊と政府に様々に探りを入れてみました。
まず、日本政府が最初に注力するのは食料生産と資源確保です。これは当然であり、日本のみならず近代国家の文明は莫大な輸入品の上に成り立っていますし、日本はとりわけ食料の自給率は低く、資源に関しても大部分を輸入しています。
そして、その為に大特急で資源開発部隊を送り込む準備をしています。対象としては、オーストラリアと我が国の西海岸であり、理由は比較的簡単に大規模な農園が開発できるからということ、さらに現地に国家を名乗る存在がないことであるそうです。そして、我が国の西海岸に関してはわが司令部の了承を求めています」
「まて、それを認めるのか?我が国の土地だぞ!」
陸軍司令官のトニー・ベーカー少将が目を怒らせて言う。
「私の意見は、それを認めるべきだと思います。彼等はそれと引き換えに我々が帰って建国することに協力をすると言っていますから。ちなみに、オーストラリアに関しては、彼等は大使館に開発を通告はしましたが、建国を援助するなどと言っていません。基本的には無視する構えです。
つまり、彼等の意見ではこの時代のオーストラリアはネイティブの人々のものであり、彼等を先住民として今後作る国家の国民として遇することで開発を認めさせようということです。
そして、日本にたまたま居るオーストラリア人にとっては基本的にネイティブから奪った国土なので、その権利はないということです。ですが、そこに帰って国民になるのは自由ということです」
サミュエル少佐の言葉に海兵隊のカーマイケル准将が皮肉げに聞く。
「じゃあ、何で我々には建国を援助するんだ?矛盾しているじゃないか」
「我々が、この在日米軍という戦力を有しているからですよ。まあ、戦力からして自衛隊には敵いませんが、自分たちは十分守れますから」
サミュエル少佐が肩をすくめて答え、ベーカー少将も同様に肩をすくめる。
「まあ、しかたがないよな。補給のない軍は戦えないが、補給のない開発も同様だ。我々全員が帰っても家族を入れて5万以下だ。それで、日本が開発した土地もこれから作る我が国のものではあるのだな?」
「そうです。無論彼等が開発し、耕作し、収穫した収穫物については彼等のものですが。それから、考えるべきことはいまの過去の合衆国範囲には概ね200万人のネイティブがいるということです。彼等の扱いについては過去の行いを繰り返さないように、日本政府から明確に警告がでるようです。そしてそれが、建国の条件になると聞いています」
その言葉に敬虔なキリスト教徒で知られる、海軍のスミス少将が応じる。
「ああ、それはそうです。私の部下にもインディオがいるからね。今更居留地に押し込めようという者はおらんでしょうよ。そもそも、この日本が跳んだのがなぜ1492年の4月かということです。これは、歴史をやり直すようにという神の思し召しです」
「うん、ネイティブも国民だ。かれらは、多くの部族に分かれており、土地所有の概念がないようなので苦労するだろうがね。何しろ近代国家を築くには圧倒的に国民の数が足りないからな」
そのような話で決着し、在日米軍としては、軍のミッションとして母国の土地に行って建国するということになり、具体的な準備に入った。この場合には軍として行動であるから、少数の連絡官を残してほぼ全員が帰国するが、家族はその住居の準備ができ次第移転することになった。
彼等の準備にとっては、日本政府が並行して行っている西海岸の開発の準備とその実施は大きな助けになった。日本にとっては米州と豪州の開発は最重要かつ最緊急のミッションであり、他の何を置いても実施すべき事項なのだ。
その為に現地に急行した作業班が多数の桟橋をあっという間に作り上げ、荷揚げを可能にして、さらに莫大な船腹が動員されて人員、重機や機材、仮設住宅が陸揚げされた。
米軍は、この日本が作って運用しているこの物資と人の流れに乗れば良いので大いに助かった。ただ、もちろん米軍の備蓄機材には開発に使えるものもあったが、殆どが日本で購入する必要があった。
その必要な最初の購買の費用は1千億円を超えた、さらに数千億円の費用が見込まれたが、これを彼等は必要なくなる横田ほかの基地を売ることで賄った。
在日米軍にとって幸運なことに、横須賀基地に原子力空母ドナルド・レーガンがちょうど停泊しており、巨大なこの空母は運送に大いに活用された。しかし、この空母はいまのアメリカ軍には明らかに過ぎたものであり、莫大な費用を要するその運用は完全に身に余るものであった。
そのため、これは建国後に日本政府に交渉の末200億円で売却されて、買いたたかれたものの貴重な開発資金に替えられた。日本政府としても原子力空母は戦力として過剰なもので、原子力駆動のために長い距離を航海できる巨大な船以上の意味合いはなかった。とは言え、他国に所有されることの危険性を考えると、運用する体力のある唯一の国である日本が買うしかなかった。
もちろん、原子力空母と海軍の艦艇はあっても、米軍の建国のための開発に必要な物資と人員を運ぶために十分なキャパはなく、日本やたまたま日本にいた多くの船をチャーターする必要があった。
こうして急いだ結果、7月には別の歴史でロサンゼルス市庁舎ができた土地に、ホワイトハウスと名付けた庁舎の建設を進めており、その隣にプレハブの軍に事務所を運用している。そして、この土地は建国する国の首都としてロサンゼルスという名前をつけた。その首都建設には日本も協力している。
だから日本は米軍の依頼もあって、鋼製の10本の桟橋をロングビーチに建設した。日本の開発している農場は、南側に20kmほど離れたあたりから2500㎢の広さを開発しようとしている。この桟橋の位置は日本の農場開発にとってはあまり便利ではないが、都市機能はロサンゼルスを利用できるし、空港は21世紀の位置に建設されるのでそれほど問題はない。
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35歳のマイク・フロー・カトウ大尉は、インディアンという名で呼ばれる先住民の母と日系人の父から生まれた。日本からアメリカに帰るに際して、彼は現地の先住民を建国に参加させるために行動するように命じられた。
これは彼が、母の故郷である居留地で暫く暮らしていたことから、言葉に流ちょうであることが大きな理由になっている。部下には50人がつけられたが、皆先住民の血が混じっており多少は言葉が出来る。
コロンブスの誤解からインディアンと名づけられたアメリカ大陸の先住民は悲惨な歴史をたどってきたが、アメリカ合衆国のテリトリーに住んでいた人々も例外ではなかった。彼等は基本的には平和的な民族であり、こぜりあいはあっても、大規模な戦争や殺し合いはすることなく、よそ者も平和的に迎えている。
逆にそのように簡単に他者を迎えたことが仇になって、持ち込まれた伝染病によって多くが死ぬことになり、さらには征服され奴隷化され虐殺された。アメリカ合衆国の歴史を見れば、それは先住民の血にまみれており、さらには余りに多くの先住民を殺した結果、労働力をアフリカ大陸からの奴隷で補っている。
カトウ大尉は、この悲惨な先住民の歴史を良く知っていた。しかし、軍に入って上司、同僚、部下と多くの人々と知り合った中でいろんな人間がいたなかで、歴史において人と思えない残虐な振る舞いをした人々と同じとは思えなかった。
確かに他に対して酷薄なものはいて、そういう連中ならあのような残虐な行為も出来るだろうと思う場合もあったが、それはごく少数であり、大多数はそうではなかった。だから、彼はそうなったのは、白人が先住民や黒人を人と思っていなかったせいであろうと今は思っている。
もう一つは、そういうことを成した人々に余裕がなかったのであろう。新大陸にやって来た人々は自らが地位も低く、苦しい生活をしていてそれから逃れるために来たわけで、他を思いやる余裕はなかったであろう。その為に都合のよい考えに飛びついたということなのだ。その一つの表れが、違う部分のある他者に厳しいのはその社会の貧しい人々という事実だ。
在日米軍が建国を行うということには、カトウも賛成であり、この事態に置かれた軍の役割りとして当然と思っている。ただ、そこにおいて先住民をどうするかという点は、上層部の決断を少し不安に思っていた。
しかし、大きな議論もなく、すんなり先住民を国民として扱うという結論になったのは聊か意外であったが、やはり現在のアメリカ人は余裕があるからだと納得した。
そして、彼の役割りは建国に先住民の代表を参加させることである。ちなみに“インディアン”は先住民からその名称を変えるべきでないという意見が強いが、コロンブスの誤った先入観によって名付けられたものであるので、使うべきでないということになった。そこで米軍は単純に先住民、ネイティブと呼ぶことにした。
ちなみにアメリカという名もイタリア人の探検家アメリゴ・ベスプッチの名前からきている。彼が実際にここに来るかどうか微妙ではあるが、アメリゴ・ベスプッチの名は忘れて、今後もアメリカと呼ぶことになった。
カトウ大尉とその部下は、日本の現地対策チームとも共同で開発地のネイティブの集落を訪問して、開発上障害になる集落と周辺集落の建設している21世の生活ができる集合集落への誘導、広報による開発への理解などを繰り返してきた。
その際にお菓子や、食べ物、調理道具、衣服、農機具、様々な家庭用品などを与えることが、極めて有効であることを実感している。ただ、最初はともかく無料で配布することは、長期的にみると有害なので、日本チームは開発地での労働を促して、その給料を払って欲しいものを購入させている。
アメリカ軍の場合には、ロサンゼルスの開発地と、当面は彼等の日本より規模の小さい開発地については同じ手法が使える。しかし、なにしろ国政への参加を求めるわけであるため、より広い範囲に影響を与える必要がある。
このため、カトウ大尉は、1ヶ月ほどの活動を踏まえて、部下の内の士官を集めて会合を開いた。これらの士官は42歳のピチャラ中尉、32歳のデバムイ少尉、25歳のキリン少尉である。
「君らも知っての通り、我々の役割りは先住民に政府の設立を広報してその代表を参加させることだ。今までの活動の結果として、もので吊って、金を欲しがらせて我々と一緒の生活を促すことは有効であることが判った。
しかし、問題は当面開発の予定がない場所でどうするかで、そういう場所で我々と国の建設に加わることのメリットを認識させないとどうにもならん。幸いネイティブは、殆ど我々のようなよそ者に対して警戒心がなく、話は聞いてくれるが、あまり理解はしていないようだ。どうしたものかな?」
カトウ大尉の話に最も若いキリン少尉が応じる。
「大尉、前から言われているように、彼らは基本的に土地私有の概念が無く、テリトリ―の概念を含んだ国というものを理解できないのだと思います。また、その反面で代替の家を用意してやれば、我々の邪魔になるところから移転もしてくれますし、便利な生活に却って喜んでいます。
一方で、彼らの生産活動は、原始的な農業に、狩り、木の実や昆虫の採取と極めて生産性が低いもので、たいてい飢えています。わがアメリカの国としての産業は、当分は農業と鉱業で、21世紀的な必需品の多くは日本からの輸入に頼らないと仕方がないと聞いています。
我々の人口は21世紀人が日本人を入れて5万人強、ネイティブの最新の推定が160万人です。その5万人は物を多消費する部分で、160万はいまの消費はわずかですが徐々に増えていく部分です。まず、食料の自給をめざすことが第一で、そのために農場とマーケットから成る生産基地を各地に作って彼らを集めましょう。
そこでは、機械による耕作を行ってネイティブが喰うに困らないようにすると同時に多くの余剰人員を出させます。そして、その人々は、鉱業とインフラ建設に従事させればいいのです。
それと、出来るだけ日本人の移民を入れましょうよ。僕もかなり付き合いましたが、特に若者は閉塞感に悩んでいる奴が多いです。それに日本も、輸出入がほとんど壊滅しましたので、余剰人員が沢山出て困っています。彼らはきっちり教育も受けていて、直ちに大抵の生産に従事できます。
そして、連中はこっちに来れば、生活必需品の工場やら、商売やらを始めますよ。それは国にとって必要なものです。そうでないと、はっきり言って、我々の21世紀人の5万人で160万の何の教育も訓練も受けていないネイティブの面倒を見るのは無理です」
カトウ大尉はキリン少尉の大口舌に圧倒された。優秀とは聞いていたが、軍人一筋の自分とは発想が違う。
「お、おう。判ったが、俺の範疇ではないな、司令官に伝えておくよ。出来たらペーパーを用意してくれ。それと、代表を出させる件はどうするかな?」
「ネイティブの代表は、皆の仲間に入るためと言えば断りませんよ。現にこの前に行ったコタラ族の族長に話したら、スー族の族長が良かろうと言っていました。そこのところは任せて下さい」
これは、キリン少尉の言葉であったが、彼が言うほど簡単ではなかったものの、西海岸のネイティブの大物には概ね面会できた。そして、アメリカ共和国が成立すること、さらに彼等がその一員になることと、その為代表を出す必要があることは了解させた。
しかし、各族長はそのような“晴れやかな場”に出ることは好まず、その中で目立ちたがりと言われる最大の部族スー族の族長が、喜んで議会にやってきた。ただ、族長たちがその趣旨をどこまで理解していたかは怪しい。
後に他の族長たちが、議会に加わるのを断ったことを後悔し、スー族の族長カラン・ジダクが調整に苦労して、でしゃばったことを後悔したことは事実である。
新大統領ケビン・コスナーは、鷲の羽根の髪飾りをつけているカラン・ジダクの加わっている議員15名を横に並ばせて、建国の演説を始めた。他国の使者は日本国だけであった。
「ここに居られるアメリカ共和国の国民、及び来賓の皆さん。私は初代大統領としてここにアメリカ共和国の建国が成ったことを宣言します」その後の演説は省略する。
新たな連載を始めました。すこしはっちゃけたものだと思います。よかったら読んで下さい。
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