32 魔熊退治
※※6/14改稿しました。(変更点:ロゼッタの種族、ティーナの性格と口調)
前回のおはなし:村で被害について聞いた。
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どうか、よろしくお願いします。
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村を出てから、ロゼッタが言う。
「サリアちゃんも待っているし、なるべく早く済まそうね」
「そうだな」
まだ午前中。あと二時間ぐらいで正午になる。
帰り道も徒歩二時間かかることを考えると、あまり時間に余裕はない。
羊が居なくなった場所に到着すると、ロゼッタは真剣な表情で痕跡を探し始める。
ティーナも周囲を調べながら、つぶやいた。
「それにしても、この短期間で羊が十頭もいなくなったなんて。大変なことだわ」
村人から被害を聞いたら驚くべき被害の多さだった。
羊だけでなく農作物もかなりやられているらしい。
熊は雑食なので、肉も野菜も食べるのだ。
「とても大きな被害だな。村の今後に影響しそうなレベルだ」
「そうだね。ウィルの言う通りさ。もともと貧しい村だから、これからの生活が大変だよ」
「手伝えることがあれば言ってちょうだい。友達だもの!」
「ティーナ。ありがとう。でもあたしが仕送りするから大丈夫だよ」
勇者の学院の生徒には在学中生活費という名目のお金が支給される。
それを仕送りに使うから大丈夫。そう言っているのだ。
だが、勇者の学院と言えど、さすがに村の経済を救えるほどのお金はもらえない。
ロゼッタは笑顔だが、無理に笑顔を作っているのは明白だ。
「短期間で十頭の羊を食べるぐらい大きい個体なら質のいい素材も採れるだろう」
俺はロゼッタを元気づけるためにそんなことを言ってみた。
村人の目撃証言でも、かなり大きい魔熊という話だった。
だが、村人などの目撃証言は話半分に聞いておいた方がいいというのが常識である。
早朝、畑を耕しに行くと、畑を荒らしていた熊を見つけた。
とても驚いて、大声を上げると熊はゆっくりと去っていった。
この目撃証言にある「とても驚いて」というのが厄介だ。
驚き恐怖を感じた村人は、実際より熊を大きく記憶する場合が少なくない。
「魔熊の数が多いと思って動いた方がよいかと」
アルティが冷静につぶやく。大きい一個体より数が多い方が厄介だ。
だから、最悪の事態を想定しておくべき冒険者としては、アルティの考えは正しい。
「アルティの言うとおりだが、魔熊は基本群れを作らないからな」
「ですが、十頭を食べるほど巨大な熊を想定するよりも、妥当だと思います」
「そうだな。数が多い場合も多い場合で素材が沢山採れるから、それはそれで助かるな」
「はい」
そんなことを話していると、ロゼッタが立ち止まる。
「どうやら、かなり大きい個体らしいよ」
そういって、ロゼッタは大きな糞を指さした。
個体が大きい方が、数が多いよりもずっと戦いやすい。
「足跡も見つけた。ついてきておくれ」
俺たちはロゼッタの後ろをついていく。
しばらく歩いて、洞穴を見つけた。
「……恐らくここが巣だね。こんなに村の近くに巣を作っていたなんて」
「巣の中にいそうか?」
「うん。足跡から判断するに中にいるね」
「わたくしの魔法で追い出してみる?」
「さっすが、ティーナ! 頼りになるよ!」
ロゼッタが目を輝かせる。そして少し考えてから言う。
「魔法で魔熊が出てきたら、弓と魔法でひるませて、アルティが剣で倒す感じでどうかな?」
ロゼッタはパーティーの発起人でもあるので、作戦も考えてくれたらしい。
リーダー役を引き受けてくれているのだ。
「了解しました」
アルティは剣の柄に手を置いた。
「フォローは任せて。弓はいつでも撃てるようにしておくから」
ロゼッタは矢を弓につがえた。
「俺はどうしたらいい?」
「ウィルは不測の事態に対処してほしいかな」
「了解した」
いわゆる遊軍という奴だろう。パーティーの全滅を防ぐためには大切な役割だ。
全員の役割分担が決まると、
「じゃあ、いくわね?」
ティーナは直径一メートルほどの火球を作り出した。
並みの火炎魔導師よりもはるかに威力の高い火球だ。
炎神と魔神の寵愛を受けているだけのことはある。
「……おお、素晴らしい」
「ウィルさまに、褒めてもらえると、すごく嬉しいわ!」
そして、ティーナは火球を洞穴に撃ち込んだ。
洞穴の奥に到達した火球が炸裂。大きな音が響き、熱気が洞穴から噴き出してきた。
「――GAAAAAAAAA!!」
魔熊の怒りのこもった咆哮が響く。
「どうやら、まだまだ元気なようだな」
普通の魔熊なら、ティーナの火球を食らえば致命傷に近いダメージを負ったはずだ。
洞穴の中にいるのは、とても強力な魔熊らしい。
「GAAAAA!!」
すぐに魔熊が飛び出してきた。とても巨大だ。
ティーナとロゼッタが身構える。アルティがゆっくりと前に出た。
「任せて」
――ティン
抜剣と同時に目にもとまらぬ速さでアルティの剣が振るわれた。
魔熊の首が飛び、ゆっくりと倒れる。
アルティのあまりに凄まじい動きを見て、ティーナとロゼッタは息をのんだ。
それに気づくことなく、アルティはこっちを見てつぶやいた。
「終わりました」
「……アルティ。すごいわ。本当に見事な剣筋だった」
「あたしは目がいい方だけど、それでも目で追うのがやっとだったよ」
「斬った感じ、体が大きいだけの痩せてる熊です」
「え? 痩せてるの?」
驚いた様子で魔熊の死骸をロゼッタが調べ始めた。
「毛皮が分厚いから気づきにくいけど、この魔熊、本当に痩せてる」
「こいつが羊を十頭食ったわけではないのか?」
「……そんなまさか。巣穴を調べてみるね」
「俺も行こう。アルティとティーナは入り口で警戒してくれ」
大きい魔熊の巣とは言え、四人同時に入るには狭い。
「わかったわ。ウィルさま。気をつけて」
「こちらはお任せください」
そして、俺とロゼッタは慎重に巣穴へと入っていった。




