94 弓の弦の素材 その2
前回のおはなし:ゼノビアの弓をみせてもらったりしながら、弦の材料について考えた。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の3巻が発売になりました。
「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売中です!
弓の空撃ちの大きな音にもかかわらず、ルンルンは一瞬だけ目を開けて、またつぶる。
さすがはルンルン。肝が太い。
「フルフル、ルーベウム。起こしちゃってごめんね」
「びっくりした。きゅるー」
「ぴぎぃ」
そしてまたフルフルとルーベウムは眠る。
俺は神獣たちを片手で撫でる。
「ウィル、空撃ちは弦が痛むから、なるべくはな……」
ゼノビアが遠慮がちに言った。
「あ、ごめん」
「気にしなくともよい。あまり使わぬし」
「それでもごめん」
俺はゼノビアの弓と弦に軽く魔法をかけた。
これで、耐久性は上がっただろう。
「お詫びに魔法をかけておいたよ」
「え、あ、ありがとう!」
ゼノビアは驚いたようだった。
「ユニコーンの尻尾もいい素材みたいだね」
俺は弓をゼノビアに返した。
その弓を受け取ったゼノビアも弦を何度か引いた。
「すごい。ずっと良くなってる」
「本格的にかけたわけじゃないから……そんなに変わらないとは思う」
「いや、私にはわかる」
「それならいいんだけど……」
それから俺はレジーナに尋ねる。
「ユニコーンの尻尾もいい感じに感じたんだけど、どうなの?」
「そうだね。悪くないと思うよ?」
「やっぱり、いい素材なんだね」
「悪くはないんだけど。ただ……」
「ただ?」
「普通に使っている分には申し分ないんだけど、あえていえば耐久がね」
「耐久性か……。ふむ」
ゼノビアが弓を眺める。そして、弓を思いっきり引いて、ゆっくりと戻した。
「レジーナ。それもかなりハードに使った場合でしょう?」
「うん。ウィルの言うとおりだよ。普通に使うなら問題ないかも」
巨大蜘蛛の糸よりも振動は少ないが、耐久性が低いらしい。
耐久性が低いと言っても、経年劣化は数年単位。
使用に伴う劣化も、数千射は大丈夫とのことだ。
「普通に使う分にはユニコーンの尻尾やたてがみでも充分かなー」
「つい忘れてしまうがウィルは武器作製の初心者だものな」
ゼノビアもうんうんと頷いている。
「竜のひげみたいな最高級品を使うのは、うまくなってからでもいいかも」
「それなら、巨大蜘蛛でもいいんじゃないか?」
「確かにそうかも」
使い手であるロゼッタも、秒間一射はまだできない。
「おれは竜のひげをお勧めしたいけどねー。いい品質のものを使ってこそってのもあるし」
だが、レジーナは、俺に妥協して欲しくないらしい。
あらゆる現状の全力を尽くして、最高の品を作ることで成長すると言いたいのだろう。
そのレジーナの意見もわからなくもない。
だが、俺は竜のひげを使った弓を知らないから、どれだけの質の違いがあるのかわからない。
「やっぱり竜のひげってそんなにいいの?」
レジーナに竜のひげを使った弓を見せて欲しくてそう言った。
だが、レジーナは俺が竜のひげを使うことに前向きになったと思ったようだ。
「ウィル! 一緒に竜のひげを採りに行こう!」
レジーナが目を輝かせている。
竜のひげを採取しに行くのは構わない。
だが、レジーナが同行したらおんぶに抱っこになってしまいかねない。
「えー。採りに行くなら、生徒だけで行きたいけど」
「そんな……」
「いやいや、レジーナなら一人で竜ぐらい狩れるでしょ?」
「それは、そうだけど」
「どうせ竜と戦うなら、訓練代わりになったほうがいいと思うし」
「でも、危険かもだし」
「……そもそも素材のために竜を倒すのは、ちょっとね」
俺は可愛いルーベウムの背中を撫でる。
やむを得ない理由がないのなら、賢い竜を狩るのは心が痛む。
知能の低い竜は魔獣と変わらないが、そのような竜からとれる素材の質は低い。
「それを言われると、確かに……」
レジーナも、優しい目でルーベウムを見つめている。
眠っているルーベウムの尻尾がゆっくりと揺れた。
もしかしたら、起きているのかもしれない。
「ならば、お願いしてわけてもらえばいいのでは?」
そう背後から声をかけて来たのは、ディオンだ。
ディオンはサリアを肩車して、シロを頭の上に乗せている。
「きゃっきゃ!」
「めええめえええ!」
サリアもシロも大喜びしていた。
「ディオン、ありがとう」
「いえいえ、私も楽しいのですよ」
「サリア、遊んでもらえてよかったね」
「うん!」
サリアの笑顔を見ると俺も嬉しくなる。
楽しそうなサリアに向けてゼノビアが言う。
「サリアちゃん、お菓子食べる?」
「たべる!」
サリアが元気に返事をした。
「めえええっ!」
食い意地の張っているシロも興奮気味に鳴いている。
サリアとシロはディオンに下に降ろしてもらって俺の隣に座る。
そこにゼノビアがお菓子を出す。
「あったかいココアもあるからねー」
「ぜのびあおねーちゃん、ありがとー」
「おねえちゃん!」
先ほどもお姉ちゃんと呼ばれていたというのに、ゼノビアは再び感動しているようだ。
よほどお姉ちゃんと呼ばれるのが嬉しいのだろう。
百歳を超えてお姉ちゃんと呼ばれる機会がなかったのかもしれない。
サリアとシロ、そして起きたルーベウムとフルフルがおやつを食べる。
ルンルンも、ゆっくりとおやつを食べている。
それを見ながら、俺はディオンに尋ねた。
「竜のひげって、お願いしたら分けてもらえるものなのか?」
「お願いの仕方と、その竜次第ではありますが」
ディオンは竜人族にして、竜神の司祭だ。
それゆえ、竜の生態にも詳しい。
「レジーナが弓の弦に最適だという竜のひげは成長した竜のものでしょう?」
「それはそうだな。おれの弓の弦、つまりこれは齢千を超えた竜だった」
そういって、レジーナは先ほど机の上に置いた竜のひげのかけらを指さした。




