プロローグ2
淀んだ世界が滲み霞んだ。
赤、赤、赤、すべてが赤く染まり、たださえ元は淀んでいたはものが鮮明になり、そして、その赤が感情を飲み込もうとしていた。
恐れは無い。
悲しみも無い。
ただ興奮と苛立ちが入り交じり、自分を作り上げていく。
そんな赤い世界で、なにかに手を伸ばされる。
黒かったか。
白かったか。
ただ衝動的に。
その手をつかむことしかなかったのは確かだ。
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はじめに意識したのは匂いだった。
鼻腔に流れ込んでくる空気には、甘い花の匂い。青々とした草の匂い。胸を洗うような爽快な樹の匂い。
どこだろうか。少なくとも自分の家ではないことだけは明らかだった。
次に聴覚に意識を向ける。
ガサガサと草を掻き分ける音。ピーピーと大きく甲高く鳴く鳥の声。その下で控えめに奏でられる虫の羽音。遠くから微かに届くのは犬のような遠吠え。
先程から閉じた瞼を不規則に撫でる緑の光は人工的な光ではなく、木漏れ日ではないだろうか。
意識がはっきりするとゆっくり瞼を持ち上げる。
揺れる無数の光がまっすぐ飛び込んできて、何度も瞬きを繰り返す。
「ここ……どこ? 」