↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/72

1492年8月、北京

読んで頂いてありがとうございます。

 明の10代皇帝である孝宗弘治帝は、豪華な机の奥側の椅子に座って、内密の話によく使う小部屋の入口で畏まっている忠臣の朱源勝に声をかける。


「これ、源勝、そこでは話ができん。決妙の横に座れ」

 その声に、朱は皇帝の向かいに机を挟んで座っている宰相の徐結妙を窺い、彼が頷くのを確認して彼の横に座る。朱はこの部屋で皇帝と話をするのは始めてだ。


 弘治帝は42歳、遊牧民の血が入っていることもあって大きく鋭い目をしているが、悠然たる態度に穏やかであるが断固とした人柄が窺える。彼は、父成化帝の寵妃万貴妃の血の粛清を生き延び、国の生き血を吸っていた者達を処分し、ガタガタだった明を5年で立て直しつつある英明な皇帝である。


 弘治帝であればこそ、近臣とはいえ、豪華ではあるが小さな部屋で顔を合わせて様々な話し合いをしている。通常の皇帝であれば、高い台の天子の椅子から、畏まっている臣下から報告を一方的に聞き『よきにはからえ』と指示するのみである。そこには皇帝と臣下のやり取りはない。


 宰相の徐は、弘治帝と同じ42歳であり、帝の教師を務めて来て、今の帝の施策の骨格を教え導いた老臣徐新陽の息子でもあり、帝の改革を最初から補佐してきた有能な人物である。一方の朱は帝に近侍するのは最近からであるが、帝が最も信頼している一人になりつつある。彼は、帝の命で、8人からなる訪問団を率いて海を越えた国に渡り、昨日帰って来たばかりである。


「よろしい、では源勝、お前たちの訪問の成果を説明せよ」

 弘治帝がピンとはねた口ひげを触り、顎髭をしごきつつ命じる。


「畏まりました、陛下。では失礼して説明の準備をさせて頂いてよろしいでしょうか?」


 朱が部屋の入口に置いたケースを指さすと帝は得心して応じる。

「おお、あれは前にも見せられたビデオというやつじゃの、あれは解りやすい。無論準備をせよ」


 朱はケースから取り出した、8インチの画面を皇帝と宰相にも見えるように置いて、まずは映写を始める前に説明を始める。

「ええ、陛下が日本から訪れた使節にお会いになったのは、今から1月ほど前でしたね」


 朱の言葉に、宰相の徐は日本と名乗る国の使節の訪問を受けたことを思い出す。普通は大明国の首相などの高官に、どことも知れぬ蛮人の国の使者が簡単に会うことはできない。増してや皇帝に会うなどはとんでもないことだ。


 しかし、その使節は、港の天津から馬のない馬車に乗って来るというとんでもない方法で現れた。そして、日本国の内閣総理大臣(宰相)からの、大『明』国宰相への国書が提出された。

 また、それには国を紹介したという景色を切り取ってきたとしか思えない絵を中心とした薄い冊子が添えられていた。


 受取人に指定されている徐宰相に、その書類は比較的速やかに届けられた。徐は書類を読み、添えられた冊子にも目を通した。それによると、『倭』であるはずの場所にある島国に、1億人を超える人が住んでおり、そこの国の都市は、信じられないほど密集した巨大な建物で埋まっている。


 そして、そこで使われている巨大な船、空を飛んでいる巨大な乗り物、地上の走る細長い乗り物、道路を埋め尽くす乗り物、信じられない高さの塔などが示されている。

 さらには、人々の暮らしも示されており、中華の人と変わらない風貌の人々が、それが何か見当もつかないようなものに囲まれて暮らしている。それを見れば、それらの日本に住むという人々は、その絵に示すように、大中華の人々でも及びもつかない豊かな暮らしをしているようだ。


 そして、その国書は大『明』国が、受け取ったいかなるものに比べても形式が整っており、字体も署名を除いては人が書いたとは信じられないほど整っている。そして、その冊子は徐の好奇心をこの上なく刺激した。彼の主君は、形式ぶり・もったいぶるのを嫌う人柄であり、宰相たる徐も同じ傾向がある。


 徐は流石に即日ではなかったが、翌日の午前で会見をするように補佐官に命じ一行に会うことになった。訪問してきた一行は3名であり、正使は山田外務省アジア太平洋局長という意味のよく解らない役職の40歳台位(実際は52歳)の者で、さらに副使が西川中国担当官という若い役人であり、加えて江という明成大学教授(中国史教室)という学者であった。


 彼らの服装は見慣れないものではあったが、きちんとして洗練されたもので、大明国の宮殿にあっても恥ずかしくはない程に整っていた。山田は余り言葉ができないが、他の2人は十分に受け答えはできた。しかし、その言葉は奇妙な単語がぽつぽつとあり、通じない単語もままあった。


 そして、その時に彼らが持ってきた小さな機械(?)の画面で、中国史なるものを見せられた。それは簡単なもので長さは4半刻(30分)程度で、この大明国が150年の未来に、東北部の満州族の蛮族に滅ぼされることも示されている。さらに、それは530年未来まで続いており、日本がその未来から跳ばされてきたことが説明された。


 それを見た時に、徐は思ったほど衝撃を受けなかった。彼は、倭のことは倭寇の源としての野蛮な国として、またその一部族と取引もしていることで比較的よく知っていた。そして、欧州についても古くから交易の相手ではあったが、自分達より劣った存在として知っている。


 そして、彼が知っていることからすると、これらの国が今回訪れた使節の持ってきたようなものを用意できるとは信じられなかった。だから、むしろ500年後の世界から来たという方が信じやすい。徐がその時使節に聞いたのは「この大明国はどのようにして滅んだのだ?」ということであった。


 それに応えたのは、江教授であった。

「結局、明は満州の部族に滅ぼされましたが、皇帝の乱費とそれに乗じた役人の専横によって国力が損なわれ、結果として各地に乱が起きて国を守りがおろそかになったことが原因です」


 その答えに、徐は尚も聞いたのを覚えている。

「ふむ、今生陛下の治政はどのように評価されている?」


「はい、明中興の祖と呼ばれております。しかし、残念ながら余りにその治政の期間が短かかったのです」


「なんと!何年後にお隠れあそばす?」


「そう、歴史ではあと13年ですが、医療の誤りであったようですから、今世ではそれは防げます」


「……ふむ。ということは我が明の運命を変えることも可能であるな?」


 その徐の言葉に正使の山田が口を出した。

「その点こそが、今回私どもが伺った理由です」


 徐は山田に向き直って問うた。

「それは、どのように?またなぜ?」

 

 徐は、その返事をはっきり覚えている。

「はい、我が国は1億2千万人の人口を抱えています。そして、わが領土である3つの島ではそれだけの民を養う食料を得られません。また我が国の国民は大変豊かな生活をしていますが、そのために大量の物を必要とします。わが国はこの時代に跳ばされる前には、食料や資源の途方もない量を国の外から輸入していました。

 ただ、それの主な部分については、すでに我々は手を打ちつつあります。それは今の国の外の住民の数が非常に少ないところでの処置で、その人々には土地を使い、資源を取ることの償いをして一緒に暮らしていくつもりです。そして、貴国のような文明国については、一切侵略するつもりはありませんし、今後仲良くやっていくつもりです。

 一方で、私達の日本がこの世界に現れた以上、我々は自分が生きまたその暮らしを守るためには、いやがおうにも外の世界と付き合っていく必要があります。我々日本は、世界の500年の進歩の結果の知恵を持っています。それは、ここに持ってきたごく一部のものからでも明らかであろうと思います。

 そして、私達はその知恵を、危険な一部のものを除いて解放するつもりですし、加えて、望むなら私たちと同じような生活をするための手助けをします。その点を申しあげたくて訪問しました。

 また、今回貴国へは急いで来た結果になりましたが、これは我が日本には500年後に中国大陸から来た人たちが70万人程以上居られます。この方たちの相当な数の人々が、この明を目指して帰ってこようとしている動きがあります。

 その人々が、この明の秩序に従って活動するなら、彼らは500年後の知恵を持っていますので、貴国にとって大変有益だと思います。しかし、武器等を持ち込んで支配権を奪い取るなどの動きが起きることを懸念しています。

 正直に申しますが、この時代の文明化された国家として、わが日本は最もお付き合いしたいのは貴国です。江教授は残って頂きますから、教授から世界史を学んで欲しいのですが、最も技術が進みつつある欧州の国家群はこのままでは、世界の有色人の悪夢の存在になります。その点では、貴明国は侵略性向が強くはなく、何より英邁な君主を頂いております」


 その言葉に加え、様々な議論をしたこと受けて、徐は宰相として主君に日本の使節のことを耳に入れたのだ、そして、思った通り皇帝は謁見をすると言いだし、更にはまさにこの部屋で使節と直に話をしたのだ。


 その後、副使の西川と江教授は北京に残った。江教授については10日に一度ほど皇帝に呼び出されて、さまざまなレクチャーを請われている。江は、皇帝と会うなどの用のないときは、喜々として宮殿や街中を歩きまわり、可能な限り図書館に入り浸っている。


「わしは、ここにこうして来て、文書の上で知ったことを実際に確認できて、学者としてこれほど幸せなことはない。ずっとここにいたいものじゃ」

 そのように、口癖のように言うようになった教授であった。


  ー*-*-*ー*-*-*-*-*ー*-*-


 さて、朱の主君への話が続いている。

「あの時の、使節の陛下への話に間違いはありませんでした。確かに、日本という3つの島は別世界です。あの渡された絵と、このような画面に映された動く絵の通りです。それらは手に入れてきた動く絵(映像)でお見せしますが、もう一つ気がついた大事なこととして、日本の政治は民の意向を無視しては成り立っていかないということがあります。

 また、その民は人同士が殺しあう戦争を非常に嫌がっていますし、侵略という言葉を嫌っています。そして、日本の政治の責任者の『首相』は、侵略はしないということを繰り返し言っていますから、先日の正使の言葉は本当のことだと思います」


 その言葉を受けて、弘治帝が顎髭をしごきながら言う。

「ふむ、儂も江教授の話を何度も聞いて、日本の者達の考え方が解ったように思う。日本の者達は今現在世界のいろんなところに行って、農場と資源の開発ということをやっているが、本当のところ民としてはそれを嫌っているようだの。と言うか、結局現地の先に住んでいるものから、土地や資源を取り上げる恰好になるので、後ろめたい思いがあるということかな。

 とは言え、食っていくには、また今の生活を続けるためには仕方がないという訳だ。まあ、武力をもって我が明が侵略されることはないだろうよ。武力と言えば、それはどうであった?」


「はい、武力については、街に沢山ある本屋で、日本の兵器と人員を含めた武力を説明したものがいくらでも売っていました。また、案内の日本政府のものは、我々がそれを調べることを一切邪魔することはありませんでした。結果ですが、どのようにしても、我が明が彼らに武力で対抗するのは絶対に無理です。

 詳しくは後で説明しますが、仮に我が方が100万人の軍を催しても、彼らは我々が近づくこともできないうちにそれを打ち滅ぼせます。彼らがそれに要する兵員は、千人もいれば十分でしょう。ただ彼らにとっては、相手がたとえ数百人でも、一方的に殺戮することはとんでもないことです。だから、自分を守るために仕方がない状態でない限り実行はしません」


「うーむ。彼らの軍はそれほどのものか?いや、朕も日本も含めて国々がどれだけの戦争をして、どれだけの人が殺されたかは学んだが。そういうことがあってのことだの」


「はい、それはそういう面もありますが、そうやって他の領土を奪わなくも互いに交易して不自由なく食っていける。また、交易相手と争うのは損ということかと。

 それでも、日本のあった世界は実際の大きな戦争こそは過去のものでしたが、その危険はあると思われていました。しかもその一番危ない国が、共産主義のこの中華だと思われていたとか」


「うむ、共産中国な。どうも世界の嫌われ者になっていたようだの。まあ、そのような強力な日本が攻めてくる恐れは殆どないというのは朗報ではある。それから江教授から習ったのだが、日本のあった世界は今の儂たちよりずっと豊かな生活をしていたようだ。

 それは物を作るまた扱う知恵が大きく進んで、それを使ったからであるそうな。その知恵を我たちも使うことはできるが、基礎になるものがないと、その実現のためには長い年月を要するそうな。だから、江の言うには日本から金を借り、その金で物を買えばその期間をうんと縮めることができるという。

 その際には、日本にいるという未来の世界の知識を持っている中華のもの70万人は大いに使えるだろうということだ。しかし、江も日本の者と同じことを言っていたな。わが中華のものは余り行儀が良くないので気を付けなくてはならんとな。徐よ、南京の話を源勝に話してやれ」


 皇帝は宰相に言う。

「はい、陛下、南京に500年後の日本から帰ってきたという……」宰相の徐は、早馬で知らされた南京での祖国帰還団の説明をして最後に言う。


「そういうことで、多分2〜3日うちにその祖国帰還団という連中がやってくる。まあ、一緒にいた商人の高というものが、梁家と共にやろうとしていることは、綿産業の能力を高めることで結構なことだ。また、その高というものは、農業を含めた様々な産業の効率を上げようとしているので、我々も大いに援助すべきであろうと思っている。

 ただ、現在この北京に向かっている部隊の宋という軍人はどうも油断ならん。なにより、彼らの持つ武器はまともにやれば、万の兵も敵わぬほどのものであるらしい。このことは、彼らが会おうとしている軍事卿の周にも話は通している。奴らが、周のことをどう思っているかは知らんが、周は陛下の忠実な臣下だ」


 その後、朱は主君に向かって、約10日間の日本滞在で手に入れた映像や、写真集などを示しそれぞれについて説明した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 基本的に明はそこまでヒャッハーしてないので厳密に銃火器の類を制限してましたからね。。。(地方反乱の原因に。。。) 無反動砲小銃とかの売り込みは秩序が乱れるので やめてくれよ(真顔)でしょう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。