28 余暇と合格発表
前回のおはなし:15話から20話ぐらいまでを改稿した際に登場シーンが消えたティーナと再会した。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻が発売になりました!
「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が6月半ばに発売です。
どうか、よろしくお願いします。
護衛たちはティーナと俺の会話を邪魔しないよう待ってくれていたのだろう。
その護衛たちが呼びに来たということは、本当にもう次の予定までギリギリに違いない。
引き留めることは出来ない。
「ウィルさま。総長閣下との約束の時間があるから、わたくしはこれで失礼するわね」
「ああ、引き留めて悪かった」
「いえ、お会いできてうれしかったわ。学院でも親しくしてくれると嬉しいわ」
「ああ、こちらこそ。総長閣下によろしくな」
「てぃーなねえちゃん、またね!」
サリアがぶんぶんと手を振って、ティーナも手を振り返す。
そして、ティーナは本館の中へと小走りで入っていった。
ティーナの護衛たちは俺に向かって深々と頭を下げる。しばらく頭を上げなかった。
それから足早にティーナの後を追って行った。
「あっ」
俺はそこではじめて気づく。
ティーナの護衛たちは俺が治癒魔術をかけた者たちだった。
彼らはあの時、意識はなかったはずだ。だが、今の俺とティーナの会話を聞いていたのだろう。
それで、俺が治癒魔術をかけた者だと理解したのだ。
元気そうで何よりだ。
それから俺はルンルンの散歩の続きをやってから中庭へと移動する。
そこでサリアとルンルン、フルフルと遊ぶ。
サリアが楽しそうにしてくれるので俺も嬉しい。
しばらく遊んでいると、アルティもやって来た。
アルティもサリアと遊んでくれる。とても助かる。
しばらく遊んでいるうち、サリアは遊び疲れて眠ってしまった。
お昼寝の時間だろう。
「部屋に戻るか……。いや、まあいっか。ルンルン。フルフル。サリアを頼む」
「がう」「ぴぎっ」
俺はサリアを伏せているルンルンにもたれさせる。
すると、フルフルもサリアのお腹辺りに乗っかった。フルフルは掛布団のつもりだろう。
フルフルは冷んやりすることも出来るらしいが、少しだけあったかいことが多いのだ。
俺は安心して、サリアの近くで訓練をすることにした。
「私も付き合います」
「そうか? なら頼む」
アルティなら相手として申し分ない。俺はアルティと一緒に訓練することにした。
十メートルほど離れて向き合いアルティに言う。
「本気でかかってこい、と言っても無理だよな」
アルティの立場なら、八歳児に本気は出せない。
今後の訓練効率のためにも、まずは俺の力を見せる必要がある。
「とりあえず俺の攻撃を防いでくれ」
「いつでもどう――」
アルティが最後まで言うのを待ったりしない。
一足飛びで十メートルの間合いを詰めると、アルティのこめかみ目掛けて蹴りを繰り出す。
「ッ!」
アルティは即座に魔力を流した前腕でブロックした。
虚を突いたのに完全に防がれた。流石の反応である。
「いい反応だ」
俺は休まず蹴りとこぶしを繰り出して、アルティを追い詰めていく。
しばらく攻撃した後、間合いを開けて再び対峙した。
「アルティ。剣を使ってくれ」
「わかりました」
アルティはためらいなく、すらりと剣を抜いた。
俺に手加減が必要ないことを理解してくれたらしい。
アルティの守護神は剣神だ。そして剣聖ゼノビアの直弟子なのだ。
剣を抜いてからが、本領だろう。
「行きます」
「いつでも――」
俺の言葉が終わる前にアルティから斬撃を浴びせられる。後ろに飛びのいてかわした。
俺が後ろに下がる速さにアルティもついて来た。距離をとらせない作戦だろう。
御曹司たちとの戦いで魔法を見せたので、俺を魔導師と判断しているのだ。
斬撃をかわしつつ俺も拳と蹴りで反撃する。
数十秒、互いに攻撃を繰り出した後、俺はアルティの剣を持つ手を足で蹴りあげた。
たまらずアルティが剣を落とした。
「参りました」
「いい動きだった。俺もいい訓練になった」
「ありがとうございます。お師さまがウィルを上司と思えと言った理由が分かった気がします」
「それはよかった」
その時、サリアが目を覚ました。少し音を出しすぎたかもしれない。
「あにちゃ? なにしてるの?」
「アルティと遊んでいたんだよ」
「さりあもあそぶ!」
「そうですね、遊びましょう」
そして俺とアルティ、ルンルン、フルフルはサリアと一緒に楽しく遊んだ。
俺がサリアと遊びつつ、合間に訓練して楽しく過ごしていると、合格発表の日がやって来た。
合格発表は正門の前に合格者の氏名を張り出すという形で行われる。
ゼノビアが、俺は合格していると言ってくれていたが、一応見に行くことにした。
アルティ、サリア、それにルンルンとフルフルも一緒だ。
ルンルンはサリアを背にのせて、フルフルは俺の服の中に隠れている。
「あにちゃ! あにちゃのおなまえある?」
「あったな」
「すごいすごーい!」「わふわふ!」
(……ぴぎっ)
サリアは嬉しそうにはしゃいだ。ルンルンの尻尾もばっさばっさと揺れている。
一方、俺の服の中に隠れているフルフルはプルプルしながら小さな声で鳴いた。
「アルティの名前もあるな」
「はい」
アルティは仕事で学生のふりをするのだから当然だ。
だが、サリアは嬉しそうにはしゃぐ。
「あるてぃねーちゃん、すごいすごーい」
「サリア。ありがとうございます」
アルティは律儀に頭を下げていた。
ティーナ・イルマディの名前も当然のようにあった。
だが、ティーナの姿を探してみたが、見つからなかった。
ティーナは、わざわざ合格発表を見に来たりしないのかもしれない。
そして、言うまでもないことだが、御曹司たちの名前はなかった。
その日はお祝いということで、おいしいものをたくさん食べたのだった。





