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勇者になれて  作者: うととまる
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プロローグ8

それから、ギルドに向かうことになった。

ギルドには冒険者のステータスを測る水晶というものが置いてあり、そこで僕の能力を測定するらしい。

ユリアナの無理矢理感は否めないが、僕が否定する理由もなく、僕自身意気揚々としたものだった。

向かっている途中、その水晶は複製物であると教わった。

元は王国の聖堂に飾られているらしい。

太古からあるもので今や、どうやって作り上げたのか分からず、神によるもの、神様が我々のために創造してもらった、ということになっている。

どうやら研究者が気が遠くなるほど解析をしたがそれより相当劣る複製を作り上げるのが精一杯といった感じで、完全な解明は出来なかったらしい。

そんなことを話しているとギルドに着いた。

外見は石造りの豪華な屋敷といった景色ではなく、先程までいた役所より少し小さいくらいの大きさだった。

グレンたちはドタドタと入っていく。

木造の扉を過ぎると、中にはまた受付や、クエストを受注しているのであろう掲示板、奥の方には飲み食いできるような場所があった。

冒険者もまたちらほらといて、ユマニは見えないがドワーフ、エルフ、リザードマンなどが様々な装備をつけて、クエストを受けていたり談笑したりしている。

目線がチラチラとこちらに寄ってくるが気にもしないグレンたちは奥の方へ向かっていく。

途中、『グレンだ! 』『ユマニの冒険者か』『久しぶりに見たの 』 という声が聞こえてくる。


(ねぇ、グレンって有名なの? )


小さな声でユリアナに訊く。

ユリアナは微笑むと、唇の前で人差し指を立てて、そして僕の耳元で囁いた。


(秘密だけど、グレンって冒険者の中では伝説級の冒険者なの。だから、皆反応しちゃうんだよ )


(伝説級って? )


(冒険者の中では1番上の階級よ )


(やばっ! グレンめっちゃ凄いんだ! )


想像していた以上に凄い人に出会っていたらしい。

そんなこんなしていると受付の奥のほうにいた絢爛豪華な服装をしているドワーフがこちらに気づき、駆けてきた。


「おお、久しぶりじゃな。雷槍 」


多分、ギルド長、なのだろう。

金髪に金色の髭。服に身につけた宝石だったりと派手な格好をしている。

まるでテレビの中の大富豪だ。

このドワーフ以外がギルド長ではないならなんなんだという感じだ。


「おいおい。通り名で呼ぶなよ 」


嫌そうに答えるグレンにギルド長は首を傾げる。


「はて? かっこいい名前じゃないか 」


「俺にはグレンって名前があんだ。そんなことよりちょっとした要件があってここに来たんだ」


再びギルド長のドワーフは首を傾げた。


「たしか、お主らへの依頼はまだ数日しか経っておらんかった筈じゃが……もう終わったのか?」


グレンは首を横に振る。


「そうじゃねぇんだ。ステータスを少し確認したくてな 」


「なんじゃそりゃ。お主らのレベルじゃ、もう大して変わらんじゃろ 」


「いや、俺らじゃないんだ。この後ろにいる坊主。こいつを見てやってくれ 」


グレンの後ろにいた僕に対してギルド長は顔を向けてきた。


「 なんじゃお主らの子供か? 」


グレンとアラナに指を指すギルド長。


「ち、違うわよ!! 」


すると、顔を真っ赤にしたアラナが横に入ってきた。

まるでアラナがグレンを意識しているようだ。


「どうした、反応しすぎじゃねえか? 」


「いや、それは確かにそうだけど……」


そんな彼女を後目にグレンは口を開く。


「こいつは訳ありでな。色々あって調べてほしいんだ」


と、指を刺されて前に出ていく。


「勇者かもしれないので調べて欲しいんだけど 」


すると、ギルド長は拍子抜けした表情を作り、高らかに笑いだした。


「ハッハッハ!! 。意気込みはいいが、勇者を名乗るにはまだヒョロっちいな。冒険者になりたいってことならオススメはせんぞ。基本的にどこにも属せない放浪人がなるような職業じゃからな 」


ガッハッハッ、と笑うギルド長。


「うぅ……」


そんなに勇者には見えないのだろうか。

逆に自分が勇者と名乗るのが恥ずかしくなってきた迄ある。



「ギルドの長がよく言うわ 」


アラナが呆れまじれに言う。


「ま、若僧にそんなこといってもわからんだろうし、グレンには色々してもらったからな、こっちに来い 」


それから連れて行かれたのは受付の隣にあった小さな部屋。

部屋の中央に丸いテーブル。

大きさはバスケットボールくらいだろうか、透けて奥底まで見える綺麗な水晶玉が中心においてあった。

テーブルを6人で囲む。

目の前には、先程からずっといるのにずっと無口な甲冑の男。

名前も知らずにここまで来てしまったが、顔も見えないため、話しかけづらい。

それを察したのかアラナが手を横に振った。


「ダメダメ。ダンテは一切喋らないから、私も全然声聞いたことない 」


「えー? なんでなの? 」


と、ダンテと呼ばれた甲冑の男に声をかけてみたが無反応。

確かに何も喋らないみたいだ。


「意味わかんないよね。話さないと不便なのにグレンは男同志ならわかるとか訳分からんし 」


「まあ、それは僕もわかんない 」


友達がいたことがないしね。

しばらくして、準備を終えたギルド長が水晶に手を掲げる。

すると、水晶玉が光出し、綺麗なスペクタクルを描く。

とても綺麗だ。これが宝石なら複製物と言っても信じるものはいないだろう。


「これで調べるんじゃ 」


起動し終わると、ギルド長は手をしまう。

しかし、見た目はただの透明な球体何をしていいのかさっぱりだ。


「これに何をすれば? 」


「お主の血じゃよ。血 」


「え――」


物騒な単語が聞こえたと思った瞬間、 目の前にゴトっと元音がした。

よく見るとそれはナイフで、鋭さも申し分ない。

職人が作ったであろうそれはダーディヒという名が刻まれていた。

え、これでどうするの? という、視線を周りに送る。


「これで切って水晶に垂らすみたいな?」


「少量でいい。水晶の真上から垂らすんだ」


なるほどね。と、思いつつ、ナイフを握ろうとする手が何故か躊躇いを見せていた。


「うぅ……」


ナイフなんて握ったことは無いし、予想以上に傷をつけてしまったらと思うと躊躇してしまう。


「どうした? 怖いなら俺がやってやろうか?」


「それは……やめとく 」


「あら、振られた 」


「うっせーよ。それぐらい一人で出来るってことだ 」


覚悟を決め、ナイフに手を伸ばす。

しかし、先に聞いておくことを思い出した。


「ねぇ、これでレベルとか技が見れるってことだよね? 」


すると、ギルド長が呆気に取られた顔をしていた。


「レベル? なんじゃそりゃ 」


「そんなの見た事ねぇな 」


訳が分からんと言った感じの顔をするギルド長とグレン。

そしたら、ユリアナが口を開いた。


「まあ、そういう指標があったら嬉しいわよね 」


「そうね。見れるのは体力、筋力、潜在能力(タレント)、あとは運とかじゃなかったかしら 」


「覚えている技とか見れないの? 」


なんか思っていたイメージよりも大分使い勝手が悪いというか面白みがないというか。


「覚えているって、自分がだろ? 水晶は記憶まで表示してくれねぇよ 」


「私たちの動きや魔法と呼ばれる現象に私たちが勝手に名前をつけているだけだもの。水晶からしたら知るかって感じだわ 」


ユリアナは微笑む。


「まあ、そうだよね。とりあえず、潜在能力とかに凄いのがあったら僕が勇者ってのを認めてくれるんだよね 」


「まあな 」


「おう、もちろんじゃ 」


知ってか知らずしてか一緒に乗るギルド長。

そんな彼を後目に不安に思いつつも手を伸ばしナイフに触れた。


その瞬間――


「い っ!!!……」


頭に強烈な痛みが走る。

そして、視界がが真っ白になったと思った瞬く間に、変な映像が映り込む。

クラスメイトと思しき男子たちがこちらに声をかけて来るのが見える。

砂嵐のせいで鮮明には見えないが煽られているような気がした。

次に女の子が映る。

優しく声をかけてくれてる。

これまた砂嵐で顔すら見えない。

なんだこれは。忘れていた記憶?

しかし、次に意識した瞬間にはもう何も見えなかった。

ぼんやりとした視界が色を取り戻し、焦点が合ってきて、左手がはっきり見えるようになった。


「ハァ……ハァ…… 」


どうしてか、息が切れていた。

心臓の鼓動が早く、冷や汗も感じている。

慌てて近くまで撚ってきたグレンたちが声をかけてきた。


「おい、大丈夫か! 」


「え? うん。なんか変なものが見えて 」


別に怪我をした訳でもないので体には別状はない。

それを見てか、他の人たちの心配もなくなったようだ。


「変なもの? 記憶ってやつか 」


グレンは不思議そうに声を上げる。


「そうかもしれない。でも、ボヤけててよく分からなかった 」


「記憶が戻るまではないのか 」


「ごめん 」


「謝ることじゃねぇ。その様子じゃ、ナイフは無理そうだな 」


なぜナイフで、記憶が蘇りそうになったのかこの時は僕でさえ全くわからなかった。


「他になんかないか? 」


グレンはギルド長に聞く。

それに割って入るようにアラナが答えた。


「そういえばピンセットとかあったでしょ? 」


「お、おおう!あるぞ! ちょっと待っとれ! 」


慌てたように返事をしてピンセットを取りに行った。

ギルド長がピンセットを持ってきた頃には既に調子は戻っていて、いつも通りの隊長であった。


「これでやればいいかな?」


ピンセットを手に取る。

今回は全く記憶が蘇りそうにはなかった。


「じゃ、じゃあ…… 入れるよ」


よく見ると水晶玉の頂点には小さな穴があった。

それに目掛けつつ、ピンセットを小指目掛けてゆっくり刺していく。


「いつっ…… 」


ぽつん、ぽつん、と血が滴り落ちていく。

穴を通ると水みたいに、血が溶け込んでいった。


「少し待てばお主の能力値とタレントが見れるようになる 」


「うん!」


水晶玉が徐々に光だしていく。

やっとお出迎え。勇者と認められるタイミングが来た。


「おっ、来るか 」


バルクが子供のように覗き込んでいた。


しかし――


「――は? なんだこれ 」


グレンが驚いた表情で水晶を見ていた。


「ステータス不明? 」


アラナもまた怪しいものを見るようなそんな目で水晶玉を見ていた。


「タレントも霧がかかってるし――きゃっ!?」


「――うおっ!?」


刹那、水晶玉が漆黒に染まりだす。

まるで水晶玉が汚染されたように。

まるで触れてはいけない物に触れてしまったように。


そして、水晶玉に大きなヒビが入った。


「ぬ? お主ら離れるんじゃ!! 」


ギルド長が大きな声で叫ぶ。

それを境にグレンやアラナたちは避けるようにしゃがみ出す。

僕に至ってはどうしてそんな動きをしていたのかわかっておらず、グレンから叱咤の声が聞こえた。


「 坊主! 何やってる! 早くしゃがめ!! 」


「えっ――どうし」


そして、


バンッ!!


破裂音に似たような音が部屋中に響き、水晶玉が粉々に砕け散った。


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