プロローグ6
「次の方どうぞ〜! 」
自分たちが呼ばれた。
既に役所には着いていて、順番待ちをしていた。
石畳に木造建築。
驚いたことに照明はランプではなく、電気のようなものが使われていた。
せっせと呼ばれた席に向座る。
今は既に役所の中にいた。
当たり前のように役所内部は殆どドワーフで受付もまたドワーフしかいなかった。
「お久しぶりですね。バルクさん 」
「おう、1週間ぶりじゃな 」
「それで、今度はなんなんですか? 子供を預かってほしいって、ここは教会じゃありませんよ 」
「こやつが迷子になっておったんじゃよ、可哀想じゃろ 」
バルクはポンっと僕の肩を叩く。
「まあバルクさんの頼みですし仕事でもありますから、一応聞いてはみますけど、って、この子ユマニじゃないですか!? 」
受付嬢は驚いた表情を浮かべる。
どうやら僕が人間であることは伝えていなかったらしい。
この街に人間は滅多に来ない、ということから驚かれても仕方ないかもしれない。
「ユグ二の森で迷子になっておったんじゃ 」
「うぅ……。本当にめんどくさいことを……ただでさえ、最近、忙しいんですから 」
「ぼく? 年齢いくつか教えてくれるかな? 」
今度は穏やかな表情を浮かべて、尋ねてくる。
「えっと、14です 」
すると、机の下から紙を取りだし、書き込み始めた。
「14ね。よしよし。お名前は? あと出身国と迷子になった経緯を教えてくれればありがたいんだけど」
「名前は南ユウキです。 出身国は日本で、えーっと、迷子になった経緯は正直、覚えてなくて目が覚めたらここにいたと言う感じで……」
「……うーん。記憶がないってこと? 」
「そうみたいです 」
「困るなぁ…」
「どうしてじゃ? 」
「14歳ってのはいいんですよ。ユマニの国ではほとんどが満15歳で大人ですから、これなら教会が預かってくれます。その間に保護者来てくれたら大丈夫ですけど。ほかの可能性なら、ここに置いておけるのは1週間だけですし、日本って国は聞いたことがないし、名前だって見た事がない感じだし。後で書類を漁ってみますが、この場合、ユウキくんを出身国に戻せるかどうか分からないですよ 」
ほかの可能性というのは、察するに捨て子ということなのだろう。
普通の考えなら保護者が我が子を見捨てて自分の国に帰れるはずがない。
それに、ドワーフの国というのもあり、ユマニがわざわざ来ないような場所だったりすると捨て子の線が高くなる。
「なるほどの。それなら、身元不明でも受け入れてくれるところはあるのか?」
「一応、ですけどね。あんま治安が良かったりしないですけど 」
「まあ、ここにいるよりはユマニの国に帰った方が良い 」
「そうですよ。ドワーフの国では流石にユマニが生活するのはキツイと思います 」
ほかの人種がいるというのは生きづらいものではあるのだろう。
「一応聞くがユマニと連絡は取れるのか? 」
「とりあえず、一応はって感じですけれど 」
「ふむ。仲が悪いと不便よな 」
「まあ、安心して。連絡取れてないわけじゃないし、馬車もちゃんと出てるから 」
「あ、ありがとうございます 」
「とりあえずお姉さんは日本って国があったか書類を漁ってみるから僕は待機場所で待っててね 」
異世界なら日本があるわけないってのが頭に抜けていた。
多分、探してもひとつも見つからないだろう。
「ご、ごめんなさい 」
受付嬢さんが奥の方へ入っていくと僕とバルクは立ち上がり、待合席に再び座る。
バルクは座らず、時計を確認した。
「すまんな。ワシはもう仕事に戻らなきゃならん 」
「そっか。今までありがとね 」
「おう。お主も元気でな 」
そう言ってバルクは立ち去っていった。
「はぁ……。1人になっちゃった 」