引きこもりの俺と遠慮のない彼女
あれはいつからだっただろうか。
俺は常に自分の陣地の中で布団をかぶり、書を読みあさり、たまに自分に与えられた役割をこなす。
それでよかったし、それで満足だった。
そんな悠々自適な空間にいつしか彼女は勝手にずかずかと立ち入ってきた。
「お邪魔しまーす!」
言葉とは裏腹に全然お邪魔してる感も遠慮もない彼女に俺は言い返した。
「邪魔するなら帰ってくれ。」
その言葉を聞いた彼女はやたらぶーたれて文句を言ってきた。
俺のパーソナルスペースに入ってきたくせに彼女は非常に生意気だった。
相手をするのは面倒だからと無視していたら今度は彼女は勝手に空間をあさり始めた。
「何をしてくれているんだ…」
がさごそと何かをしている所を見ていたら彼女は「じゃーん!できあがりー!」と嬉しそうに叫んだ。
そこにはきらびやかなオーブがいくつもできていた。
確かに綺麗は綺麗だったが、あくまでそこは俺が管理しているスペースだ。
「悪いが撤去してくれ。」
さすがにこれは看破できないからと頼んでみたが、彼女はまたぶーたれるばかりだった。
相手をするのが面倒なのでまた無視することにした。
気が付いたら今度はお隣さんの敷地から小さなペットが迷い込んできて彼女が”作った”スペースに棲みついてしまった。
「私が管理するからだいじょーぶ!」
何が大丈夫なのかわからなかったし、案の定彼女はしばらくすると飽きてしまってペットたちは自由気ままに生活するようになってしまった。
しかし俺個人が管轄するスペースには侵入してこなかったのであるがままに放置した。
そうやって放置ばかりしていたらいつのまにか俺の空間は凄まじくにぎやかになってしまっていた。
まあ片づけるのも面倒なのでいずれ彼女が去って全てが壊れてから掃除を始めるつもりだが。
しかし彼女は一向に去る気配がない。
いつ帰るのか聞いてみたがはぐらかすばかりで全然相手にしてくれない。
しょうがないのでまた放置した。
「ねえ、本当にわからないの?」
何が?と聞き返そうとしたが彼女のことだ、変な返答はやかましいぶーたれで返されるに決まってる。
「私ね、あなたが好きなの。」
「はあ…」
「正確に言うと好きになっちゃった、かな?最初はどうとも思ってもなかったんだけどね。」
彼女はやたらもじもじとしていたが、こっちとしてはどう返答するべきか困惑するばかりだ。
「それで俺にどうしろと?」
それからの事は正直あまり語りたくない。
とにかく彼女の遠慮のなさには際限がないことだけはわかった。
「で、こうしてこうしてこーでしょ。」
俺はどちらかというと物をつくることが苦手だ。
既にあるものが壊れないように管理・点検するのが役目だからだろうか。
それなのに彼女はやたらと俺にもののつくり方を教えてくれる。
おかげである程度習熟はできたが、このスキルが活かされることはないだろう。
そう思っていたら何を考えたのか彼女が自分の作った箱庭に俺の習作を入れてしまった。
「大丈夫ダイジョブ!」
「何が大丈夫なんだ。」
俺はそう突っ込んでみたものの、彼女は箱庭で思う存分いたずらをする悪いタチがあったので俺も心配するのはやめた。
彼女はよく自身が作った箱庭の話をする。
曰く、そこでは彼女は「地母神」「光の女神」と呼ばれているそうだ。
そしてそれに対応するかのように俺のことは「暗黒神」「邪神」と呼ばれているそうな。
好き勝手されているのはこっちの方なのに、邪神呼ばわりはめげる。
そんな、混沌の女神ユーヴァと時空の神こと俺、ケウェルの平凡な日常。
・ケウェル
通称グリムファンタジアと呼ばれる別宇宙の特定座標間をメンテナンスする時空管理の神。
神格は【安寧】。
同類の神はわりとどこの宇宙のどの空間にもいる上、性格も大体ケウェルに似ている。
その特性上、闇の神と呼ばれることも多々あるが、「間の中に立つ」という異世界の知識を同僚から聞いて納得してしまっている。
メンテに余計な手間をかけさせられ続けなければ怒らない。めんどいから。
・ユーヴァ
彼女が治める範囲では光の女神、創世の女神として広く知られている。
それらの評価は相違ないが、彼女の本質は【混沌】。
変化のなさが一番嫌いで時折自分で厄介事を創り出したりすることもある。
ただし彼女の作った箱庭の中には常に外部からの厄介事が舞い込んでくるので今のところ退屈はしていない。
むしろ外部からの厄介事が多すぎて滅びかねなかったので聖剣や勇者を創って混沌同士のバランスを保たざるを得なかったほど。
「この緊張感がたまらないのよねー!」