エピローグ、あるいはプロローグ
瀬尾貴彦と、彼の友人達へ捧ぐ。
神のご加護を。また逢う日まで。
最後の一文を打ち込み、橋本は溜め息をついた。
達成感か。
いや、そんな一言では片付けられない複雑な感情が入り混じった、後味の悪い溜め息だった。
彼は相棒であるパソコンを眠らせて、自らも椅子にもたれた。
暗くなった画面に、疲労の滲み出た顔が反射して映っている。
「老けたな…」
そう実感するほど、長かった。
全てのことを繋ぎ、一つ一つの真相に辿り着くまでにこんなにも時間がかかってしまったのだ。
ふと、この原稿を書き上げる間に出逢った数々の出来事を思い出す。
無傷というわけにはいかなかったが、よくぞ今まで生き延びられたものだ。
そんな体験を、ありのままに綴ったこの原稿。
ノンフィクションとして世に送り出すつもりでいたが、橋本は急に不安になってきた。
仮に読んでくれる人がいるとしてだ。
どんなに考えてみてもだ。
そのうち、この話を現実のものと受け入れる人はまずいないだろう。
もはや思考する力が尽きかけている橋本は、ただなんとなく、座っている椅子をグルグル回転させた。
お世辞にも綺麗と言えない床。
そこに直に積まれた書類のビル群。
来客用のテーブルに置かれた、飲みかけのビール数本。
意味もなく部屋の中を見回していると、ある物の存在を思い出した。
机の鍵のかかった引き出しを開ける。
中に入っていたのは、メモ帳大の薄汚れた紙切れだ。
書いてある言葉を久々に読み返し、橋本は我に返った。
「何を迷ってるんだ。あれは本当に、現実に起きたことだろ」