20 エデルの名を継ぐもの
※5/21の深夜0時ころに15話から最新話まで改稿しました。具体的な変更点はティーナとの再会がもっと後になります。
もう一つの拙作「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻が発売になりました!
どうか、よろしくお願いします。
俺が抱きしめられた瞬間、ルンルンとフルフルが身構えた。
「ウゥーーーガウ!」「ピギィ!」
「ルンルン、フルフル。落ち着いて」
「わふ」「ぴぃ」
ルンルンとフルフルはすぐに大人しくなった。
それでも、ルンルンはしっかりと俺の後ろの人物をにらみつけている。
そして、フルフルはルンルンの背から俺の右肩にぴょんと飛び移った。
何かあったとき、一緒に戦おうとしてくれているのだろう。
俺は後ろの人物に語り掛ける。
「……急にどうした?」
俺は後ろから抱きしめてきた人物が誰か気づいていた。
俺の前世の弟子、剣聖ゼノビアだ。
今は賢人会議の一人剣聖ゼノビア・エデル・バルリンクだったか。
「師匠ですよね?」
「……どうしてそう思った?」
仮に俺がエデルファスの生まれ変わりだと察したとしても、いきなり抱きつくのはない。
うかつすぎる。どのような事情があるかわからないのだ。
後で説教してやらねばなるまい。
百三十歳ぐらいのはずなのに、まだまだ子供だ。
本当に賢人会議に所属し救世機関を運用し、世界一の権力者になっているとは思えない。
きちんと権力を掌握できているのだろうか。心配になる。
「お久しぶりです。師匠」
ゼノビアはかぶっていた外套のフードをとった。
外套自体が強力な魔法の品らしい。
魔力隠ぺいと変装の強力な効果は、この外套によるものだ。
そして、フードをとることで魔法の効果がオフになった。
「なぜ私が師匠の存在に気づいたのか、ですが……」
ゼノビアが語り始めかけた。
「いや、ちょっとまて。俺が君の師匠だと言ってはいない。なぜ決めつける?」
もともと弟子たちには会いたいと思っていたのだ。
そして会った際には正体を明かす予定だった。
だが、決めつけられると「ちょっと待て」と言いたくなる。
「え? でも師匠でしょう? 魔力の雰囲気がそっくりそのままですし」
「ヴォルムスの血筋なんだ。似ることだってあるだろう?」
「それは、私の……」
そういって、ゼノビアの後ろにいた人物が前に出てフードをとった。
その人物は俺の前世の最期の時ぐらいには老けている。
容姿はだいぶ変わったが、俺には誰かわかる。
弟子の一人ミルトだ。最もオーソドックスな人間、只人族の魔導師だ。
ちなみに俺の弟子の中で一番若い。たしか百十八歳だったと思う。
今は賢人会議の一人、小賢者ミルト・エデル・ヴァリラスとして有名だ。
寵愛値測定装置を開発したのも、このミルトである。
「待って、ミルト、私に説明させて」
「わかった。ゼノビアに任せる」
説明を聞けば、なぜ俺だと判断できたのかわかるのだろう。
俺は大人しく弟子たちの説明を聞くことにした。
「まず、私が今年の勇者の学院の総責任者なんです」
ゼノビアは勇者の学院のトップである総長とのことだ。
賢人会議を代表して勇者の学院を監督するのだという。
「賢人会議はそこまで運営に口を出すのか?」
「後進の育成は我々にとって生命線ですから」
「勇者の学院の総長は賢人会議が持ち回りで勤めて、教育の質を維持しているのです」
基本的にゼノビアが説明し、ミルトが補足する。そんな感じで説明は続く。
「師匠、それでですね。私が気づいたのは――」
ゼノビアが説明を再開する。
入学願書の書類に入っていた魔法の巻物が最初の引っ掛かりだったという。
「最初はヴォルムスの血筋に、師匠の素質を引き継いだ子が生まれたのかと思いました」
「なるほど。やはりあの魔法の巻物か」
「あれは素質のあるものを見落とさないようにするための物ですから」
願書の書類セットの中に魔法の巻物があるのに気づいたときは、気前がいいと思ったものだ。
弟子たちは、優秀な人材を見落とさないで済むなら安いものだと判断したのだろう。
それがたとえ数年に一度だとしてもだ。
「魔法の才の持ち主ということでミルトに報告すると同時に、我が弟子アルティを派遣しました」
「アルティはゼノビアの弟子だったのか」
「はい。特に素質のあるものは直接弟子にすることにしています」
アルティはその素質をゼノビアに見込まれているらしい。
確かに優秀だと俺も思う。
「もし、師匠の素質を引き継いだ子がいるなら、私が直接指導するつもりでした」
ミルトは笑顔で言った。
確かに魔導師の師としては、ミルトは最高の人物だろう。
「ですが、寵愛値測定装置で、守護神が一柱と聞きまして……」
「ああ、そうだな、俺の守護神は一柱だ」
「急いでミルトにどういうことが考えられるか尋ねたのです」
「ゼノビアから事情を聞いて測定装置のログを読み色々判明しました」
ミルトは、俺がアルティに意識が飛んだものはいないかと尋ねた話なども聞いたらしい。
「総合的に判断して師匠の転生体。それも神の使徒となっての生まれ変わりと判断しました」
俺は確かに人神から神々の使徒と言われていた。とはいえ、一柱なのだが。
「それに師匠が対戦相手に使った水球の魔法は昔見せてもらいましたし」
「そうだったか?」
「はい。お腹を下させるところまで一緒でした」
ミルトは楽しそうに笑う。
「だから、私が師匠だと判断したのは勘とかじゃないんです!」
ゼノビアは力説する。
「だが、いきなり抱きつくのはまずい。もし違ったらどうするんだ?」
「私が師匠を見間違えるわけありません」
「……どこからその自信が来るのかわからないが」
なぜか胸を張っているゼノビアの横で、ミルトはずっと笑顔だ。
「ですが、師匠。もし私たちが気づかなかったらどうされたのです?」
「ん? 俺しか知らない昔のエピソードとかを用意していた」
「ほほう? どんなエピソードですか?」
「ゼノビアが四歳の時に。お化けが怖いと――」
「あっ! ああああああーーっ! 師匠、わかりましたから!」
慌てた様子でゼノビアが俺の口を手でふさいできた。
子供の時の話なのだから、恥ずかしがらなくてもいいと思う。
それも、もう百二十年以上前の話なのだし。
とりあえず、弟子二人に俺がエデルファスの転生体だということはわかってもらえたようだ。




