40 獣の眷族 その2
前回のおはなし:獣の眷族と戦闘中。
6月13日前後に「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売になります!
どうか、よろしくお願いします。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻も発売中です!
「ピギイイイイイイ」
フルフルが叫びながら獣の眷族の六本足の切断面を体で覆う。
すると再生が止まった。
金色の煙をフルフルは吸収し、再生を阻害しているようだ。
「メエエエエエ!」
子ヤギは鳴きながら、小さな角から魔力弾のようなものを出す。
それが飛ぶ速度はあまり速くはない。獣の眷族の足が健在ならばあたらなかっただろう。
だが、今は足は全て切断済み。
全身を使って地面を跳ねるしか獣の眷族には避けるすべがない。
子ヤギの攻撃は、容易く獣の眷族にあたる。
あたった瞬間「バシュン!」という音が鳴り、獣の眷族の体、その肉が弾けてえぐれる。
えぐれた部分から血と金色の煙が吹き出た。
えぐれた部分は直径〇・一メートルほど。
体高十メートルの獣の眷族にとって大したダメージではないのだろう。
十秒足らずでえぐれた部分の再生は終わる。
だが子ヤギは、魔力弾のようなものを高速で連射している。
「メエエエエエエエエエ! メエエエエエエエ!」
「GAAAAAAAAA」
子ヤギの与えるダメージは、獣の眷族の再生スピードを上回る。
獣の眷族は苦しそうに咆哮しながら、金色の魔力弾を口から放つ。
だが俺の水球に遮られて効果はない。
フルフルの浸食も再生速度を上回っている。
アルティも手を緩めず斬撃を繰り出している。
どれも致命傷には至らない攻撃だが、手数を増やすことで再生を上回っていく。
「その調子だ!」
「はい!」「ピギ!」「メエエエ!」
特に子ヤギの攻撃は素晴らしい。
遅いので、動きを封じた後でなければ使いにくいが、効果は絶大だ。
「GUAAAAAA」
獣の眷族は大きく咆哮すると、あろうことか俺の水球を飲み込んだ。
このままだと、じり貧だと考えて焦ったのだろう。
最大の勝機だ。俺は獣の眷族の体内に入り込んだ水球を支配し続ける。
御曹司たちと違い、獣の眷族は魔法抵抗が高い。
俺の全力でも支配し続けるのは容易ではない。
「GAAA」
頭を覆う水球が失われたことで、口から金色の魔力弾を放たれ始めた。
「ピギイイイ!」「メエエ!」
至近距離にいたフルフルはまともに食らって、吹き飛ばされる。
少し距離のあった子ヤギはかろうじて直撃を防いだが、左前足を負傷した。
俺は水球を支配し続けることに魔力をつぎ込む。必然、防御がおろそかになる。
金色の魔力弾を防ぐために、薄い障壁しか張らない。いや、張れないのだ。
当然のように、障壁は簡単に砕け散る。即座に張りなおす。
金色の魔力弾一つにつき障壁一枚消費する。
障壁を使い捨てながら、俺は水球を動かして獣の体内を探っていった。
その間も金色の魔力弾が俺を襲う。
障壁は簡単に砕け、金色の魔力弾の破片が何度も体をかする。
そのたびに激痛が走った。
「これで終わりだ!」
獣の眷族、その魔力の核となるコア。
生物で言うところの心臓近くまで、ついに水球が到達した。
すかさず俺は土まみれの水球を爆発させた。
水神の力。つまり浄化と癒しの力。土神の力。つまり植物など生物を育てる力。
その神の力を帯びた水球だ。
獣の眷族のコアを貫き、砕いた。
「GIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
厄災の獣の眷族は断末魔の悲鳴を上げる。
傷口から常に発せられていた金色の煙が消え去る。
そして全身が灰のようなものへと変わっていく。
「倒せたのでしょうか……」
アルティは警戒しながら剣を構えたままだ。
「ぴぎ……」「めぇ……」
フルフルも子ヤギも巨大化を解除せず、身構えている。
「ああ、安心しろ。倒せたはずだ」
転がっているのは三つに砕けたコアと灰。それ以外は何も残っていない。
倒せたと思った瞬間、気が緩んだのだろう。
一気に疲労が押し寄せてくる。
だが、油断はできない。周囲に敵がいないか、魔法で探知する。
いないことを確認すると、すぐに休みたくなるが、治療と解呪も大切だ。
俺もアルティも、子ヤギもフルフルも獣の眷族の金色の魔力弾がかすっている。
傷つき死に至る呪いを受けているのだ。
「とりあえず、治療と解呪だ」
俺はまずアルティに治癒と解呪の魔法もかける。
「あ、ありがとうございます」
「あとで医務室にも行っておいた方がいい」
治癒はともかく解呪は少し難しかった。疲れている身には少ししんどい。
続けてフルフルと子ヤギにも治癒と解呪の魔法をかけておく。
「ぴぎ!」「めえ」
フルフルと子ヤギは嬉しそうに鳴いた。
そして、最後に自分に同様の魔法をかけて治療は終わる。
無事治療を終えると、俺は地面に尻をつき、足を伸ばして座った。
「めちゃくちゃ疲れた」
「お疲れさまです。私も疲れました」
「アルティ、お疲れさま。フルフルと子ヤギもお疲れ」
「ぴぎぃ!」「めぇめぇ!」
フルフルと子ヤギが元の大きさに戻って俺の足の上に乗って来た。
とりあえず、撫でる。
「ああ、そうだ、コアと灰も回収しておこう」
「そうですね、それは私がやっておきます」
「ありがとう」
アルティは獣の眷族の砕けたコアと灰を拾って鞄に入れる。
灰は大量にあるのでその一部だ。
残った灰はフルフルが再び巨大化して処理してくれた。働き者のスライムである。
それが終わるとアルティと小さくなったフルフルは、俺の横に来て座る。
フルフルは座るというか、俺の足の上にのってプルプルしているだけなのだが。
「強かったですね」
「ああ。人から魔人に。魔人から獣の眷族に二段階変化されるとは思わなかった」
「はい。私もこのケースは聞いたことありません」
どうやら珍しいケースらしい。
帰ったら、魔人について知られている知識を詰め込まなければなるまい。
そんなことを考えていると、アルティは俺が作って与えた剣を差し出した。
「ウィル。素晴らしい剣でした。今までに使ったどの剣より使いやすかったです」
激しい戦闘のあとだからか、アルティもいつもより饒舌だ。
「それなら良かった。その剣はそのまま持っていてくれ」
「よいのですか?」
「もちろんいい。だがその剣は急ごしらえだから耐久性がな。今度新しい剣を改めて作ろう」
耐久性と言っても、折れやすいという意味ではない。
時間的な劣化が早いという意味だ。腐食も早い。
そういう耐久性を犠牲にして、鋭利さと折れにくさを高めたのだ。
ひと月もたてば、今の性能の八割程度になってしまう。
「ありがとうございます。でもいいのですか?」
「もちろんだ。アルティが強くないと俺も困るからな」
これからアルティと一緒に戦う機会も増えるのだろう。
戦力は多い方がいい。
「それにしても眷族如きにこれだけ苦戦していたら、テイネブリス本体に勝つのは無理だな」
本体と戦うまでにはこれまで以上に成長しなければならない。
そう考えて俺は決意を新たにした。




