プロローグ4
「ど、どわーふ? 」
なんだそれは。
と、言いたいところだが、少し聞き覚えがあった。
クラスメイトに異世界転生とか、異世界無双だとか、そういうオタク系な小説が好きな男子がいて、友達のいない僕に凄いその話をされたことがあった。
そういうのに関心がなかったから、結局、話しかけに来なくなったけど。
「え、えっと、あれですか? 鼻が高くて身長が低くて力持ちの…… 」
なんとか思い出しながら話す。
そう見るとこのじじいの体格はまんまその通りだ。
顔つきはアジアでも西欧でもないがどちらかと言うと西欧の方だろう。
瞳は碧眼。
大きな鼻にでかいイボがあり、大量に蓄えられた髭、髪の毛は肩ぐらいまで伸びていた。
身長は160くらいだろう。
自分が155だから、こっちの方が低い。
これは仮装か何かなのだろうかとそう疑いたいが、にしては出来過ぎている気もした。
「まあ、大体あっとる。ハンサムってのが抜けとるがな 」
「はぁ…… 」
「コホンッ……。それで、どうしてここにおるか、まだ答えてもらってないぞ」
「……えっと、それがですね。さっき目が覚めたばかりでなんでここにいるのか自分でも分からなくて 」
「ふむ、記憶喪失かもしれんな…… 」
じじいは手を顎に当てて少し考え込む。
真面目な表情。
それを見ると正直、冗談かと思ったけど、なんか信憑性を持ち始めた気がした。
やけにドワーフの顔の造りがしっかりしてるし。
本当に、クラスの男の子が言ってた異世界召喚だったりして……。
「頭をぶつけて記憶が混乱してるのかもしれん。気を失っていたのもそのせいじゃろう 」
それは、ちょっとまずいかもしれない。
ドッキリにしては面白くもない。
彼の話だったら初めに神様にあったりとか色々あるらしいけどそんな感じはしないし、スキルとかレベルとか、そういうのも今のところあるかわからない。
というか、変な森に放り出されて、記憶もなくて、何をすればいいとかそういうのも知らない。
徐々に焦り始めてきたが、そんな自分を尻目に目の前のドワーフはポンッと胸の前で手を叩いた。
「よし! じゃあ、ワシが役所まで送ったる! 」
「や、役所? 」
「おう。お主みたいなガキなら、一先ず預かってもらえれるじゃろう 」
「えっと、人間の街とかは無理なんですか? 」
ドワーフの街よりも同じ人間の町の方がいいかもしれない。
だけど、目の前のドワーフは首を横に振った。
「ワシは無理じゃし、人間の町はここからじゃ遠すぎる。馬車で2日はかかるぞ 」
「馬車で2日ですか…… 」
『馬車』。
これは車という概念が存在しないのかもしれない。
馬車で2日というのがどれくらいかはわからないけど、察するに時間が相当かかるのだろう。
「まあ、安心せい。お主らユマニと違ってドワーフは心が広いからのぉ 」
皮肉っぽくじじいはニヤリと笑った。
人間がドワーフを受け入れないとかそういう感じなのだろうか。
「……あはは、それは良かったです 」
「お主、名前は? 」
「南ユウキ 」
「ほう。ユマニでも変わった名前をしとる。なら、ワシのことはバルクと呼んでくれ 」
『ユマニ』って、人間のことを指しているっぽいな。
疑問に思わざる得ないことが沢山あるが、ひとまずはこの森を出ることになった。