71 試練のダンジョン その5
前回のおはなし:ティーナが風魔法をおもいっきりうった。
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「Kiiiiii!」
大飛鼠が風魔法に巻き込まれて、舞い上がって天井に激突する。
ティーナの全力の風魔法は魔竜巻だった。
「ほう!」
強力な風の刃あたりを使うと思っていたので、俺は少なからず驚いた。
魔竜巻は魔法で強力な風の渦巻きを作り、その中を風の刃を走らせるのだ。
完全なる風の刃の上位互換魔法である。
ティーナの年齢で魔竜巻を撃てる者はめったにいない。
俺の知っている限り、俺以外では小賢者ミルトぐらいだろう。
しかもティーナの魔竜巻はかなりの威力。
だが、大飛鼠の不可視の攻撃である眩暈のせいで制御できていない。
部屋中を魔竜巻の中から風の刃が飛び出して乱舞しはじめる。
俺はロゼッタやアルティ、そして術者であるティーナ自身を保護すべく魔力障壁を展開した。
ティーナの魔竜巻は十秒続いて収まった。
力尽きたのか、ティーナは両手を床につき荒く息をする。
床に落下したばかりの大飛鼠二匹を見てティーナが言う。
「……倒せたかしら?」
「まだです」
アルティがそう言うのとほぼ同時に、大飛鼠は起き上がって床を駆ける。
四枚ある羽は全てボロボロだ。他の部分もかなり傷ついているが、まだ素早い。
ものすごい勢いで、ティーナ目掛けて突進してくる。
「そうはさせないよ!」
ロゼッタがすかさずティーナの前に出て、一匹の牙を短剣で受け止めた。
残りの一匹は、ロゼッタの横を駆け抜けて、ティーナに迫る。
それをアルティが蹴り飛ばした。そして剣で追撃する。
「KIIIIiiiii……」
あっという間にアルティはとどめを刺した。
だが、ロゼッタは、最後の一匹とまだ格闘中だ。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ!」
ティーナの風魔法のおかげで、大飛鼠は弱っている。
速さも力も落ちている。
そのため、ロゼッタは優位に戦闘を進めていた。
大きく振るわれる爪を短剣ではじき返す。
牙をかわして、無防備になった首に斬りつける。
だが、かわした直後でロゼッタも体勢が充分ではない。
その上、大飛鼠の首は太い剛毛の生えた分厚い毛皮で覆われている。
致命傷にはならない。
それでもロゼッタは、確実にダメージを与えている。
俺は力尽きているティーナの横に移動して、ロゼッタを慎重に見守った。
いつでも助けられるようにだ。
「これで! 終わりだよ!」
ロゼッタと大飛鼠の激しい戦いの末。
ロゼッタは、ついに致命的なダメージを与える。
「Kiiii…………」
「はぁはぁ……はぁはぁ」
返り血に染まったロゼッタは肩で息をする。
「おつかれさま。みんな怪我はないか?」
「あたしは大丈夫だよ。かすり傷さ」
「みんなのおかげで、わたくしは大丈夫ですわ」
疲れた表情で、ロゼッタとティーナが言う。
「私は無傷です」
アルティはもう大飛鼠四匹の解体を始めている。
「それならよかった。ロゼッタ、ティーナ、こっちに来てくれ。一応チェックさせてほしい」
そういいながら、俺はアルティの傷をチェックする。
さすがにアルティは、かすり傷一つ負っていなかった。
ロゼッタとティーナがやってくる。
「いいけど……。何をチェックするの?」
「どうぞ、何でもチェックしてくださいな」
俺は魔法でロゼッタとティーナの傷を調べる。
ロゼッタは軽症だが、爪がかすったようで血が出ている。
ティーナもひざをついたりしたせいで、擦り傷が出来ていた。
「まず、簡単な方から。ティーナは治癒だけで大丈夫だね」
俺はまずティーナに治癒をかける。
「あ、ありがとうございます。でも、わざわざ治癒をかけてくださらなくても」
「傷は色々危ないんだ。特に大飛鼠はね」
「そうなのですか?」
ティーナは首をかしげる。
ティーナは大飛鼠の生態に詳しくないので仕方がない。
「大飛鼠は疫病を媒介するからね」
そういって、俺はロゼッタの様子を改めて見る。
「ロゼッタは結構返り血もすごいな」
「あたしは未熟だからね。恥ずかしいよ」
「少し冷たいから我慢してくれ」
俺は魔法で水を作り出し少しだけ暖めて、ロゼッタが全身に浴びた返り血を洗い流す。
「あんまり冷たくないよ。ありがとう」
「それなら良かった」
乾かす必要はない。
魔法で作った疑似的な水なので、魔力の供給を止めれば消え去るからだ。
「ま、魔法ってすごいね。もう全然濡れてないよ」
「魔力で作った水だからな。魔力も節約したいが、水も節約したい」
どちらに余裕があるかと言えば、今は俺の魔力だ。
治癒術師が魔力を使い切ったティーナ一人なら、ためらわず水を使うべきだ。
そんなことを説明する。
「魔導師がいると、すごく便利だね!」
「ロゼッタ。それは魔導師の過大評価です。ウィルさまが特別なのですわ」
「そうなのかい? いや、ウィルが凄いってのはわかっているけど」
ティーナが俺の凄さを解説し始めたとき、アルティがそばにやってきた。





