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退屈な話  作者: 宮呂くろ
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第五章 狂人

「とうもろこしなんて、持ってないじゃない」

「そう、そう持ってない」

そう言ってニヤリと笑う暇。


あれ、私なんで名前を知ってるんでしょう。

こんなところに1人でいる変人だし、噂ででも聞いたのかしら。


「ご都合主義ですねぇ。」

「どうしましたの?」

「なんでもありませんよ。」

「ふーん。」


少し訝しげにしていたが、神楽はすぐに興味を失ったようだ。


「暇、私」



「じゃあ行こうか!」

「え、どこに?!」

急に近づき、手をつかんだからすごく驚いているようだ。

うん、驚いた顔もいいねぇ。

「ちょっと、離して下さいます?」

「まぁまぁ、とりあえずついてきてよ。」


有無を言わさず、腕を引きずり下に降りていった。




相変わらず外では部活にいそしむ生徒の姿。

下に降りてきた暇と神楽はグラウンドすぐ横の道を通っていた。


「離してくださる?」

「・・・。」

「意外と力強いんですのね、華奢に見えますのに。」

「・・・。」

「あくまで無視されるのね。」

「・・・。」


「私も無視しますわよ。」

「・・・。」

「・・・。」


「はあ――。」

「・・・。」

シュっ!!!ボカっ。


神楽が諦めと共に深いため息をついた瞬間、

暇の頭に白いボールがクリーンヒットした。



「・・・。」

「きゃっ・・。大丈夫、暇?けっこう痛そうな音がしましたけど。」

「すいませーん!大丈夫ですかー?」

ボールを投げた張本人だろうか、少年がこちらに向かって走ってくる。


「私は大丈夫でしたけど、気を付けてくださる?」

「すみません、でも怪我なさそうでよかった。」

暇のほうは見ない。


「いえ、こっちが盛大に当たっていましたわよ。」

「—――?言っている意味がよく――あ、はい!大丈夫みたいです。」

タッタッタッタッタ・・・

少年は走ってグラウンドへ戻っていった。



「あなた嫌われてますの?」

「・・・。」

返事はない。

でもさっきのは見ないというより、暇の存在にすら気づいていないかのようだった。



「はあ――。」

二度目のため息は、一回目より深かったに違いない。







「じゃーん。」

「・・・。」

ようやく話したかと思ったら、これは一体――?


目の前にデカデカと掲げられた看板にはピンクのカバのモチーフ。

カバが歯ブラシを持ち、「田植医院随時急患募集中」という張り紙もされている。

歯医者さんよね。


がちゃ


ドアをあけて入っていく暇。

「すいませーん!っていってくれる?」

「どういうこと?あなたが言ったらいいじゃ――。」

「いいからいいから。」

「もう、よく分からないけど・・すいませーん!!!!!」



「患者さんなんて珍しい!あ、いえ――どうされましたか?」

今時珍しいピンクのナース服を着た年若い女性が奥から出てきた。若干眠たそうに見えるのは、昼寝でもしていたのだろうか。


「田植先生に会いに来たっていってくれる?」

「田植先生に会いに来ましたの?」

「そうそう、だからそう答えて!」

「田植先生に会いに来ました。」

言わされてる感が強い。


まったくなんで自分でいわないんだか…



「なんだ、田植先生ね。今奥にいますから、どうぞお入りください。」

奥へと案内される。


ひそひそ

「暇が言えばよかったじゃないの。」

ひそひそ

「まあまあ。」


「お客さんですよー。」

がちゃがちゃ

「はい、入ってもらって大丈夫ですよ。それでは失礼します。」

ぺこりと頭を下げ、去っていく女性。

女性がいなくなったのを見計らって、暇はドアを開けた。


「田植先生、お客さんだよ。」

「ああー暇君!来てくれたのかね。もう来てくれないかとばかり――。おや、こちらは?いや、待てよ。暇君、この子は――。」


「うん。」

「おお。普通に見えるのに――。」

ぐるぐる

神楽の周りをまわって嘗め回すような視線を送る男性。




「なんなんですの?ちょっと、説明してくださる?」

正直、すごく嫌である。

至極当然といえば、当然だろう。

うら若き乙女の周りを、冴えないおっさんがうろつき回るのだ。



「おや、暇君から聞いてない?」

何周かしてようやく気が済んだのか、その足を止めて田植は尋ねた。

「体験したほうがわかりやすいかなーと思って。」


「体験?」

「うん、体験。」



「僕、ほかの人から見えてないんだよね。何かおかしいって思わなかった?ボール当たっても、受付に立ってても気づかれない。というより、認知されていない。」

見えていない?でもこの人は見えているみたいだけど。


「この人は特殊さ。そして、君と彼には共通点がある。」

見れば見るほどむさくるしい男だ。

無精髭に、髪は肩まで伸びて一つにくくっている。

細身で筋張った体に、爬虫類のような何かを想像させる。



自分と共通点があるようにも思えないが――。


「君さ・・。」

はっきりこちらを向いて暇はこう告げた。


「狂人なんだよね。」

そして続いてこう言う。


「あと、神様。」










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