43 帰還
※※6/14改稿しました。(変更点:ロゼッタの種族、ティーナの性格と口調)
前回のおはなし:総長室でお話しした。
ついに「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売になりました!
どうか、よろしくお願いします。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻も発売中です!
総長室を出た後、しばらく全員無言だった。
フルフルさえも、俺の肩の上でぷるぷるせずに静かにしていた。
子ヤギだけが元気に俺の足に軽く頭突きを繰り返している。
恐らく子ヤギにとっては親愛の情の表現なのだろう。
「よしよしよーし」
「めええぇ」
歩きながら子ヤギを撫でまくると嬉しそうに鳴く。
これから子ヤギの体は大きくなる。そうなると、頭突きも痛くなるかもしれない。
一応、言い聞かせておくべきだろう。
「頭突きは人を選んでやるようにしてくれ。それと優しくな」
「めぇ」
子ヤギは理解してくれたようだ。賢い子ヤギで助かる。
そんなことをしながら歩いて総長室からだいぶ距離が離れた。
すると、ロゼッタが足を止める。
「はぁぁあああ。緊張したあぁ」
そう言うと同時に、垂れ下がっていたロゼッタの尻尾が伸びをするようにぴんと上に伸びた。
そして、ゆっくりと揺れ始める。
この世界の人族の最高権力者である賢人会議のメンバー二人と対面したのだ。
ロゼッタが緊張するのもわかるというものだ。
「めぇ?」
ロゼッタに子ヤギが頭突きしに行った。
先ほど言い聞かせたからか、優しい頭突きだ。
この頭突きはロゼッタをリラックスさせるためのものだろう。
「子ヤギちゃんありがとうね」
ロゼッタは微笑んで、子ヤギを撫でまくる。
「ロゼッタにとっては意外だったかもな」
「うん。みんなと違って、あたしは平凡だから……」
この平凡というのは勇者の学院の生徒の中ではという意味だろう。
一般的な基準で考えたら、ロゼッタは類まれなる才能の持ち主で、とても優秀だ。
俺から見たら、勇者の学院の中でも優秀に思える。
「ロゼッタも才能あふれていると思う」
「ウィルは優しいね! お世辞でもうれしいよ」
そういって、ロゼッタは微笑む。
「わたくしもさすがに緊張したわね」
「これからは会う機会も増えるかもしれないな」
「光栄な話ね」
まだ本館の中とはいえ、全員、教団や賢人会議に関する固有名詞を避けて会話している。
良い心がけだ。俺も見習いたい。
「何か聞きたいことや相談したいことがあったら、遠慮なく俺の部屋に来てくれ」
「そっか! ウィルさまとわたくしはお友達だから、部屋に遊びに行ってもいいのよね」
ロゼッタに言ったつもりだったのだが、嬉しそうに返事をしたのはティーナだった。
「ああ、というか、俺はティーナもロゼッタもアルティもみんな友達のつもりだが……」
「わたくしも! わたくしもウィルさまもロゼッタもアルティも友達だと思っているわ!」
「私もみんな友達だと思っていますよ」
「あたしもウィルの友達さ! もちろんティーナもアルティもね!」
「……友達。えへへ」
ティーナは一人ニヤニヤしている。
何を笑っているのかと思ったら、どうやら少し涙ぐんでさえいる。
友達が増えたのがよほどうれしかったようだ。
ティーナは友達に飢えていたのかもしれない。
「ロゼッタもアルティもティーナも。俺の部屋に気楽に尋ねてきてくれ」
「うん! ありがとう!」
寮の部屋は新入生は新入生で固まっている。だから、全員の部屋は近いのだ。
そして俺の部屋はちょうどその中ほどにある。ミーティングするのにちょうどいい。
それからティーナとアルティと別れて、俺とロゼッタは託児所へと向かう。
色々やっている間に、託児所の授業終了時間は過ぎていた。
「あにちゃ!」
「ゎぅ!」
サリアとルンルンが嬉しそうに駆け寄ってくる。
ルンルンは周りの子供たちに気を使っているのか、小さな声で吠えた。
「サリア、ルンルンただいま。いい子にしてた?」
「してた!」「ゎゎぅ!」
サリアとルンルンを撫でてやる。ルンルンの尻尾はすごい勢いで揺れていた。
すぐ近くではロゼッタとローズが俺たちと同じように再会を喜んでいる。
子ヤギはサリアとルンルンを少し警戒しているのか、俺の後ろに隠れている。
そして股の間から顔を出して観察している。それを見逃すサリアではない。
「あにちゃ! だれ! かわいい!」
「まだ名前は付けてないけど、ヤギの子供なんだ」
「ふわーーすごい!」
「子ヤギ。このかわいい子がサリア。俺の妹だ。こっちの大きい犬がルンルンだ」
「めぇ」
「まっしろ。かわいい!」
サリアは俺の股の間から顔を出している子ヤギの頭を撫で始めた。
子ヤギもまんざらでもなさそうだ。
「しろちゃん、かわいいねー」
「ん? 子ヤギの名前はシロにするのか?」
「うん! しろくてかわいいから!」
「そっか。子ヤギはそれでいいか?」
「めぇぇぇ!」
名前を付けてくれて嬉しい。名前も気に入った。どうやら、そう言っているようだ。
シロ自身が気に入ったのなら何よりである。
ロゼッタの妹、ローズもシロが気になるようだ。
シロを見て、尻尾をぶんぶん揺らす。
「しろちゃんっていうの? よろしくね!」
「めえ!」
ローズとサリアに撫でまわされて、シロもご機嫌なようだ。
俺の股の間から出て、短い尻尾を振りながら、二人に体をこすりつけている。
ルンルンは興味深そうにシロの匂いを嗅いでいた。
獣同士の挨拶もあるのだろう。
それからアルティとティーナと合流して、食堂に行き夕ご飯をみんなで食べる。
そして自室に戻り風呂に入り、早々に眠ることにした。
サリアも授業開始日で疲れた様子だったからだ。
ベッドの中でサリアに尋ねる。
「授業は面白かった?」
「おもしろかった!」
「それはよかった」
「んとね、うんとね! ろーずちゃんが……」
楽しそうにサリアは今日あったことを語り始める。
そしてしばらくして、眠ってしまった。
俺はサリアの柔らかい髪を撫でながら、床で横になっているルンルンに言う。
「ルンルン、今日はありがとうな」
「……」
ルンルンは無言で尻尾を振った。サリアを起こさないように気を使っているのだ。
ルンルンは体が大きいのでベッドに乗ってこない。遠慮しているのかもしれない。
シロとフルフルはベッドに乗って眠っていた。
「ルンルンも遠慮しないでベッドに上がっていいよ」
「…………」
ルンルンは無言のまま、静かにのそのそと俺の足元の方に上ってくる。
「もっとこっちに来てもいいよ」
そう言うとルンルンはもぞもぞと俺の横に来た。
今日同行できなかった分、たっぷり撫でる。
「今日は色々あったんだ。最初は魔熊退治だったんだ。だけど……」
――バサバサ
ルンルンの尻尾が大きく揺れる。
ルンルンが一緒にいてくれた方が、戦闘時は凄く助かる。
今度、ゼノビアに学院の安全度を聞いて、安全なようならルンルンにはついてきてもらおうか。
そんなことを考えながら今日あったことをルンルンに話しているうちに眠りに落ちた。
これで一章は終わりです!





