96 竜のひげ
前回のおはなし:レジーナの知り合いの竜は危険な場所にいるので会うのをあきらめた。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の3巻が発売になりました。
「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売中です!
俺はシロの頭も撫でる。
「シロ。ゆっくり食べな。誰も取らないからね」
「ぶべええ」
シロは食べられるときに食べないと何が起こるかわからない。
そう主張している。
「そういわれたら、そうだけど……」
「もにゅもにゅ、めえええめえ」
どや顔しながらシロはお菓子を食べている。
確かにシロの言い分は正しい。
実際、大地震に見舞われたり、火災が発生したりすればお菓子どころではない。
全員お菓子を放置して、避難することになる。
「でもさ、シロ。それだと一生ゆっくりご飯食べられないよ?」
「……もにゅ」
シロは「確かに」と言っている。納得してくれたようだ。
だが、早く食べるのはやめない。早食い自体が好きなのかもしれない。
「消化にも悪いから、少し自重してね」
「めえ」
「シロは食い意地が凄いよね」
俺がそう言うと、静かにお菓子を食べていたルーベウムが顔を上げる。
そして俺の顔をじっと見た。
「そうでもない。きゅ」
「ん? なんのこと?」
「きゅるー。シロはよくご飯を分けてくれるんだよ」
「そうなの?」
「きゅる」
とても意外だった。
俺が驚いてシロを見ると、相変わらずむしゃむしゃ食べまくっている。
俺が見ているところでは食い意地が凄いのだが、裏ではご飯を分けたりしているようだ。
「そういえば、シロと初めて出会った時も自分の分を羊たちに分けてたね」
「めえ?」
シロは「そうだっけ?」とお菓子を食べながら言う。
初めてであったときは、シロは狼から羊を守っていた。
洞窟に隠れた羊のもとに、せっせと草を運んでいたのだ。
自分はがりがりになりながらも、羊たちはそれほど痩せていなかった。
「いざというとき、みんなに分けられるよう体力をつけているのかな」
どちらにしろ、シロはとても偉いと思う。
俺はシロの背中を撫でておく。
「俺もなるべく鞄の中に沢山食べ物を入れておくことにするよ」
「めぇ」
シロは「それがいい」と言っている。
「しろちゃん、えらいねー」
「めえええ」
サリアもシロのことを撫でていた。
シロもサリアに撫でられるのは好きらしい。
俺に撫でられるより嬉しそうに見えるぐらいだ。
俺はそんな神獣たちのおやつ風景を見ながら言う。
「話はそれたけど、山登りは無しで」
「そうだな、それがいいかも」
ミルトはうんうんと頷いていた。
サリアにダメと言われたら、仕方がない。
「近くに立派な竜はいないの?」
「きゅる?」
ルーベウムは「ここにいるが?」と言いたげだ。
おやつをむしゃむしゃしながら首をかしげる。
「……ルーベウム以外の立派な竜ってこの辺りにいないの?」
俺は丁寧に言い直す。
「きゅる」
ルーベウムは満足げにうなずいている。
そんなルーベウムを撫でていると、ディオンが言う。
「さすがに王都の近くには竜はいませんね」
「そりゃそうか。大騒ぎになるもんね」
野生の竜が人里近くに現れれば大騒ぎになる。
人の多い王都近くに現れたとなったらなおさらだろう。
「一番近くというとアルマディ皇国との国境線になっている山脈でしょうか」
「徒歩で一か月ぐらいかかりそうだな」
「はい、飛竜ならば数日で行けるでしょう」
「どのくらい立派な竜なのかは聞いてる?」
「千歳は超えているかと」
千歳を超えているならば、かなり立派な成竜だろう。
その竜のひげならば、いい素材になるに違いない。
「……ただ、その竜は群れを率いておりますので」
「そうなると、近づくだけで、竜が集まってくるよね」
「恐らくは」
俺は千歳の竜を殺したりするつもりはない。
お話しして素材を分けてもらうつもりなのだ。
竜のひげは人間と同じで、ゆっくりと伸びる。神経も通っていない。
ひげをどのくらいの長さに整えるかは、その竜のファッションセンス次第だ。
「千歳の竜とお話しする前に襲われるよね」
「襲われない理由がないですね」
縄張りを侵した時点で襲われるだろう。
だからといって、襲ってきた竜を返り討ちにした場合、千歳の竜との交渉は難しくなる。
同じ群れ。つまり同じ一族の者なのだ。倒した時点で敵対したことになってしまう。
お話合いのテーブルについてくれないだろう。
「話し合いできるぐらい知能の高い、幹部クラスの竜が来てくれたらいいのだけど」
「普通、縄張りに侵入した人間を追い払うのは若い竜の仕事ですから」
「……だよね」
若い竜たちを倒すのは、俺にとっては難しくない。
一頭だけなら、傷つけずに制圧することも出来るだろう。
若い竜は、神獣の竜であるルーベウムより弱いのだから。
「数が沢山いると、難しいよね」
「はい。至難の業です」
ディオンが腕を組んで考える。
俺たちの話を真剣な表情で聞いているミルトに、俺は尋ねる。
「たくさんの若い竜たちを怪我をさせずに、制圧する方法って何かない?」
「……そうだねー。室内なら眠りの雲とか使えるけど」
「外だと拡散するから難しいよね」
「あとは……」
ミルトが考えているところに、レジーナが元気に割り込む。
「おれがついて行けば、やれるって」
レジーナは自信が凄くあるらしい。




