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退屈な話  作者: 宮呂くろ
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第二章 出会いは突然にさよならにかわる

「あなたは普通の人とはどうやら違うようですねぇ。」

暇はうれしそうに、これまたうれしそうに言った。

今この瞬間に盆と正月にクリスマスと誕生日が訪れ、

完全な世界平和の調停でも為されたら皆こんな顔をするんではないか。


「どういうことですの?」まったく訳がわからない様子だ。

「ほらそのお守り」指は、少女の鞄につけられた紫檀色の小袋を指す。


「ん?あっ・・えっ?でも、なんでですの?」

なんでここにあるのか訳がわからない。だって・・・

「確かに私、なにかと思って拾い上げましたけど…もとの場所に戻したんです。まあ落とした方は気の毒ですが、そんなの自己責任ですし。」


「それに…。」

「それに?」


「それに…私こんな陰気なお守りなんて買うこともないですわ。」

キッパリ言い放つ。



時がとまり、昼下がりの喧騒がことさら大きく聞こえる気がする。



「くっふふっ。あーごめんね・・・でも・・・くくっ。」

暇のやまぬ笑い声が屋上に響く。


「くっくく…神様が聞いてたらショックだろうねぇ…なるほど陰気なお守りねぇ。・・・それは贈り物だよ。はぁー。この街にいる人間のほとんどが受け取っている。まあ配られ始めたのもここ何年かのことみたいだけど。」

暇は少女のあんまりな物言いに、苦笑を隠せない。



「贈り物?みんなもってる?」神楽の頭には???が飛び交っている様子だ。

しばし考える神楽だったが、ふと目の前で苦笑いしている暇の姿が目に映った。



そよそよ吹く風になびく髪は白髪で、一見銀色にも見える。

そこに黒髪が一筋メッシュをいれたように入っており、

太陽の光を反射して輝いていた。


少し幼さの残る顔だが、整った顔立ちをしているところは

一部の女子の黄色い嬌声が飛びそうだ。


既定の制服は着ているものの、校則違反にならない範囲なのか

楽に気崩している。

制服から伸びるその手には同じような小さい小袋が握られていた。


「ほらこれ。」

「同じもの?けど・・・」

「うん、黒い。あなたの持っているものとは少し違うみたいだねぇ。」


神楽の鞄につけられた小袋は確かに紫檀色だったのだが、

暇の持つ小袋は薄墨の色。


「ねえ、あなた。」

「『いとま』でいい。」


「じゃあ暇。」

「なんでしょう?」


「あなたがこの袋落としたんじゃないんですの?

街で見かけた私に一目ぼれをした。そして行く手に先回りして、わざとこれを置いてみた。」

「うん、それで?」


「普通は持って行って、何かしらのところへ届けるでしょう。信心深い神坂にいる人間なら、なおさらそうするでしょう。

でも、私は持っていかなかった。」


言葉は止まらない。

「落とし物の持ち主だといったら、拾い主の私に会えるタイミングができますものね。あなたは適当に話をしたところで、私にこれをプレゼントするつもりだった。

あなたの唯一のミスは、私が最近こちらにきた新参者だと知らなかったこと。」

「うんうん。」



「つまり先ほどのあなたの話は全部嘘ってことですわね。

たまたま私に再会できて、よかったですわね、お揃いが欲しかったんでしょう。いつの間に鞄につけたのかはわかりませんが。」


返答はない。

その代わりに暇は無言で屋上の端のフェンスのそばまで歩いていき、指をさした。


どうやら見ろということらしい。

「なにをいまさら、言い逃れできないからってなんですのいったい。」

不満げな顔をして、指先の見えるところまで向かった。


「っつ・・・。」

中庭越しに見える教室に、体操服に着替える様子の少女の姿があった。

制服のリボンに手をかけ、いままさに脱がんと・・・。

ジトっとした目で暇をみる神楽。


「あっ違いますよ!机の上!机の上!」

「机の上?あっ。」

確かにそこには、あのお守りが置いてあった。

「それにあっちも見てください。見えますか?」

「えっ」


遠くなので定かでないが、下に見える教師然な男性もお守りを持っているようだ。

よくみると花壇に水をやる用務員の男性も、子供の忘れ物を届けにきたらしい母親らしき女性も、その忘れ物を受け取る生徒も皆あのお守りを持っている。

色はどれも薄墨。


「みんなが持っているというのは嘘ではないようですわね。」

「そう、そういうこと。」


「流行のものってわけでもないのかしら。」

「それはない。あなただってこれが流行する要素あると思うかい?」


「うーん・・・ない、ですわね、多分。」

まあ神坂なら絶対ありえないとは断言できないが。


「ちなみにまたあなたが燃やしたとしても、同じように戻ってくるだろうねぇ。僕も燃やしたことありますけど、ほらこの通りですよ。」

「はあ・・。」

まったく訳が分からない。


いつの間にか鞄に取り付けられていたお守り。

神様の贈り物だから、人智をこえた力でも働いたとでもいうのだろうか。

納得できない部分は多いが、とりあえずは暇の言葉を信じてみてもいいかもしれない、なんとなく神楽はそう思った。


「まあいいです。私は神楽ですわ。神坂で暮らし始めたばかりで、慣れてませんの。

あなたはあまり他の人のようにうるさくありまんし、ひまなときにお話でもしてくれたらうれしいですわ。」

「—――――。」

「暇?」

神楽は横にいるはずの暇をみた。



刹那。

神楽の目に映るは飛ぶ白い球体。

数秒遅れ、鮮血。

緊張に喉がカラカラに乾いて、血の臭いと味が口の中に広がる。

真っ赤な真っ赤な薔薇の花が

神楽の頬に咲いた。




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