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お巡りさんこの人です編

俺、フリッツ=レヴィンは悶々としていた。


今年で700ン歳になる「チビガキ」(目つきの悪い神霊騎士団員談)のドラゴンである俺は、子守を任されていた。

子守といってもバックパックと同じくらいの大きさの卵だ。

確かに頭より先に手が出る、「竜にしてはおつむが足りていない」(ラナクル談)タチの俺としては子守というのはあまり向いてないが、それよりもこの卵の所在にこそ問題があった。


俺の初恋、マリア=フリューゲル改めマリア=マーマズルの赤ちゃんなのだ。

もう彼女が俺の師匠と結婚して300年は経つが、いまだにその想いは断ち切れていない。

まったくもって厄介な仕事を押し付けてくれる。


この卵も卵で、なかなかにしぶといらしい。

50年前に母親と分かたれたこの卵、温めても外からノックしても全く返事がないというのだから。

一方で中に命が宿っていないのかといえばそうでもない。

時折ランダムに振動したりゴロリンゴロリンと明らかに意思を見せるのだそうだ。

とはいえ、俺がこうやって卵と直に対面するのは今回がほぼ初めてだ。

今のところ面白い動きを見せる様子はない。


「しかし随分大きな卵だな。ドラゴン基準じゃそうじゃないのかもしれないが。」

「フレッツくん、食べたりしちゃダメだよー?」

「逆にフレッツ君が卵に食われたりしてーあはは」

「俺が今ここでテメーラ全員食ってやろうか!?」

「怒り顔もかわい~ですね~。」


ちくしょうなんなんだこいつら。

野次馬もたいがいにしろよ。

自称旅人の兄弟に、冒険者志望のこの国のお姫様に、その護衛の天然女騎士。

はっきりいって子守を見られるのには最悪のメンバーだ。


今、店は休業中だ。

思ったよりも小麦粉の消費が早くて店主負債が急いで買い出しに出て行ってしまった。

そこで同族であり、店の秘密を共有している俺が急遽ベビーシッターとして駆り出されたわけだが…


「なんでオマエラがここにいるんだよ…」

「二階の宿部屋借りてるし。」

「こないだの事件の後始末のせいで滞在期間が伸びちゃったんだよねー。」

「ラナクルさん見物ー。」

「護衛のつきそいです~。」


前者二人はまだいい。

なんで一国の王女がただの旅人を見物するヒマがあるんだ。


「ふっふっふ、それは私の人徳のなせるわざというものだよ若きドラゴンくん!」

「エナーシア=エルア=ユーヴェリア=ファーレムシルトの人徳ってなんだよ。」

「ミミウちゃんはわかる?」

「いいえ~ちっとも~?」


やっぱサボりか。

ウソ泣きモードに入った姫さんは放っておいて卵に目を戻す。

やっぱりうんともすんともいっていない。


「いーこいーこしてみたら?」

「ジェイドさん、それはセクハラですよ~?」

「お前は卵の中の性別までわかるのか?」

「なんとなくですよ~。」


ジェイドの冗談はともかく、卵は温めたほうがいいっていうのは確かにそのとおりだ。

とはいえ50年も孵らなかった卵、どれほどの効果があるかは微妙なところだが。

頭?をなでなでしてみる。


ブルブルブルブル


「な、なんだ!?」


卵が突然ひび割れ出し、亀裂から強烈な光が漏れだしてくる。


「セクハラしたから怒ったか?」

「冗談でしたのに~」

「天然ゆえのカンじゃなかったんだね」

「フレッツくん!キミの屍は有効利用させてもらうから安心して冥界に旅立つといいよ!」

「勝手に殺すな!そしていつのまにバリアを張ったんだ!ずるいぞテメー!」


知らない間に勇者専用魔法・聖光極防陣セイントサンクチュアリを張っていた姫さんにツッコミつつ卵の変化に全力で警戒する。


そして光が極限まで達した次の瞬間――。


俺の唇に温かい息吹とちょっと硬いくちばしの感触があった。

いわゆるキスであった。


「あーあーやっちまったなフレッツ。」

「これは事案だねー。」

「お巡りさんとして逮捕しますよ~。」

「大胆にして不敵!まさにドラゴン!」

「ちょっ!ちょっと待て!今のは明らかに不可抗力だろ!それにやってきたのは向こうだし!」


その犯人はのんきにあくびをしていた。

全身がプラチナのように輝く鱗に覆われているが、その優雅さは当人の気だるげな雰囲気に隠れてしまっていた。


「さあ、お縄を頂戴しますよ~お手てを出してくださいね~。」

「おれのせいじゃねええええええ!!!!」


=-=-=-=-=-=


しくじった。

そう思った時には既に手遅れだった。


私の意識はまだ母の胎内にいたころからはっきりしていた。

けれどもそこに退屈さはなかった。

眠っているだけで外から勝手に知識がどんどん溜まっていく。

与えられる知識をむさぼるのは非常に心地よかった。


卵の中の栄養分がカラになってからも私は卵の中に留まった。

生きていくだけなら空気中の魔素マナを吸収するだけで十分だったから。

その間にも私は知識を貪欲に吸収していった。

外からは心配そうな声が聞こえたりもしたが、私は誕生するつもりは一切なかった。

永遠に、知識とマナだけを糧にして生きていければそれでよかった。

そのはずだった。


ある瞬間、私は初めて渇望に見舞われた。

特殊な臭い。私だけのものでなければならない臭い。彼だけのものにならなければならない臭い。

けれど卵の中の心地よさを手放したくもない。私は必死で感情を理性で押し込めようとした。

しかし、彼は私の卵の殻を撫ぜた。

私自身ではなく、私の殻をだ。

爆発した嫉妬心は止めようがなかった。

私の感情は私の卵の殻から彼を取り返すべく卵の殻を突き破った。

そして、生まれた瞬間に彼に【マーキング】を施した。

決して誰にも奪われないように。

それが例え自分を今まで覆い守っていた殻だろうと。

それが例え自分をこの世に形成した肉親上の母親だろうと。

彼を奪うものは決して許さない。

彼から私を引きはがそうとするものも決して許さない。


そこでようやく冷静に戻った。

あまりに気恥ずかしすぎて、人生初のあくびをしてごまかした。

お姫様:ステータスバリ高系ヤンチャガール。特殊な血筋のせいで勇者兼聖女兼お姫様みたいな感じになってるヤバイ系ヒロインでもある。

本来譲渡不可能な聖剣ユーヴェリオンを扱える数少ない人物。

おばあちゃんが創造主系女神様。おばあちゃんもヤバイ。


お姫様の護衛:同盟国の公爵家三女。ド天然に見せかけた計算系魔女に見せかけたド天然。

神霊騎士団員番号67/72。本人は元他国民などの理由で辞退しようとしたがお姫様が既に登録し終えたあとであった。

政略結婚がしんどそう(特に相手方にとって)だったので渡りに船ではあったが、このお姫様は自分が言われている以上にド天然なのではないかと新たな疑惑を胸中に秘めるに至った。

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