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退屈な話  作者: 宮呂くろ
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第三章 壊れる日常、戻る日常

「ア、レ?」

分からない。

わからない。

ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ。ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ。ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ。



ナい。体ニついているものが。ナいんだ。

背中ニ、汗ガ流れる。

体に薄手の長袖の制服がべたべたとくっついて、

不快でしかない。

そういえばオ父さんお風呂上がり、いっつも裸で歩いてた。

「お風呂上がりは体についた水が下着にはりついてくっつくのキ持ち悪いからなぁ、はっはっはー!」って。

やめテって何度いったっけ?

違う、今そんなこと考えてル場合じゃないノに。


ナニ、ナニガオキテルノ?



下ろしたての上靴の底に赤黒い何かが迫ってくる。

ああ、あれだけ穏やかに風が吹いてたのに、日差しは明るかったのに。

空はいつの間にか、黒い雲が覆いつくしている。


何も聞こえない。

静かすぎる。

逆に耳鳴りがして、心臓の音がうるさい。

いっそのこと止まって欲しいくらいだ。


周りを見渡す。


校庭で白線を引いていた体育教師も。

そこで部活していた男の子たちも。

中庭のベンチでお弁当を食べていた女の子たちも。



ミンナ消エテイル。



それなのに、ナニカがイルことを

神楽は痛いくらいに感じていた。

理解したくないのに、ナニカはあり得ない存在感を示している。

普通ではない状況に、感覚がマヒしてきた。



「+d:;:;lkslf、。、clk;、。」



これは、言葉?

それとも音?

違う、言葉でも音でもない。

それともテレパシーかなにかか。


いずれにしろ神楽には届きえない。





ナニカは、どんどん近づいてくる。

見ることはできない。

見ては、いけない。

目が潰れる。


そう直感的に理解した瞬間、神楽の体は跳んだ。



――――階段を下る。

走って、走って、走って、走って走って走って、走って、走って、走って走って走って、走って、走って、走って走って走って、走って、走って、走って走った。


3階を、2階を滑るように、転がるように、落ちるように。

玄関に向かえ。

違う違う。

玄関じゃなくてもいい。

窓からでもいい。

とにかく速く。




でも、誰もいない。

おかしい。

変な笑いが込み上げてきた。

可笑しくないのに、可笑しい。



消エタ、消エタンダ。ヤッパリ。



途中で足がもつれて倒れそうになる。

息が、できない。


今度は靴が脱げた。

そんなの、もういい。



急げ、急げ急げ急げ、急げ、急げ急げ急げ、急げ、急げ急げ急げ、急げ、急げ急げ。


早ク、速ク家ニ帰ラナクチャ。

オ父サンガ、オ母サンガ待ッテイル家ニ。



坂を下る、下る下る下る、下る、下る下る下る、下る、下る下る下る、下る。

途中、美しい薔薇が咲き誇っていたイングリッシュガーデンを、

今週の土日にでも行こうと思っていたショッピング街を、駆ける。


カフェ、八百屋、魚屋、肉屋、教会、お寺、マンション、神社、住宅、住宅。


次の角を曲がったら・・・・

「あっ—――。」



そこにはいつも通りの、我が家の姿。


優しい声が聞こえてきて、神楽を包んだ。

「お帰りー!早かったのね。お昼ちょうど今作るところよ。2人分を3人分に変更ね!材料足りるかしら?あらっ?まあまあどうしたのよ?そんなに慌てて!」

庭のほうから、ひょいとお母さんが出てきた。

お母さんは手に土いじり用の手袋を付け、趣味のガーデニングをしていたようだ。


「んんー?どうしたんだい?」

玄関での騒ぎを聞きつけ、お父さんも出てきた。

お父さんは、今まで読んでいたであろう本を両手にしっかり握っている。


ほんとにこれ以上ないくらい、いつも通りだ。


「ハア・・・。ハア・・・。ハア・・。ハア・・・。」

あれだけ走ったんだ。息が止まらないのも、仕方ない。

引いていた血の気が体に巡ってくるのを、神楽は感じていた。


「よかった・・・。」

その場で膝が折れ、崩れ落ちる。

そんな神楽の様子をみて、2人は首をかしげている。


何もなかったんだ。

誰もいなくなったりなんてしてない。


「あ、鞄!お守り!」

そうだ、今鞄についていたあのお守りはどうなっている?

お守りは・・・


なかった。



やっぱりさっきのは夢に違いない。

きっと悪い夢でも見ていたんだ。

あんなこと、あり得ない。

あってはいけないんだ。


「ふう―――――。」

深いため息がでた。


人心地付いて周りをみると

2人がこちらを心配そうに見つめていた。



「い…いえ、ごめんなさい。なんでもないですわ。大丈夫。」



神楽の頬に咲いた赤い薔薇は、つうーと頬をつたい

ポタリと玄関のタイルにしみ込んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



卯月里の家の屋根の上—――


「夢じゃないんだけどねぇ。」

でも神楽から僕は見えない。

そんなこと〇〇〇〇〇のことだからと思っていたけど、

ちょっと〇〇〇〇〇する。


「嫉妬深いってのはどうやら本当らしい。

狂気度はずいぶん高いみたいだけど、無理なようだねぇ。

今回の調整は随分上手いこといっていたみたいだけど。」

見えないのか、見ようとしていないのか。


「夢オチなんて、なんて退屈な話だろう。」

もともと〇〇〇〇〇〇〇から、別にいいけど。


薄墨のお守りが、手の中で踊る。


「まったくえらいものに好かれたよ、彼女は。」

つぶやきは風に消えた。

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