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2021年5月、アメリカ合衆国

読んで頂いてありがとうございます

 ホワイトハウスで、民主党のハイデール大統領を囲んでカーター国務長官、イマーソン国防長官に、マイン首席補佐官を始めとする10人ほどの専門家が協議している。


 ハイデール大統領は、エキセントリックかつ強引ではあるが、それなりに人気もあった共和党スペード前大統領を、昨年末選挙で破って就任したものだ。元副大統領という知名度はあっても、高齢でもあり現職に対しては不利という見方が強く、なかなかの激戦で最後まで予断を許さなかった。

 結局新型コロナによるアメリカの悲惨な犠牲が現職の無策として勝敗を分けた形で、選挙の結果は当初の予想より大きな差がついた。


 アメリカの新型コロナウィルスの感染者は、現状で350万人を超え、死者も30万人を上回った。感染者についてはまだ増え続けているという近来稀にみるパンデミックになった。しかし、昨年夏ごろには、日本のアビガンを始めとする既存の抗ウィルス薬の組み合わせで、軽症化することが確認されて死亡率が劇的に下がって、もはや怖い病気ではなくなってきていた。


 さらに昨年暮れにはアメリカ・日本・イギリス・ドイツなどからワクチンが開発され、直ちに使用されて今では新型ウィルスによる病気は風邪の一種とみなされている。とは言え、このアメリカの死者の内訳は、世界一の富裕国アメリカの負の部分を曝け出すことになった。


 つまり、アメリカの医療水準は高く間違いなく世界でも突出しているが、その費用は余りに高額であるのに、まともな保険制度がないために、経済力の低い者はまともな医療が受けられない。

 新型ウィルスの死者について分析すると、こうした無保険者、または保険があっても適用が限定的な人々の死者が8割を占めるということになった。だから、民主党の大統領候補が勝ったのは、前回の民主党の大統領であった、ハバマ氏の提言した皆保険制度への期待もあったのだ。


 また、新型ウィルス感染防止のための様々な措置が経済に及ぼした影響は極めて深刻であり、アメリカの昨年のGDPは、2.5兆ドルを超える巨大な財政出動にもかかわらず、8%の減ということで、大恐慌以来の悲惨な事態になった。今年は、引き続き大きな財政出動によって、躍起になって経済を刺激しているが、コロナ騒動以前の経済規模に戻るにはまだ2年以上を要すると予測されている。


 そのような、国内的な問題は別にしても、アメリカ政府及び国民の、中国という体制とその振る舞いに対する感情は最悪のものになっている。コロナ騒ぎの前からも、実際のところこの国に対する印象は十分に悪かった。


 しかし、自国への近代最悪のパンデミックを起こした原因者、かつそれを初期に隠ぺいした結果としての自国を含め世界中に広げたことは大きな怒りを持って受け取られた。この点は共和党よりもむしろ、実際はどうあれ、自由・公平等を信条とする民主党にその嫌悪感が強い。



 ゼス・マイン首席補佐官が口火を切った。

「本日の議題は、日本の首相代行になったセキと、大統領閣下が明日協議するに当たって、彼らに対してどう対応するかのものです。この件は、世界的に大センセーションを巻き起こしていると同時に、実際的に様々な面で大きな問題が起こしており、かの国の存在の大きさをいうものを改めて認識することになっている。

 セキと外務大臣のオキヤマは、すでに我が国に入っているが、人々がこの件を強く認識していることもあって、なかなかうまくマスコミでアピールしたようです。では、まず大統領閣下からお話しをお願いします」


「うむ、いまゼスが言ったように、まず直接の問題として、在日米軍を含めて8万人もの消えてしまった我が国の国民がいる。まあ、軍についてはオキナワが残った点は幸いであったが。とは言え、日本人は40万以上の者が取り残されて我が国に居るがね。

 この面での現状での困難は、高度な資材や部品の供給元が消えてしまったということだ。我々が、製造業を中国から自国に引きもどそうとするこのタイミングは最悪に近い。どうも、工業材料について、彼らの作っていたコストと品質では到底同じものは出来ないというね」


 ハイデール大統領が一旦言葉を切って、工業生産の補佐官ニキタ・サイバンの顔を見ると、彼が頷いて言葉を引き継ぐ。


「どうも、大メーカーが生産に関しても高い技術を持っていると誤解されているようだが、実際には部品や工業資材を作っている会社の方が、長い経験に基づく高い技術を持っています。こういう工業資材や部品を作るというのは、アナログ的な技術であって、試行錯誤の中でその質を高め、効率を上げていく必要があるものです。日本人はそのようなことに向いているようだね。

 一方で、そうした洗練された資材や部品を組み立てるのはデジタル的であって、手順通り行えば良いのであって、言ってみれば未熟なものでも可能だ。そうした高い技術に適合した、多くの日本人が消えた今、世界はしばらくの間は、コストが高く品質の悪い材料と部品を使っていくしかないだろうね」丸い顔のサイバンはそう言って肩をすくめる。


「まあそのように我々も困っているが、日本のホッカイドウとオキナワに残された日本人、さらに世界に散らばっている日本国籍の人々もさらに困っているわけだ。彼らとは70年以上前に激しく戦ったのだが、その後は一貫して彼らは我が国の良き友人であった。実際に1兆ドル以上の我が国の国債を持ってるものね。

 さらに、そのようなセンチメンタルなことは抜きにしても、日本に対してはすぐにでも侵略を始めるかもしれない周りの国々があり、その一つは我が国に昨年から巨大な損害を与えた国だ。国土の大部分の主が居なくなったと言っても、アメリカ国民はそのような国が、日本を占領するのは許さんだろう。

 私の言いたいのは2つだ。わが国に大きな負担にならない限り、日本の人々を出来る限り助けてやりたい。中国、またはすでにその中国の下僕になろうとしている韓国、さらには北朝鮮またはロシアが500年前の世界であるあの列島を占領して我が物にすることは許さない!」

 大統領はサイバンの話を受け、最後にそう言い切って、強い目で出席者を見回して続ける。


「さて、それでは最も重要な安全保障を担保する軍事から行くか。ジョン、基地と周辺諸国の現状を踏まえた概ねの状況と方針を説明してくれ」

 マイン補佐官が、大統領の話を受けてジョン・カーター国防長官を促す。


「ああ、まず知っての通り、日本には4万5千の我々の軍がいたが半分が消えてしまった。しかし、オキナワの半分は実戦部隊が多く、より機材も整っている。だから、彼らが居てグアム、ハワイそして本土の我々の軍がある限り、チャイナは手を出せないし、それは韓国を含む他の国も同様だ」


「ただ、オキナワの知事はチャイナ寄りと言う話があるが、それは不安定要因にならないのか?」

 補佐官の一人が聞くのに国防長官が答える。


「本当の意味で、チャイナの支配下に入りたいと思っている奴はオキナワにはいないよ。とりわけ、あの国は今回の騒ぎで世界の敵になって、唯一の取柄だった経済もガタガタになっているからね。あの知事の動きは単なる条件闘争だ。とは言っても、今後形成される日本政府の主導権を取ろうとして動く可能性はあるがね。

 さて、そのようにオキナワの基地があって、我が国が日本を守ろうとする限りにおいては、日本は安全だろう。そして、我が国にとってのオキナワに基地を置く必要性の有無であるが、我が国のヘゲモニーを保つためでなく、世界を不安定化させないためには、私は必要と断じるね。

 確かに、コストはかかるが、世界が不安定化することのコストの方が遥かに高いと私は思う。だから、オキナワの基地は保持する。そうすれば、日本のテリトリーを東アジアの国々から守ることは可能だ。北海道の戦力はロシアに備えたもので、それなりに強力だから、彼ら自身が守りに当たっては貢献できる」


「オキナワの基地があるかぎり、他国からの安全保障上の問題は殆どないということだな。では、キャシー、日本に行って調べた結果と彼らの臨時政府の意向を説明してくれ」

 マイン補佐官が話を引き取っての要求に、40歳台半ばのキャシー・ジョーダンは、アフリカの血の起源を示す浅黒い顔で出席者を見回して話し始める。


「まず、大統領閣下は十分ご存知ですが、その『時震』が起きてからの日本の状況を簡単に説明しますね。時震時点で、政府内での序列2位のセキがホッカイドウに居たことは日本にとって幸運でした。ホッカイドウの知事、オキナワの知事はいますが、彼らは単なる地方自治体の長ですから、わが政府がまともに相手にするには足りない相手です。

 彼はまず、自衛隊の陸上部隊の本部を訪問して、臨時政府を立ち上げることを告げ、政府首班として指揮権を持つことを宣言し、認めさせています。またその結果を持って、陸軍の指揮官を通じて空軍と海軍にも同じことを認めさせています。日本はそのような際の具体的な規定はなかったようですが、彼が非常時において政府を代表し、軍に対して指揮権を持つことは合法です。

 そして、そのうえでホッカイドウの道庁に乗り込んで、臨時政府を立ち上げること宣言して、知事以下に行政府として役割を担うように要求し承知させています。さらに、米軍の飛行隊がチトセで訓練中であったために、その指揮官を通じてオキナワとハワイの基地とも連絡を取っています。


 その連絡はホワイトハウスにも来ていますが、セキの要望は本土の周辺諸国による侵略に対する防衛です。実際に4月の2日〜3日にかけてチャイナと韓国、そしてロシアが国境すれすれまで偵察機を飛ばしてきて、日本の戦闘機に追い払われています。

 チャイナに至っては状況を察して、偵察機がキュウシュウを縦断してホンシュウに至ろうとするところで、日本機に我が国の戦闘機も同行して追い払っています。この件は日本からもセキが代表して抗議しましたが、我が国からも強く警告しています。

 そして、セキは首相代行として就任し、組閣として緊急に数人の大臣を決めました。この場合最も重要なのは外務大臣と防衛大臣ですが、緊急で国土開発も始める必要があるということで、国土交通大臣の3人の任命を急ぎ、4月3日までに決めております。

 外務大臣はセキとも面識のあるホッカイドウ大学の教授である、オキヤマ・セイジで、かつては外務官僚だったそうです。私も何度も話し合いましたが、まだ42歳と若いもののなかなかタフで有能ですね。

 防衛大臣は、時震後セキが最初に会った軍人であるマエカワ将軍を退役させて、就任させたということです。彼も穏やかではありますが、論理的で有能な軍人のようで、防衛大臣としては十分だと思いますね。

 もう一人の国土交通大臣は、たまたまホッカイドウに居た国会議員のカミツという人で、悪い人ではないようですが、セキや前に言った2人に比べると、能力の面でどうかと思いました。ただ、セキは補佐するものが居れば大丈夫と言ってはいました。

 さて、セキとオキヤマが言う日本からの要求というか要望ですが、大まかにはまずは1)侵略を受けないように防衛面での協力です。さらに、2)彼らは対外純資産が3兆ドル、これには我が国の国債の1兆ドルも含みますが、保持しているそれをうやむやにならないように我が国の後援、3)列島に住む500年前の人々を含み、彼らが生き・文明を保持するための物・人の両面での支援等があります。

 そしてそのために、我が国の国債については、有効に役立てたいということです。そして、彼らの人口はホッカイドウが530万人、オキナワが145万人に、過去の人々が、これは全くの推定として1000万です。つまり概ね全部で1700万人というところです」


 ジョーダン女史の話が終わり、マイン補佐官が再度皆に問いかける。

「そういうことだが、皆の意見を聞きたい。うん、マイケルいいぞ。話してくれ」


 マインは、手を挙げた補佐官の一人マイケル・パターソンを指して発言を促す。

「うん、ちょっとその要求は、セキも甘いのじゃないかな。わが国の国債と言っても彼らが消えたことで、わが方の損害も大きいのだし、かれらの政府と言っても実態がないに等しいのだから、そんなものは帳消しだぞ」


 半数ほどの出席者はその意見に頷いているが、ジョーダン女史が口を挟む。

「ええ、そういう意見が出ることはセキも承知していました。だから、彼は我が国に対して、現在の領土について、当分は保護国コモンウェルスとして扱って欲しいと言っています」


 その言葉に、「ええー!」と半数ほどの出席者から思わず驚きの叫びがでるのに、カーター国務長官が言葉を足す。

「弱った相手の負債を踏み倒すのは、如何にも印象が悪い。それに1兆ドルと言えば莫大だ。そしてそれは現金でなく、我が国からの物品と労務として出ていくわけだ。ほぼ原始的な1千万の人の住む世界を近代的な国に作り替える訳だから、なかなか我が国への経済効果も高いと思うぞ。

 また、日本の持つ外債は我が国のみならず世界に散らばっており、現状の日本ではまず回収はできないだろうし、使えないだろう。それに、彼らの余剰債権が3兆ドルあるものの、6兆ドル程度の負債があるわけだ。だから、力がないと逆に負債は背負わされて、資産は回収できないことになる。

 その点では我が国が保護下におけば、全く話が変わってくるだろうし、弱きを助けるという印象は、国際関係において非常に有効だ。国債は結局国としての借金であり、外国に借りているのであれば、返さなくてはいけないものだ。

 それをさっき言ったように、投資の形をとって我が国の経済の活性化にも役立つように『返す』のであれば、非常に有効だと思う。だから、保護国化しても我が国に損はないと思う」

 この国務長官の言葉に、反論する者はいなかった。



 臨時日本政府の関首相代行と沖山外務大臣は、ハイデール大統領と会見し、アメリカ政府の日本の現在の領土への防衛と復興・開発に対する全面的な協力を取り付けた。

 そして、国の生産力と人口の大部分を失ったことによって、国として自立する力を失ったとして、当面10年間の時限であるが、プエルトルコなどと同様に、アメリカ合衆国のコモンウェルス(保護国)になるということも世界に向けて発表した。

 関はアメリカ合衆国による保護国化は、日本の領土と利権を守る唯一の手段であると説得して臨時政府内部と北海道を説得し、異論のあった沖縄県を押し切った。


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