プロローグ9
破片があちこちに飛び散り、水晶玉の原型は無くなっていた。
テーブルの上にあるのは粉まで粉砕したガラス片。
「な、な、なんなんじゃこれは!!?? 」
慌ててギルド長が立ち上がる。
「ユウキ大丈夫か!? 」
グレンもまた立ち上がった。
グレンやギルド長たちはテーブルの下へ潜り込み、爆発から免れた。
一方、僕は状況が理解出来ず、立ちっぱなしになっていたはずだが
「 大丈夫みたい…… 」
擦り傷どころか全くと言っていいほど、怪我をしていなかった。
「どうして……」
そう呟く。なにかした覚えはない。
これが勇者の力ということなのだろうか。
「ユリアナがやったのか 」
すると、グレンが怪訝そうに話す。
「 ええ、そうよ 」
当然、と言った感じで意気揚々と答えるユリアナ。
「何をしたの? 」
疑問を感じざる得なかった。
あの瞬間、ユリアナが何かしたような様子はなかったはずだ。
「え、ちょ、お姉さん? 」
突然、ユリアナにギュッと抱きしめられる。
「ほんと、よく分からん魔法を使うわ 」
そう呟くアラナ。
「ガラス片が飛んできたから届く前に全部砂になるまで粉々に砕いただけよ 」
足元を見るとほかよりも一段と粉になったガラス片が落ちていた。
それもユリアナと自分の前だけ。
「すごい、これが魔法なんだ 」
魔法という概念は知ってはいたが、実際に目の当たりにするとこうも凄いものに見えるとは思わなかった。
感嘆に浸っているとギルド長が訝しげな顔をして口を開いた。
「にしても、今のはなんじゃ。水晶玉が割れるなんて聞いたことがないぞ 」
「分からねぇよ。ステータスも見れなかったことからこの水晶の容量を超えちまったのかもしれねぇ 」
「くぅ、この水晶玉作るのにアホほど金がかかるってのに。ちょっと待っとれ。ほうきもってくる」
そう言って、部屋から駆けていく。
「アリアナ、水晶玉割ったの? 」
アラナが、首を傾げる。
どうやらユリアナという女性の扱う魔法は仲間からしてもまだ未知な部分が多いらしい。
謎の女魔法使い。
彼女が持つ雰囲気も相まってもの恐ろしさも感じてしまう。
「なんで私なの? 何もしてないわよ 」
ユリアナは不満げに答えると、手に力を入れた。
「……うっ、苦しい」
背中にはすごい柔らかいものが当たっているが、それでも力を入れられると苦しい。
「俺の知る限りじゃなんもしてねぇし、やる意味もわからねぇ」
どこか怪訝そうな雰囲気を持つグレン。
「それは、そう、よね 」
「とりあえず、この坊主が普通じゃねぇってことはわかったな」
一斉に視線がこちらに向く。
「これで勇者ってことで決まりだね 」
「まだ分かんねぇよ。ただ勇者の可能性はもっと拭いきれなくなったけどな 」
「この水晶が無理なら王国に行くしかないんじゃない? 」
「複製元があるところか。あそこは今1番荒れてるし、行きたくないんだが 」
「でも、彼が勇者だったら、私たちは祝福ものよ 」
「ああ、それならいいんだけどな 」
「どうしたの、罰が悪そうな顔して」
「いや、少し嫌な予感がするんだ 」
「あんたの感は当たるから、やめてよね。そういうの 」
アラナは冗談交じりに笑った。