84 輝く卵殻
前話のおはなし:ルーベウムの卵殻が輝き始めた。
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俺は卵殻から手を離すと、ディオンに尋ねる。
「これは、どういう現象なの?」
尋ねながら、俺は魔法でルーベウムの卵殻を調べる。
魔力反応はあるのはわかる。だが、それしかわからない。
俺の前世と、神々の世界で得た知識をもってしても、本当によくわからない。
「わ、わかりません。私も聞いたことも見たこともありません」
ディオンでもわからないらしい。
慌て気味のディオンと言うのも新鮮な気がする。
ミルトもゼノビアも警戒して身構えている。
レジーナは椅子に座って俺を抱きかかえたまま、武器を構える。
その間もどんどん卵殻の輝きが増していった。
「これは……。まさか……」
「わかるのか、ミルト?」
「いえ、わかりませんけど」
「え?」
思わせぶりなこと言っておいて、わからないのか。その言葉を俺は飲み込んだ。
きっとミルトは何かに気づいたのだろう。
だから俺はミルトの解説を大人しく待とうとした。
だが、ゼノビアが思いっきり突っ込んだ。
「思わせぶりな口調しやがって、それでわからんのか!」
「いやゼノビア、違うんだって。師匠、竜の卵殻は魔法的な物質ですから」
「確かにそうだね」
「竜神の使徒の卵殻なら、より特殊な物質と考えていいでしょう」
「それは、俺もそう思う」
俺が同意すると、ミルトは嬉しそうにほほ笑んだ。
「それを踏まえて、魔法で解析したのですが……」
「それで、何がわかったの?」
「わからないということが、わかりました」
「おい!」
ゼノビアに加えて、レジーナも激しく突っ込もうとする。
「待って。ミルトでもわからないということが判明したことは大きな進歩だよ」
「と言いますと?」
俺を抱える手に力を籠めながらレジーナが尋ねてくる。
「ちなみに俺もわからなかったよ」
「師匠でも?」
「恐らくだけど、神の御業的な何かじゃないかな」
「……神の御業ですか。それなら安心ですけど……」
ゼノビアの緊張が少し緩んだようだった。
「たしかに師匠でもわからないのならば、魔法的な何かと考えにくいですね」
ディオンは息をのみ、真剣な表情で卵殻を睨み続けている。
ほかの弟子たちも緊張した様子で、ますます輝きを強くする卵殻を見つめている。
シロとフルフルも、神妙な表情でじっと見ていた。
気持ちよさげに寝ているのはルーベウムだけだ。
そのままルーベウムの卵殻は輝きを増していき、ついには部屋中が真っ白になるほど輝いた。
「きゅる?」
さすがにまぶしいのか、ルーベウムが一声鳴く。
そして、唐突に輝きがおさまる。
二つの卵殻は完全に消失し、残されたのは〇・一メートル程度の少女だった。
少女の背にはきらきら光る透明な羽が生えていた。
「…………へっ?」
少女は混乱したように周囲をきょろきょろ見回している。
少女を見て俺は思わずつぶやいた。
「顔が……、人神に似てる」
似てるというより、そのままに見える。一卵性の双子よりも似ている。
違うのは大きさだけだ。
もっとも神は物理的な存在ではないので、大きさなどは関係ないのだが。
俺はその小さな少女を、怯えさせないように優しく尋ねる。
「君は?」
「えっと……ぼくはだれ?」
「……俺たちは知らないけど」
小さな少女は困った顔になる。
「うーん。師匠。恐らくは神霊の類だと思うのですが……」
「ミルトの意見に俺も賛成かな」
俺は少し考える。
「人神にすごく顔が似ているし、人神の御使い的な感じなのかな?」
「俺は師匠と違い人神さまの顔を存じ上げませんが、似ているならその可能性は高いですね」
ディオンは、優しい表情を浮かべて、少女をじっと見つめている。
「もしかして、神たちと連絡できる手段を考えるって、人神が言っていたからそれかな?」
俺が神の世界に行ったとき、姫こと人神はあまり神の世界に来ない方がいいと言った。
なぜなら、魂が神の世界にひかれやすくなり、死にやすくなってしまうからだ。
そして、何か連絡する手段を考えるから、あまり来るなと言っていた。
俺は、そのことを弟子たちに告げる。
「でも、師匠。連絡手段なら記憶を失っているのはおかしくないです?」
「それはレジーナの言う通りだね」
「でしょう?」
「何か不具合でもあったのでしょうか?」
ゼノビアがそう言うと、ディオンは首を振る。
「まさか。仮にも人神さまのなさる事。そのような不具合などはあり得ないでしょう」
「いや俺はあり得ると思うけどね」
あの人神のことだ。ついうっかりも充分考えられるのではないだろうか。
「はは。師匠は冗談がお上手ですね」
だが、ディオンは俺が冗談を言っていると思ったようだ。
人神は至高神の愛娘にして、竜人族も含めた人族全体の神さまだ。
当然ながら信者も多い。
竜神の神官でもあるディオンも、人神のことを深く尊敬しているのだろう。
人神が適当な性格をしていると、ディオンが思えないのも無理はない。
「ルーベウムの卵殻を使っての召喚だから、無理があったのかもな」
ルーベウムは竜神の眷族だ。
人神の神霊を呼び出す触媒にするには、不都合があったと考えてもおかしくはない。
「人神の眷族である俺が言うのもなんだけど……。あいつは結構適当だから」
『ウィルちゃん、相変わらず私に辛辣ね!』
小さい少女が念話の魔法のように、脳内に直接語り掛けて来た。
小さい少女自身は目をつぶり、意識がないように見える。
そして、俺にとっては懐かしい気配が空間に満ちた。
「人神か?」
『もちろん。私よ』
どうやら、小さい少女を介して人神がこちらに語り掛けているらしい。
次のおはなしで2章が終わりです。




