22 弟子との情報交換
前回のおはなし:合格していた
もう一つの拙作「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻が発売になりました!
どうか、よろしくお願いします。
念のために、勇者の学院の最高責任者であるゼノビアに尋ねる。
「まさかとは思うが、……不正ではないだろうな?」
「もちろんです。何か特出した能力を示すことができれば合格します」
「師匠がみせた水球の操作だけで合格できますよ」
当代一の魔導師でもある、小賢者ミルトが断言した。
御曹司との決闘でみせた水球のことだろう。
「あんなに小さな水球でいいのか?」
「大きさは問題ではありません。水球を敵の体内で二つ同時に動かすのは難度が高いですから」
「敵自ら飲んだ水を操作し続けただけだが……」
自分から飲んでいないのなら、とても難しい。
無理やり口の中に突っ込む時点で、こっちの魔力と敵の魔法抵抗との対抗が発生する。
その後も魔力と魔法抵抗との対抗の連続だ。
それに一度でも失敗すれば支配権が失われる。
自ら飲ませることができれば、その対抗が半分ぐらいになる。
「たとえ自ら飲んだのだとしても、あれができるのはそうはいないですよ?」
ゼノビアが言うと、ミルトもうなずいて同意する。
「救世機関の魔導師ならできるでしょうが……。勇者の学院の生徒には難しいですね」
「そんなものか」
「それに汚物処理でみせた火球も、充分合格できる水準でした」
御曹司たちの漏らした汚物処理のために土を焼いたことを言っているのだろう。
「手続き上は、学院の総長である私が推薦しておきますね」
「そうか。ありがたいが、ずるいことをしている気がしなくもないな」
「私が推薦しなければ、あの試験官が推薦したはずですし一緒です」
「そうか?」
「試験官には、優秀な受験生を合格させる権利と義務がありますから」
「推薦での合格というのはよくあるのか?」
「よくはある事ではありませんが、まれにはあります。私の弟子アルティもそうです」
「……まあ、能力だけで言えば、師匠の従兄たちも、合格水準ですから」
ミルトの言葉は俺にとって意外だった。思わず問い返してしまう。
「む? ダナンとイヴァンぐらいで合格できるのか?」
「はい。数万匹の虫を操れるのなら、入学時の能力としては充分です」
俺の表情を見て、ミルトの言葉を補足する必要を感じたのだろう。
ゼノビアが慌てた様子で言う。
「師匠、ご安心ください。性格があれなので通しませんよ」
「もちろんです。そのためにロビーも監視しておりますし」
「ということは俺とのもめごとも最初から見ていたのか?」
「はい。試験官登場のタイミングも全て偶然ではありません」
基本静観して、本格的にまずい事態になりそうな時だけ止めるという方針らしい。
「入試については、ある程度分かった。ということで救世機関について教えてくれ」
「はい。まず救世機関についてお話いたしましょう」
俺はゼノビアとミルトから救世機関の成り立ちから説明を受けた。
魔王である厄災の獣テイネブリス。
その狂信者たちとの暗闘のために強者を集めた。それが始まりだ。
そして、暗闘の過程で厄災の獣が滅んでいないことを知った。
今はその復活を阻止するために動いているという。
「厄災の獣を復活させたい者たちか。そんなやつら居るのか?」
厄災の獣は大きな災害のような存在だ。人族にとって百害あって一利もない。
「狂信者の中には人族もいますが、その中心は魔人です」
「魔人か、それは厄介だな」
魔人はとても強力な魔物だ。
強い生命力と魔力を持ち容易に討伐できる奴らではない。
「ゼノビアたちでも一対一ならともかく、一対十ぐらいになれば苦戦するよな」
「お恥ずかしいことに、その通りです」
弟子たちはとても強い。人族の限界を超えるほどに鍛え上げられている。
それでも数が少なすぎる。多数の魔人と渡り合うのは簡単ではない。
弟子たちが救世機関という組織を作ったのは戦略として非常に正しい。
「ゼノビア。恥じることはない」
種族として人族と魔人では戦闘力が違うのだ。
人の戦闘力を中型犬に例えるなら、魔人の戦闘力は獅子に例えるべきだろう。
一人で十匹相手にできるようになるまで、どれほど研鑽が必要か俺にはわかる。
人族の限界を何度も越えなければならないだろう。
「師匠、普通の魔人なら確かに我らは一人で十匹は相手にできますが……」
「ミルト、その口ぶりでは普通じゃない魔人がいるみたいじゃないか?」
「その通りです」
「我ら複数の力を合わせなければ倒せなかった魔人もいました」
それはいくら魔人とはいえ、強力すぎる。
「なるほどな。それで救世機関を作ったのか。理にかなっている」
「ありがとうございます」「恐縮です」
自分たち四人で力が足りないのなら、強力な味方を育てるのがいい。
それに弟子たちも老いていく。後進を育てるのは大切だ。
「それにしても、厄災の獣に人族の狂信者がいるとはな」
「功績をあげれば、魔人にしてもらえると信じているようです」
生命力も魔力も高く、寿命がない魔人に惹かれる者もいるのかもしれない。
「人間が魔人になるなど、そんなことが可能なのか?」
「はい。どうやら可能なようです。実際に人間が魔人に変わるところを私は見ました」
ゼノビアが実際に見たのなら、それは可能なのだろう。
ミルトとゼノビアの説明はまだ続く。
魔人の他にも、厄災の獣の眷族と呼ばれる恐ろしく強い獣がいること。
テイネブリス教団は厄災の獣をより強い状態で復活させようと動いていること。
そのようなことを教えてもらう。
「レジーナとディオンは、教団との戦闘のために遠方に出向いているのです」
「なるほどな」
どうやら、賢人会議の者たちは交代で世界中を回って教団と戦っているらしい。
とても頼りになる。
話が一段落ついたところで、ゼノビアが言う。
「今度は師匠のお話をお聞かせください」
「そうだな。その必要があるだろう」
俺がどのような経緯でここにいるか二人に説明した。





